第261話 辺境の騒動
ハオのもとに、近くの村の男たちが、相談にやってきた。
「まあ、気楽にしてよ」
ハオは机に腰かけたまま、男たちに茶をすすめた。
堅苦しい形式が苦手なハオは、陳情を聞くという形で、住民たちの相談を受けていた。
ハオとコウキが話を聞き、適切な助言や助けを与えるのだ。
「はい。実は、オークの冒険者たちの件で困っていまして」
「オークの冒険者?」
「ええ。近くの村に魔獣が出まして、退治してくれる冒険者を募集したところ、彼らが手を上げてくれまして」
「そういう話があったら、次からは我らに相談するといい」
コウキは、咎めるふうでもなく言った。
「ええ。しかし、このようなことで小魔王様のお力をお借りするのも、申し訳ないと思いまして」
小魔王。それは、いつの間にか魔物たちの集団のボスとして、ハオにつけられた異名である。
「小」という一文字が、ハオ自身はあまり気に入っていなかったが。
(西では、アビとかいうやつが魔王に認められたらしいが、ほんと、どんなやつなんだ)
一度会いに行きたいとハオは言ったが、臣下たちが全員で引き止めた。
魔王アビの背後には、四神の玄武竜、青竜、それに四凶の究姫に凍子までついているらしい。
まさに、触らぬ神に祟りなし、というやつだ。
一応、挨拶の使者を送り、魔族を治めるリーダーとして、形式上は魔王にへりくだることにした。
当然、ハオは面白くなかったが、臣下全員に止められたからには、素直に従った。
仲間たちの中には、直接、青竜アオと会っている者もいる。
直接敵に回していい相手ではないのは、よくわかっていた。
「で、その冒険者たちが、なにかやらかしたのか?」
「ええ。たしかに彼らの腕は確かで、魔獣はすぐに討伐されました。私たちも十分お礼はしたのですが、礼が足りないと暴れるようになり、その……ついに、村の娘たちがさらわれたのです。金の代わりだとか言って」
村の男たちは、膝の上で拳を震わせた。
「許せないな! すぐに案内してくれ!」
ハオはコウキの返事も待たずに立ち上がり、自ら仲間たちを連れて、オークのパーティーのアジトへ向かった。
◇
「おい、ちょっとくらい、やってもいいだろう!」
一人のオークが、部屋の隅に繋がれた女たちを見ながら、仮面の男に詰め寄った。
女たちは、さらわれた時の姿のまま、鎖に繋がれ、部屋の隅で震えて身を寄せ合っていた。
「だめだ。てめえら豚が手をつけた女だと思われると、値段が落ちる。こいつらはあくまで商品だ。てめえらの便器じゃあねえんだ」
「なんだと!? 豚だと!」
豚と呼ばれたオークが、仮面の男に詰め寄った。
だがその瞬間、仮面の男は問答無用で、オークの顔面を殴りつけた。
オークの巨体はゴムまりのように弾んで、壁に叩きつけられた。
それを見ていた三人のオークの仲間たちが、仮面の男に飛びかかった。
「野郎!」
男は一人のオークをつかむと、素早くもう一人に投げつけた。
そして、残る一人を蹴り飛ばした。
オークたちは、痛みにうずくまった。
「へへ、すまねえ。ちょっと調子にのっちまった。許してくれ」
最初に殴られたオークが、壁に背をつけたまま懇願した。
「ふざけやがって。打ち合わせでは、すぐにここを発つはずだった。それが、連絡が来ねえと思ってここに来たら、酒盛りしてやがって」
仮面の男は、改めて部屋を見回した。
あたりには酒瓶が転がり、異臭が漂っていた。
三人のオークたちも、体をさすりながら立ち上がる。
そこで、仮面の男が顔を上げた。
「まずい。村の連中、助っ人を連れてきたぞ。お前ら、なんとかしろ。こんな失敗、驩兜様はお許しにならんぞ」
「へッ、これさえ食えば、怖えもんなんてないんだ」
オークたちは、机に転がったカプセル状のものを飲みこんだ。
「おおおお! キタキタ!」
オークたちの筋肉が膨れあがり、盛り上がっていく。
「おい! てめえら、準備はいいな! 他のやつらにも、これを飲ませろ!」
「戦争の準備だ! 武器の用意をしろ!」
部屋にさらに数名のオークたちが入ってきて、武器を手に取り、カプセル状のものを口にしていった。
◇
「オークのアジトは、あそこです」
男が指さす先には、村の集会所があった。
「連中は、勝手に村の集会所を占拠して使っているのです」
ハオは男の説明を聞きながら、油断なく魔力感知を行った。
「十名ほどの、オークらしき連中がいるね。人間の反応も数名ある。これが女性たちか? そして、一人。こいつはなんだ? オークじゃないな。魔力感知を妨害してるけど、かなり強いな。あとは私たちでやるから、あんたたちは逃げなよ」
ハオは周鬼、コウキ、暁喬、宵喬とともに、オークのアジトに近づいていった。
「なんだ、お嬢ちゃん。ここは、お前のようなやつが来る場所じゃないよ」
門番のオークが、舌なめずりをしながらハオに近づいた。
ドゴ!
その瞬間、周鬼の蹴りが、オークの腹に突き刺さった。
オークは吹っ飛び、壁にめり込んだ。
「お前じゃ話にならない。リーダーを呼んでこい」
ハオは、壁にめり込んだオークを冷たく見下ろした。
それが合図になった。
アジトから、ボウガンの矢が飛んできた。
しかし、矢はハオに届く前に燃え尽きた。
「ハオ、中には人質がいる。家ごと吹き飛ばすなんて、馬鹿な真似はやめろよ」
コウキが釘を刺した。
「コウキ様、ハオ様が、そんな馬鹿な真似をするはずがありません」
暁喬はそう言うと、今、矢が放たれた方向に顔を向けた。
その瞬間、暁喬の目から魔力の弾丸が放たれ、ボウガンを射たオークの頭を撃ち抜いた。
「仲間がやられたぞ!」
「ぶっ殺せえええ!」
オークの怒声が、静かな村の中にこだました。
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