第264話 黄昏の会
ガリョウの考えで、ワタシの国、魔国は、四人の神をあがめ奉っている。
玄武竜クロ、青竜アオ、凶女神・究姫、氷結の邪神・凍子。
凍子が、部隊を守るためとはいえ、大地を凍結させて異常気象を引き起こしたという話が広まり、恐怖に震え上がる者が出る一方で、彼女をますます崇める者も増えた。
なお、この国教をつくるにあたって、各地の民間信仰などを調べてみた。
なかなか面白い逸話もあった。
一番面白かったのは、クロだ。
亀の頭が、もろに男のアレになった竜やら、安産祈願の神様としての偶像もあった。
本人をからかってやったら、「なかなかおもしろいじゃないか。実際の私には、かなわないけどね」とか言って、笑っていた。
怒るかなと思ったが、おもしろくない。
究姫は、民間信仰では、人の願いを叶えるが、願いを叶えた人間は不幸になるという女神として恐れられていた。
おとぎ話のモデルになっていることもあるらしい。
願いごとを紙に書いて、火にくべるという儀式まであった。
本人は「火にくべられたら読めないじゃないか」と呆れていたが、それで賽銭がもらえるとかで、まんざらでもなさそうだった。
アオは、竜を体に巻いたり、竜の背に乗ったりする美しい女神として祀られていた。
実際、気まぐれに人を助けていた時期もあったらしい。
凍子は、人というより、ダークエルフを生んだ邪神ということになっている。
これは、事実とは違っていた。
もともと、エルフの中には、肌の黒い子が生まれることがあった。
その黒いエルフは、生まれつき早死にする病を抱えていた。
もともと出生率が極端に低いエルフにとって、肌の黒い子が生まれるのは悲劇だった。
そこで、ある黒い子供を授かった夫婦が、神に祈った。
なんとか、わが子を助けてほしいと。
凍子は気まぐれに、その病を治した。
以後、肌の黒いエルフが早死にすることはなくなった。
しかし、いつの間にか、何者かによって、肌の黒いエルフは邪神に呪われたダークエルフだ、というプロパガンダが流された。
そしてエルフとダークエルフは憎み合い、さらに、もともと数の少ないダークエルフは、他の種族や人間からも迫害の対象となった。
だが、凍子は否定することもなく、呆れて見ていたらしい。
◇
ワタシは、積まれた書類から少し目を離し、なにげなく空を見た。
その時、巨大な魔力が、東から近づいてくるのを感じた。
(なにものだ!?)
こんな巨大な魔力は、感じたことがない。
「アビ!」
ガリョウが、慌てて執務室に飛びこんできた。
「わかってる!」
ワタシは部屋を飛び出した。
城の外に出ると、すでにビゼンにヨクト、シリュウたちが待ち構えていた。
「アビ! 気が付いたか!」
ビゼンが、ワタシを振り返った。
「もちろんよ。魔力を隠す様子もない。何かが来る!」
そこへ、アオもやってきた。
「あー、懐かしい子が来たわね」
アオは、魔力の来る方角を眺めた。
「あなたの知り合い?」
「まあ、友達という感じではないけど。用件は、だいたい想像つくよ」
アオがそんなのんきなことを言っている間に、その人物が大地に降り立った。
白い異国風の衣装に、長く美しい黒髪。
切れ長の目の美女、という感じだ。
「ご無沙汰しております、アオ様」
美女は、アオに深々と頭を下げた。
「やあ、夜馬。久しぶりだね。東方の魔王が、こんなところに来ていいの?」
「魔王!?」
ワタシは驚いて、夜馬と呼ばれた女性を見た。
「ええ。『黄昏の会』に、アオ様たちを招待するよう、禍雄主様から啓示を受けまして」
黄昏の会? なんのことだ?
「あー、やっぱりやるんだね。そろそろかなと思っていたけど、面倒だね。私は欠席でいいかな」
アオが、面倒くさそうに肩をすくめる。
「構いませんが、今回は、そのアオ様のお気に入りの、アビさんという方にも関係があるそうですよ。……あなたが、アビさんですか」
夜馬が、ワタシのほうに目を向けた。
「はい。でも、よくわかりましたね」
魔力は、十分抑えているつもりだったが。
「ええ。あなたが一番、お強そうだったので。ところで、こちらにクロ様もいらっしゃると聞きましたが」
夜馬は、あたりを見回した。
「さあ。どうでしょう。よくわかりません」
本当に知らないのだから、そう答えるしかない。
「それより、どのようなご用件で? あなたは、どちら様で? 『黄昏の会』とか、おっしゃってましたけど。質問が多くて、申し訳ないですけど」
「申し遅れました。私は、央国の東、海の向こうの島国の魔王、夜馬と申します。以後、お見知りおきを」
異国の魔王。
初めて見たが、とんでもない魔力だ。
クロたちが、ワタシのことを魔王としては弱いと言っていたのが、よくわかる。
「『黄昏の会』というのはですね。世界の魔王たちが集まる、魔王会議です。会期は不定期で、なにか緊急事態があるときに開かれます。今回の主なテーマは、あなたですよ、アビさん」
「ワタシ?」
「そう。アオ様、クロ様、それにあの究姫様に凍子様にまで推薦を受けたそうですが、実は、それに対して異議を申し立てた方がいましてね。まずは話し合いをするのですよ。そこで、あなたは自分の実力を見せないといけない」
「そうなの?」
ワタシは、アオのほうを見た。
「まあ、一応そうなってるけど、無視してればいいよ」
アオは、夜馬に向かって手をひらひらさせた。
「無視するのも自由ですが、その場合、あなたは正式には魔王と認められず、他の魔王と敵対する可能性もあります」
「どういうこと?」
「黄昏の会に入ると、その中では同盟として認められます。つまり、たとえば、会に属する私がアビさん、あなたと敵対した場合、あなたは、他の全ての魔王の敵になります」
「いや、それ、まずいんじゃないの!?」
ワタシは、もう一度アオを見た。
「勝手なルールよね。いいじゃない。私は、あなたの味方よ」
「いやいや、あなたがワタシを守ってくれても、ワタシの国は大変なことになるんじゃないの?」
「そういうことです。私も、アビさんに恨みはありませんが、黄昏の会に認められた他の魔王があなたと敵対した場合、敵にならざるをえなくなる」
「わかったわ。とりあえず、その『黄昏の会』とやらには、行かないとダメみたいね」
ワタシがそう言っていると、噂のクロがやってきた。
「ああ、クロ様! お久しぶりです!」
クロの姿を見るなり、夜馬は女の顔になった。
「しかし、君をパシリに使うんなら、禍雄主のやつも、自分で言いにくればいいのに」
「いえ、クロ様にお会いしたくて、私がお願いしたのです」
夜馬は、クロの目をじっと見つめた。
なるほど。そういうことか。
この恐ろしい魔力の東の魔王ですら、クロの【誘惑】には無力らしい。
「アビ、君を魔王たちに紹介する、いい機会だ。で、夜馬、黄昏の会はいつからだ」
「今、魔王たちに連絡をつけていますので、準備ができしだい、ということになっています」
「その会議には、何人で行ってもいいのかしら?」
ワタシは確認した。
「まあ、特に人数制限はないよ。でも、準備もいるから、先方に伝えないといけない」
クロが答えてくれた。
「じゃあ、時間までに、その『黄昏の会』とやらについて、教えてもらっていいかしら?」
ワタシは、クロとアオを見た。
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