第69話 魔族商人との再会
(ついてないな)
王都の商人、ジークは内心、舌打ちをした。
全長四十メートル。さっきアビたちが仕留めたやつより、一回りは大きい。
七本の首が、四方八方に向いている。
(だれかが意図的に集めたな、これは。)
「ジークさん!どうする!?」
傭兵の一人が怒鳴る。
「どうするも何も、やるしかないだろ。」
ジークは短く答えた。
「囮になれるやつは首に張り付け!胴体には近づくな、踏み潰されるぞ!」
「おう!」
傭兵たちが散開する。
ヒュドラの首が一本、二本と傭兵を追う。
その隙に、ジークは懐から三日月刀を抜いた。
(こういうのは人間の姿でやるもんじゃない。)
覚悟を決める。
肌が白くなる。白目が黒く染まる。瞳が、金色に変わる。
魔族本来の姿だ。
「ジークさん!その姿は!?」
傭兵たちが思わず叫ぶ。
「うるさい、今は戦え!」
ジークは叫びながら、ヒュドラの胴体に向かって跳んだ。
三日月刀が鱗をえぐる。分厚い。人間の剣ではまともなダメージにならないはずだ。しかし魔族の膂力を乗せれば話が違う。
「フッ!」
傷口に魔力弾を叩き込む。ヒュドラが絶叫した。
「ジークさんはジークさんだろうが!」
「そうよ!敵はこの化け物大蛇よ!」
傭兵たちが声をあげ、ジークの背中を守るように散らばる。
(バカどもめ。)
嬉しそうに笑いながら、ジークは次の首に向かった。
しかし、数が多い。七本の首が縦横無尽に動き回り、炎を吐き、牙で地面を抉る。一本に集中すれば別の首が傭兵を狙う。
(きりがない。)
ヒュドラのしっぽが薙ぎ払った。
傭兵たちが石ころのように吹っ飛ぶ。
「お前ら!」
ジークが叫んだ瞬間、首の一本がこちらを向いた。
大きく息を吸い込んでいる。
(炎か。)
自分は耐えられる。だが、後ろで震えている女たちは違う。
(私は無事でも、こいつらは助からん!)
その瞬間。
雷撃の魔力を帯びた矢が、ヒュドラの首に突き刺さった。
続けて、轟音。
ズガァアア!!
空気を引き裂く雷鳴がとどろき、落雷がヒュドラを直撃する。電流が全身を駆け巡り、七本の首が同時にのけぞった。肉体が、内側から砕けていく。
断末魔が草原を揺らした。
(なんだ、何者だ!?)
ジークは上空を警戒した。
しかし、この魔力——どこかで感じたことがある。
「あら、ジークじゃない。久しぶり!」
能天気な声が頭上から聞こえた。
背の高い、美しいボディラインをした赤みがかった黒髪の美女が降り立つ。
(何者だ?)
もう一人は青みがかった髪をした美女。この霊力は、世界に一人しかいない。
「アオ様……ということは。お前、アビか!」
ジークは見違えたアビの魔力と姿に、思わず見とれた。
「こいつ、まだ生きてるのか!?」
アビがヒュドラの残骸を見る。
まだ再生しようとしている。
「気をつけろ、アビ!」
ジークが叫ぶと同時に、ダークエルフの戦士がヒュドラをさらに切り刻んだ。
首が飛ぶ。再生が追いつかない。薙刀が止まらない。
三撃、四撃、五撃——
残骸が、動かなくなった。
「おつかれ、ビゼン。」
そういうと、アビの背丈が縮んだ。ジークの知っている姿に戻る。服がだぶだぶになる。
「プ。なんだそれ。体が縮むのか。」
ジークは思わず吹き出した。
「うっさいわね。こういうスキルなのよ。おかげで服がない。」
「そうか、なら今回の礼を兼ねていいものがある。まずはみんなの無事を確かめないとな。」
ジークはそういうと、仲間の安否確認に向かった。
ジークの登場シーンは28話です。




