第63話 新たなる戦いの予感
会議室にキョウ殿下とワタシとアオ、トウマ、そしてチュウエイ、究姫、さらに群臣が控えた。
「まず、本題に入る前に、私から一言詫びることがある。」
チュウエイが切り出した。
「おい。」
チュウエイが配下に指示を出す。
何を並べるのかと思えば、とんでもないものだった。
金塊の山だった。
「知らないこととはいえ、オレはかつてアオ様に許されざる無礼を働いた。そして、アビ、貴様にもな。ここでケジメを付けておきたい。謝罪する。」
チュウエイは頭を下げた。
「なんだ?アビ、お前こいつとなにかあったのか?」
キョウ殿下がワタシに問いかける。
「ええ、ちょっと。」
(正直、こう出てくるとは思わなかった。賠償の額としては十分すぎるが。)
「チュウエイ、あんたワタシ以外にも、パーティーに入れた冒険者を殺しまわっていたわよね!」
ワタシは前に出て糾弾した。
「そういうこともあったな。」
チュウエイは動じない。
「前にも話したが、オレのスキルは【強奪】。殺した相手のスキルを奪うんだ。利用できそうなやつには死んでもらったよ。」
「よくも、国王や殿下の前で正直に言えるのね。」
「昔のことだからな。今のオレは冒険者でもない。もはや証拠もない。」
チュウエイはそう切り捨ててから、続けた。
「それより、もっと聞きたいことがあるんじゃないのか。例えば、あのハクエイの家族のこととか。」
「お前、知ってるのか。」
「ああ。ロフのやつにコウロの屋敷を襲撃させたからな。安心しろ、丁重に保護してある。ハクエイはキョウ殿下暗殺未遂の実行犯として首をさらさざるを得ない。通常であればその家族も連座を免れない。しかし、コウロに殺されたことにしておいてやった。」
(ユウさん……。)
「それだけじゃない。お前の仲間の元革命軍の連中、今はオアシスにいるだろう。顔と名前がわかっている連中の記録は削除しておいてやったぞ。感謝するんだな。」
「なぜ、ワタシたちのことをそんなに知ってるの!」
(スパイでもいるのか。)
「私が教えたからね。」
隣のアオが涼しい顔で言った。
「お前かい!」
「あの奴隷商人カクがオアシスにいることは、オレも把握していた。」
チュウエイが苦笑する。
「だが、まさかお前の仲間に捕まっているとは思わなかったがな。だから、お前は自分の力でも濡れ衣を晴らしたといってもいいんだぞ。」
(こいつに言われても全くうれしくない。)
「チュウエイ、お前の目的はなんだ?」
キョウ殿下がチュウエイに問う。
「この国を良い国にすることですよ。」
「私はお前のことは知らん。しかし、今のアビとのやり取りを見る限り、どう見てもそんなことを言う人間に見えんがな。」
「それは手厳しい。」
チュウエイは口の端を緩めた。
「たしかに先程、アビが言ったことは事実です。しかし、仕方のなかったことですよ。」
「人殺しがか?」
キョウ殿下が低く言う。
「はい、そうです。」
チュウエイの声が変わった。
「私は異世界から召喚されました。自然災害ではなく、召喚されたのです。その召喚術を研究したのは今の王家、殿下、あなたのご先祖ですよ。」
「……!?」
「異世界から召喚された人間は、生死の境をくぐり抜け、中には強大な力を得るものもいた。しかし、私にはそんなものはなかった。」
チュウエイの言葉に、初めて熱が入った。
「毎日、死に怯えていましたよ。死にかけたことも一度や二度ではない。かつての仲間も殺された。しかし、王家はそれに対して大したことはしなかった。結果、私を助けてくれたのは邪神と呼ばれているこの究姫だけでしたよ。」
チュウエイは隣の究姫を見た。
「殿下、恐れながら、王家であるあなたに私を非難する資格があるとお考えか?」
「いや、ないな。」
キョウは目を閉じ、きっぱりと、しかし苦々しげに答えた。
(キョウ……。)
「しかし殿下、それにアビ、オレがしたいのはそんなことではない。これからの話だ。」
チュウエイが前を向く。
「これからとは?」
「オレはこの国を民主政にしたいと思っている。」
「ミンシュセイ?なんだそれは?」
キョウ殿下が眉をひそめる。
「人民が自分たちのリーダーを自分で決める政治ですよ。」
チュウエイが答える。
「なんじゃそれは。そんなことできるはずなかろう。」
「殿下、私たちの世界では珍しいものではありませんでした。」
ワタシはキョウに答えた。
「……!?」
殿下がワタシを見る。ワタシがチュウエイを否定しなかったことに意外そうな顔をしていた。
「とはいえ、すぐにというわけではありません。それより今すぐやらねばならないことがある。」
チュウエイが続ける。
「それは?」
「革命軍が、前王の崩御に応じて各地で反乱を強めている。そして革命軍の本体がいよいよこの王都を目指して侵攻している。」
「革命軍……。」
「しかし、これを止める軍がいない。オレも三日天下だな。」
チュウエイは苦笑した。
「どういうこと?」
「簡単なことだ。軍がオレの言うことをきかん。」
チュウエイは両手を上げる。
「おれは傭兵、冒険者上がりだ。自分の軍を持っていない。なんなら官軍はオレが負ければいいと思っている。」
「その割には困ってなさそうね。」
「そりゃそうだ。申し訳ないが、オレはこの国に思い入れなどない。最悪、一人でも逃げ出すさ。」
(まあ、それはそうだろうな……。)
「なお、コウ将軍が反乱軍本体に向かっているがな。」
「コウ将軍……」
キョウ王女が補足した。
「我が国最強の将軍の一人だ。老獪で優秀な将軍だ。」
「だが、オレもみすみす反乱軍から逃げたくはない。そこで殿下にお願いがございます。」
チュウエイがキョウに向き直った。
「なんだ、言ってみろ。」
「殿下は兵にも人徳がおありだ。オレなどとは比べ物にならない。殿下自ら前線に立っていただきたい。」
「ふざけるな貴様!」
トウマが立ち上がった。
「殿下を戦場に立たせるなど聞いたことがない。」
「だから、お願い申し上げている。」
チュウエイはトウマを一瞥してから、アオに目を向けた。
「それに殿下が向かえばアビも向かうだろ?ということはアオ様も向かわれるはずだ。アオ様なら反乱軍などアリの大軍ではありませんかな?」
「あー、言っておくと、私は今回はノータッチだからね。」
究姫がさらりと言った。
「じゃあ、あんたが行けばすぐ終わるんじゃない?」
ワタシはアオに聞く。
「私が行ってもいいんだけどね。」
アオが少し間を置いた。
「ヨウトは勇者だから、私や究姫が直接動くと四霊が出てくるかもしれない。」
「四霊?」
(そういえば、リョウコさんが四霊法術とか言っていたな。)
「天界の神よ。」
アオが説明する。
「勇者や預言者を通じて人のために動く連中なんだけど、これが迷惑でね。」
「人のために動くのが迷惑なの?」
「そもそもヨウトが魔王ヴィクトリーを倒すよう神託を与えたのが四霊だ。」
今度は究姫が続けた。
「その結果どうなった?国は荒れて、下手すれば魔王がいた時のほうが政治的にも経済的にもマシだった。」
「アレも元をたどれば。」
アオが引き取る。
「四凶の至翼というやつがヴィクトリーに知恵をつけすぎたのが始まりでね。そして私が駆け出し冒険者だったヨウトに稽古をつけたのもあって、それを四霊が利用した。究姫、至翼によく言っておいてくれ。」
(至翼、初めて聞く名だ。)
「あいつもあいつできっと反省してるさ。最近は姿も見せない。」
究姫が肩をすくめる。
「だといいけどね。」
アオが突き放すように言った。
「よくわからないけど。」
ワタシはアオに確認する。
「ヨウトは神々の代理戦争に利用されたように聞こえるけど、合ってる?」
「まあ、そうだね。だから私も多少反省して、数十年田舎に引きこもっていたんだよ。」
アオが続ける。
「今回は人の問題だから、アビ、それにキョウ、あなたたちはできるだけ助けるけど、手は出したくないというのが本音。私もこれ以上ヨウトに嫌われたくはないしね。」
「あんたヨウトに嫌われてるの?」
「彼は神や悪魔を嫌っているんだよ。」
「話を戻すが。」
チュウエイが静かに割って入った。
「殿下が戦場に出れば兵たちも奮い立つ。いかがですかな、殿下。」
「わかった。それは望むところだ。」
キョウが立ち上がった。
「しかし、チュウエイ、カイに、いや陛下に害をなしたら許さんぞ!」
「御意。」
チュウエイは不敵に笑った。
「では、オレはやることもあるので失礼する。究姫、お前もアビに用があると言っていたな。好きにしろ。」
そう言うと、チュウエイは部屋から出ていった。
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