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冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
桃園血盟~後宮~編

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第58話 戦いの始まり

「キョウ、ここを直ぐ離れないと。」


膝をつく崩れる殿下の肩にそっと手を置く。


立ち上がった彼女はもうないていなかった。


「そうだな。まずは叔父上と落ち合おう。トウマ、叔父上、シン将軍の居場所はわかるか。」


「こちらに向かっておられますが、これは…‥」


トウマがいわなくてもわかった。


宮廷に強力な魔力を感じた。


妲姫の言っていた通り新たな悪魔が降臨したようだ。





シン将軍による襲撃の数時間前――


レツオウは娘、ハオと若き幕僚にしてハオの友、コウキを王都南門に送り出していた。


「ではコウキ、ハオを頼むぞ。ハオもコウキを困らせるなよ。」


そういって、レツオウは愛娘を見つめた。


幼い日を思い出すように。


「やめてくれよ。父上。私もいつまでも子供じゃない。」


赤い髪に三つ編みの勝ち気な少女がすねてみせる。


「命に変えましても。」


コウキと呼ばれた美しい青年が深く頷く。


「コウキ、お前も大げさなんだよ。私たちがちょっと先に出るだけじゃないか。」


ハオは肘でコウキの脇腹をつつく。


「ああ、オレも数日後には国に戻る。あのボンにもよろしくな。」


レツオウはハオの弟をボンと呼び、笑った。


「じゃあな。父上。元気で。」


ハオはそれだけ言って馬車に乗り込んだ。


レツオウは動かなかった。


馬車が動き出しても、南門の外に消えても、しばらくその場に立っていた。


誰も見ていない。


だから、その一瞬だけ、目を閉じた。




馬車の中で、ハオは顔を乗り出して父の姿を見ていた。


小さくなっていく背中を、見えなくなるまで。


父の姿が消えると、ハオは静かに涙を流した。


「どうしたハオ。別れといっても数日後にまた会えるじゃないか。」


コウキは冷静を装って声をかけた。


「コウキ、父上は死ぬつもりなのだろう。」


「お前、何をいってるんだ。」


コウキは否定した。しかし声は上ずっていた。


「あのコウロが私を解放するはずがないだろうが。」


コウキは言葉を返せなかった。


「……ああ。」


コウキは目を伏せた。


「だが、それでも止められなかった。」


ハオは答えなかった。


窓の外を流れる景色を、ただ見ていた。


しばらく経って、ぽつりと言った。


「しかし、私は父上が帰ってくることを信じる。あの人は必ず約束を守ってくれる。」


「そうだ。」


コウキは静かに笑った。


「何があろうと、レツオウ様が敗れるはずはないのだ。」


「故郷か。」


ハオは目を細めた。


「久しぶりだが、南は熱いんだろうな。」


その声は穏やかだった。


泣いていないような声だった。









そんなレツオウの様子を、影から見ていた男がいた。


黄金の鎧に身を包んだ男、チュウエイ。


その隣に、鋭い目つきの大柄な男、ロフが立っている。


「いよいよレツオウは覚悟を決めたようだな。コウロに歯向かう気か。」


ロフが低く言った。


「それはないだろうよ。コウロはいまや次期国王の後継人だ。歯向かえば逆賊となる。」


チュウエイは南門の方向を見たまま答えた。


「キョウ王女を殺す覚悟ができた。それだけだ。」


「それでは俺たちはどうする?」


「俺はとりあえずコウロの命令通り、宦官どもの護衛をする。」


「では、やはりコウロにつくのか?」


チュウエイは答えなかった。


少し間を置いてから、こう言った。


「お前は軍をまとめておけ。いつでも動けるようにな。」


「……わかった。」


ロフはそれだけ答えた。


チュウエイは南門の方向から視線を外した。


娘を送り出したレツオウの背中が、まだそこにあるような気がした。


(レツオウ、馬鹿な奴だ)


チュウエイの口の端が、かすかに上がった。


天をとれるチャンスがあるのにそれに気づかぬとは。


(さて、レツオウよ。うまく踊ってくれよ。オレのためにな。)


黄金の鎧が、夕闇の中でくすんだ光を放った。





ショウ=エン公爵の邸宅


「宮廷を襲撃するなど正気か?」


アマンはショウの私室でショウに詰め寄る。


「私が決めたことではない。」


ショウは窓の外を眺めながらアマンの問いに答える。


「国王陛下が亡くなられたばかりだぞ。葬儀すらまだではないか」


「だからだ。このままではカイ殿下が王位につかれる。リョウコ殿が反逆したという話、お前も信じているのか。」


「ありえないな。キョウ殿下が王位につこうが、カイ殿下が王位につこうが、彼女には何の特もない。無理を言って、田舎から呼び寄せたのは陛下だからな。」


ショウ公爵の前でアマンは足を組み、横柄に答える。


ショウもアマンのそんな態度を気にもしない。


「百歩譲って、十二常侍たちやジヨウなどおもな宦官だけ粛清すればいいものを。」


「今回の狙いは宦官だけじゃない、宮廷にいる刻印持ちの連中もだ。」


「刻印持ちの連中も?なぜだ?」


アマンはアビの顔を思いだす。


「宦官どもはどうも宮廷に刻印持ちの人間を集めているらしい、どうも彼らを生贄に強力な悪魔を呼び出そうとしているらしい。」


「なんだと?」


「だから、そうなるまえにできるだけ刻印持ちの人間を殺しておかねばならん。」


「ばかな。それでは彼らは騙された被害者ではないか!?」


アマンは立ち上がって怒りを表す。


「わかっているさ。しかしどうにもなるまい。」


ショウは肩をすくめる。


(アビ、死ぬんじゃないぞ。)


アマンは拳を握りしめるかしかなかった。



そして現時刻――


最初に気づいたのは、音だった。


宮廷の石畳が、割れた。


地面の下から何かが押し上げてくるような振動。


次の瞬間、宮廷の中央から黒い柱が噴き上がり、夜空を切り裂いた。


柱ではなかった。


腕だった。


それが六本、地面を掴んで引き上げるように、悪魔が這い出てきた。


背丈は5メートル。


三つの顔を持つ頭部が、夜空に浮かび上がる。


正面は口も鼻もない。ただ、真っ赤な目が二つ、ぎょろりと動いた。


左には若い男の顔。右には女の顔。


三つの顔が、それぞれ別の方向を向いて、周囲の人間を見渡した。


「久しぶりの物質世界か。」


声が、重なって聞こえた。


男の声と、女の声と、何とも言えない第三の声が、同時に口から出ていた。


「張り切ってしまいそうだ。」


三つの顔が、同時に笑った。


兵たちが後退する。剣を構えたまま、足が動かない者もいた。


「私は四凶、至翼様の眷属、六翼。契約に従い、お前たちを殺さねばならん。」


六本の腕が、それぞれ魔力を凝縮させ始めた。


漆黒の光が、腕の先に大剣の形を結ぶ。


「悪く思うなよ。」


そして虐殺が始まった。



大剣が一閃するたびに、空気が断ち切られる音がした。


六本腕が別々の方向へ同時に振るわれ、兵たちが吹き飛ぶ。鎧ごと、盾ごと。


「なんだあの化け物は!」


大将軍シンが自ら剣を抜いて構えた。


「将軍!お下がりください!」


ショウが前に出てシンを制する。


「兵たちが戦っているのに私が逃げることはできん!」


シンは怒鳴り返した。しかし、その声は震えていた。


遠く、六翼の赤い目がシンを捉えた。


「なかなか勇ましいな、将軍どの。」


次の瞬間、六翼が消えた。


いや、跳んだ。


5メートルの巨体が、地を蹴った。


衝撃波が広がり、周囲の兵たちが吹き飛ぶ。六翼はその間をすり抜けるように、一直線にシンへ向かった。


大剣が振り上がる。


「させるかあ!」


ショウが割り込んだ。


両手で剣を構え、落ちてくる大剣を受け止める。


受け止めた。


しかし次の瞬間、ショウの体は羽のように宙を舞っていた。


六翼の男面が笑う。


しかしその刹那。


宙を舞ったまま、ショウは体を捻っていた。


壁を蹴り、落下の勢いを横に変え、六翼の死角から胴体へ刃を走らせる。


「何!?」


六翼が振り向く。


その右腕の上腕が、根元から切り飛ばされていた。


音が遅れてきた。


『四霊法術・鳳凰天破コード・フェニックス・ディスラプト!』


いつの間にか六翼の正面に立っていた男が、右手を六翼に向けていた。


赤い髪。


アマンだった。


その手から放たれた炎は、炎ではなかった。


鳳凰だった。


翼を広げ、咆哮を上げ、六翼の全身を包み込む。白と赤の光が宮廷を昼のように照らした。


「ぐわあああああ!」


六翼の三つの口が、同時に叫んだ。


「やったか!アマン!」


ショウが叫ぶ。


炎が収まっていく。


焦げた空気の中に、影が立っていた。


「ホホホホ。」


女面が笑っていた。


全身が焼けただれている。腕は五本になっていた。


しかし、焦げた皮膚の下から、新しい肉が盛り上がってくる。


「なかなかおもしろいな。今の連携と術は、なかなかだったわ。」


腕が再生される。皮膚が塞がる。


「さあ、第二幕をはじめようか。」


三面が再び赤い目の仮面に戻った。


「不死身というわけではなさそうだな。」


ショウが剣に魔力を込め、静かに構える。


「ひるむな!」


アマンが振り返り、兵たちに向かって声を上げた。


「「おおおおお!」」


兵たちの目が変わった。


「ショウ様とアマン様につづけ!」


一人一人が、一騎当千の猛者だ。


やれる。


その確信が、宮廷に満ちた。







「カイ!」


「お姉さま!」


廊下の角を曲がった先に、カイ王子がいた。


数人の兵士に囲まれている。一瞬、保護されているのかと思った。


次の瞬間、兵士の一人がカイ王子の首元に剣を突きつけた。


「殿下、おとなしく我々とともに来ていただけますか。」


廊下の奥から、男が歩いてきた。


一歩ごとに、空気が変わった。


虎のような四肢。


しかし、その足音は聞こえない。


歴戦の武人だけが持つ、静かな重さ。


「なんのつもりだ貴様!」


キョウ王女が叫ぶ。


ワタシは殿下の前に出て、剣を構えた。


「私はコウロ公爵の配下、レツオウと申します。カイ殿下とキョウ殿下を保護にまいったのです。」


「保護しに来た奴が、王子の首元に剣などつきつけるか!」


レツオウは答えなかった。


ワタシは素早く状況を把握する。


カイ王子を押さえる兵が三人。レツオウの背後にさらに数人。レツオウ本人は剣を抜いていない。


(間違いなくこいつは強い。)


剣を抜いていないことが、逆に怖かった。


(王子を人質に取られた。どう動く――)


その瞬間、風が吹いた。


廊下の空気が、一瞬で動いた。


何かが駆け抜けた。


カイ王子の首元にあった剣が、弾き飛んでいた。


兵士が三人、壁に叩きつけられていた。


カイ王子を抱えたまま、一人の女が着地した。


「リョウコさん!」


リョウコさんはすでに若返っていた。【限界突破オーバードライブ】を発動した全盛期の姿で、息一つ乱れていない。


「待たせたわね。」


「現れたか、英雄リョウコ。」


レツオウの声が変わった。


低く、静かに。初めて剣に手をかけた。


「だが、俺も負けるわけにはいかんのだ。」


『猛虎炎斬!』


剣が炎をまとった瞬間、レツオウが踏み込んだ。


速い。


炎をまとった剣が、縦に振り下ろされる。


「ハッ!」


リョウコさんは両手で受け止めた。


火花が散る。石畳が焼ける。


次の瞬間、リョウコさんがレツオウを蹴り飛ばした。


レツオウの体が後方に吹き飛ぶ。壁に激突する寸前で体を捻り、壁を蹴って体勢を整えた。


(どっちも化け物か。)


「アビ!」


トウマの声。


残りの兵士たちが動いていた。


ワタシとトウマは両殿下の前に立ち、剣を構える。


数は五人。いずれも練度が高い。


一人目が踏み込んできた。


剣筋を読んで、受け流す。カウンターで鳩尾に肘を打ち込む。崩れたところをトウマが蹴り飛ばす。


二人目、三人目が同時に来た。


(速い。)


奥の手はまだ使えない。使い時を間違えれば、ここで終わる。


リョウコさんとレツオウの激闘で炎の熱が、廊下を焼いていた。


(レツオウだけじゃ終わらない。)


ワタシはそんな予感がしていた。



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