第263話 尋問
バシャ。
ダークエルフの男、禍斗の顔に、水が浴びせられた。
「気がついたか。最低限、喋れるようにはなったと思うが」
禍斗は、他のオークたちとともに捕らえられ、魔力の鎖に繋がれていた。
ハオの参謀コウキは、その場で尋問を始めた。
「お前の知っていることを話せ。どこから来た? 背後にいるのは誰だ? 驩兜とは何者だ?」
ハオは少し離れて、その様子を見ていた。
「クククク、お前たちは終わりだ。今なら、俺が驩兜様と話をつけて……」
グサ。
その瞬間、オーガの戦士、周鬼が、男の太ももに刀を突き立てた。
「ぐわああ!」
男は悲鳴をあげた。
そして、目をつぶって呟いた。
「殺せ。俺はなにも話さねえ」
「しかたない。宵喬、頼めるか」
コウキは、横に控えていた銀の角をもつ魔人の女に声をかけた。
「わかりました。周鬼、手伝ってください」
周鬼が禍斗の頭をつかみ、宵喬のほうへ向かせた。
宵喬は、禍斗の両目を指で無理やり開かせた。
「お前は、その驩兜の部下なのか?」
宵喬がそう問うと、男の瞳が青く輝いた。
しかし、禍斗には、自分が何をされているのかわからなかった。
「そうみたいですね」
宵喬が呟いた。
そこで、禍斗は気づいた。自分に、読心術のようなスキルがかけられているのだと。
おそらく、条件は、瞳を覗きこまれること。
禍斗はなんとか逃れようと暴れた。
しかし、上半身を周鬼に押さえこまれ、頭も固定されて、身動きひとつできなかった。
「コウキ様。質問を。ただし、はいか、いいえで答えられるものしかだめですが」
宵喬は、コウキのほうを振り返った。
「そうだな。では、お前は直接、その驩兜の命令で動いているのか?」
コウキが問い、宵喬が禍斗の瞳を覗きこむ。
今度は、禍斗の瞳が赤く光った。
「なるほど。こいつは、驩兜の直接の部下というわけではないのか。質問のしかたが難しいな。では、お前はこれから、自分の直接の上司か雇い主のところに逃げるつもりだったのか?」
瞳が、青く光った。
「では、そいつは、ここから遠くない距離にいるのか?」
再び、禍斗の瞳が青く光った。
「なるほど。そうやって、相手を絞っていくわけか」
コウキの尋問を見ていたハオが、感心したように頷いた。
その時――
「た、たのむ。く、薬をくれ」
縛りあげられていたオークの一人が、急に苦しみだした。
「どうした? 何か病気なのか?」
コウキが、そちらに顔を向けた。
「あれだ、あの薬だ」
オークは、机の上の瓶を、目と顎で示した。
コウキは瓶を手に取り、中の薬を眺め、解析スキルにかけ、匂いを嗅いだ。
「なんだ、これは。見たことがない。特に変わった様子はないようだが」
「た、たのむ、早く!」
「わかった。一つでいいのか」
コウキは怪しみながらも、薬と水をオークに飲ませた。
ゴク、ゴク。
「はああああ。すまねえ。落ち着いた」
オークの肩から、力が抜けた。
「なんだ。何かの病気なのか」
そう聞いた時、コウキは、なぜか禍斗が視線をそらしたことに気がついた。
「おい、この薬は、そこの男と何か関係があるのか?」
「ああ、そいつを飲めば、恐怖心が消えて、何でもできる気になるんだ。それだけじゃねえ。力が膨れあがって、魔獣にも負けねえ。もっとも、そこのオーガのダンナには通じなかったみたいだけどな」
オークは、周鬼のほうを見た。
「たしかに、不思議だった。貴様らは全員、オークにしては力が強く、我ら上位魔人にも挑みかかってきた。ただの野盗には、とても見えなかった」
周鬼は、禍斗を押さえこんだまま言った。
「これは、お前がこのオークたちに与えたのか?」
コウキが、禍斗に問う。
禍斗は抗ったが、どうしようもなく、瞳が青く輝いた。
「ハオ。このダークエルフは一度アジトに連れて帰って、詳しく尋問し、この薬も研究する必要があると思う。オークたちはどうする? もう聞くことはないので、殺すか?」
その言葉に、オークたちの顔色が変わった。
「助けてくれ! もう悪さはしねえ!」
「ここから出ていく!」
「頼む!」
オークたちは、口々に命乞いをした。
「わかった。じゃあ、私の家来になれ。仕事をやる。そのかわり、また悪さをしたら許さないからな」
オークたちは、涙を流して喜んだ。
一方で、禍斗は、憎悪の眼差しでハオを睨みつけていた。
その夜、禍斗は、牢屋の壁に自ら頭を叩きつけて死んでいた。
◇
その報告を、ハオとコウキは翌朝聞いた。
「まさか、そこまでやるとは。忠誠心などない連中だと思っていたが、甘く見ていた。すまない」
コウキは自分の非を認め、ハオに頭を下げた。
「いや、お前のせいじゃない。この辺の連中は、金と食糧さえ与えれば、すぐにこっちにつく連中ばかりだと思っていた私にも責任がある。それより、ちょっと相談がある」
「なんだ?」
「歓楽都市オアシスの、スカーレットに会いに行こうと思う。スカーレットなら、その驩兜や姒鯀のことを知ってるかもしれない」
「朱雀竜様にか!? 危険だ」
「あれだろ、スカーレットをハメて、コウロの軍を10万消させたことを気にしてるんだろ? 大丈夫だって。スカーレットからしたら、そんな細かいこと、忘れてるよ」
「細かいって……お前」
「それに、あの魔王アビのことも、スカーレットなら知ってるだろ。だいたい、アビってやつは魔王で、私はなんで『小』魔王なんだよ!」
「いや、とにかくだめだ。朱雀竜様に関わって、いいことなんかない」
コウキは、ぴしゃりと拒んだ。
「だったら、勝手に行くけど、いいんだな。それで、スカーレットに、お前が彼女を利用したってバラすけど、いいんだな!」
「ばか! よせ! わかった! ただし、私もついていくからな」
コウキは慌てて、敗北を宣言した。
ハオは、にんまり笑って頷いた。
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