第262話 オークを襲撃する
「死ねええええ!」
オークが、棍棒を周鬼の頭めがけて叩きつけた。
ドン!
周鬼は、丸太のような左腕で棍棒を受け止めた。
「ふん!」
右手の大剣が、オークを袈裟懸けに斬り下ろす。
血しぶきが飛び散った。
しかし、周鬼は違和感を拭えなかった。
ふつう、オークが戦闘種族のオーガに正面から向かってくるなど、ありえないのだ。
「周鬼! 全員は殺すなよ。何人かは生かしておけ! 事情を聞きたい!」
そう言いながら、ハオ自身も、アジトの中へ駆けこんでいった。
「ハオ! 先走るな!」
コウキの制止も聞かず、ハオはまっすぐに、違和感の先に向かって走った。
オークたちが、ハオの前に立ちふさがる。
しかし、彼女が掌で触れると、オークたちは頭から湯気を吹き出し、次々と絶命していった。
彼女の能力の本質は、炎である。
手加減なしに使えば、建物ごと全焼してしまう。
ハオは、オークの脳の血管だけを、確実に焼き切っていた。
◇
「クソ! 早すぎる! もう来やがったか」
仮面の男は人質の女を放り出し、村の中へ逃げ出した。
しかし、ハオの魔力感知は、男の魔力を正確に捉えていた。
ドン!
上空から、火の玉が降り注いだ。
「なんだ!」
男は思わず、あとずさった。
「お前が、オークたちの黒幕か」
ハオが、男の前に立ちはだかった。
全身に魔力の炎をまとい、近づくことすらできない。
(なんてやつだ。小魔王というのは、伊達じゃないってことか)
「助けてくれ! 俺はオークたちに捕まっていて、命からがら逃げ出してきたんだ! あんたが、オークを襲撃してくれたのか?」
ひと目で敵わないと悟った男は、被害者を装うことにした。
「おかしなことを言うね。隠しているようだけど、お前の魔力は、あのオークたちよりずいぶん大きい。そんなやつを、オークたちはどうやって捕まえたんだ?」
ハオの魔力感知は、男が隠していた魔力も、正確に読み取っていた。
(そこまでわかるのか!? ならば)
男は仮面を外した。
そこには、漆黒の肌をもつエルフの男の顔があった。
「ダークエルフか」
「ああ、そうだ。だから、魔力は俺のほうが大きいかもしれん。しかし、あんなオークたちが群れになったら、俺が勝てるわけがないだろう。この通りだ、見逃してくれ」
男は地面に両手をつき、降伏の意思を示した。
必死に、嘘で乗り切ろうとしていた。
「わかった、信じるよ。でも、私の仲間に、嘘を見抜ける能力をもつやつがいる。そいつに調べてもらって、問題がないと確信したら放してやる。それに、そろそろ私の仲間たちが、連れ去られた女性たちも助けてるだろう。彼女たちに聞けばわかるはずだ」
「クソ!」
男は短刀を抜き、ハオに襲いかかった。
ハオが掌を向けると、そこから炎が吹き出し、男を包んだ。
「ぎゃあああああ!」
男は地面を転げ回り、炎を消した。
だが全身は焼けただれ、もはや逃げる力は残っていなかった。
◇
「これで全部か」
コウキが見回すと、動いているオークはもういなかった。
死んでいるか、動きを封じられて捕らえられていた。
「おい、そこのお前。そこに転がっている仲間のようになりたくなければ、知っていることを全て話せ」
コウキは、魔力の鎖に繋がれたオークを見下ろした。
「オレたちは、仮面のダークエルフ、禍斗ってやつに雇われたんだ。その禍斗には、あの驩兜様がついてるんだ。おめえたちも、こんなことをしてただで済むと思うなよ。ヘヘ」
オークは、嘲るようにコウキを見上げた。
その瞬間、宵喬の目から魔力弾が放たれ、オークの腹を貫いた。
「オオオオ!」
オークは血を吐いた。それを見た他のオークたちの顔色が変わった。
「その驩兜に殺されるか、今ここで私たちに殺されるか、協力して生きるか。どれが得か、考えるまでもないと思いますけど」
宵喬の冷たい視線を受けて、生き残ったオークたちは黙って頷いた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
鎖を解かれた女たちが、涙を流しながらコウキに頭を下げた。
「クンクン? なんだ、妙な匂いがするぞ?」
コウキが鼻をひくつかせた。
すると、全身を焼かれた男を担いで、ハオが現れた。
ハオは男を床に放り出した。
男の全身は焼けただれ、息はしているものの、もはや意識はなかった。
「かろうじて生きてるが……暁喬、回復魔法をかけてくれ。ちょっとやりすぎた」
コウキは、深いため息をついた。
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