第257話 譲位の準備
王女の衣装室に、突如カイ王が現れた。アマンやカギといった重臣が集められ、異例の緊急会議が開かれた。
鏡文字で筆談するという前代未聞のやりとりだったが、二人しか知らない幼い頃の記憶などを照らしあわせた結果、おそらく本物だろうということになった。
「しかし、それでも、鏡の中の陛下が本物なのか、そして操られていないという保証がありません」
アマンは、キョウにそう告げた。
「たしかに、それはそうだが」
キョウは戸惑いながらも、アマンの言い分は認めざるをえなかった。
「その上で、この鏡の陛下はなんと?」
「うむ。それが、王位を私に譲りたいと。そして、自分はいま霊教国にいて、そこで数年学びたいと言っている」
衝撃の内容に、居合わせた者たちがざわついた。
「そのようなこと、このような形で決めていいはずがありません。せめて、この陛下が本物であるという確証がないと」
アマンの側近のカギが、キョウと鏡の中のカイを見比べた。
「殿下。まもなく、リユウとジョイエルが霊教国に着くはずです。彼らが戻ってから、最終的なご判断をなさるべきかと。ただ、この陛下が本物であることを前提に、王位継承のご準備だけはしておく必要があると考えますが、いかがでしょうか」
アマンは、キョウの判断を仰いだ。
「ああ、そうだな。私には、このカイが本物だとしか思えない。あとは証拠だけだが、時間の問題だろう。リユウが戻りしだい、私は王位につく。それと、例のハクアについては、その時に恩赦にするつもりだが、形式上、今は死罪を命じて幽閉しておくように」
「かしこまりました」
アマンは頭を下げた。
「あと、いくつか、このカイに確認したいことがある。何人か同席してくれるか」
そのあと、キョウとカイは鏡文字で筆談を続けた。
その内容は、もはやこのカイが本物だとしか思えないものだった。
死の砂漠を越え、いくつもの国を渡り、ハクの国、大白では、隣にいるジョカエルに捨てられ、危うく死にかけた。その話を聞いた時には、居合わせた者たちも顔色を変えた。
そして、ジョカエルの手配で、霊教国からもすでに央国へ向けて使者が送られたことも告げられた。
◇
……というような内容を、ワタシはスマホでキョウから聞いた。
「なるほど。とうとう、あなたも女王になるのね」
「うん。そうなったら、アビ、お前との婚約も進めたいと思っている」
「反対する人も多いでしょう」
「まあ、それはそうだが、どうしても難しければ、もう一度王位をカイに返すか、なんならアマンに譲ってやってもいい」
「カイはともかく、アマンは爆弾発言だと思うけど」
「アビよ。私は考えたのだ。この国は別に、私のような王などいなくても、まとまるのではないかとな」
スマホの向こうの声が、少しだけ寂しそうになった。
「あのショウを倒したことで、実際のところ、アマンの支持は絶大になっている。彼が王位をのぞんだところで、民は反対しないだろうよ。あとは王族、貴族の問題だ。だが、今回のショウとの戦いで、有力な貴族はほぼ滅びた。アマンは国内を立て直してくれるだろう。そうなったら、私はお前のところに行ってもいいと思って……」
「すばらしい!」
横から伸びてきた手が、ワタシのスマホを奪い取った。アオだ。
「ア、アオ!? いらしてたんですか!」
「私はいいと思うわ。きっとクロも賛成よ。ねえ」
アオは、そばにいたクロに抱きついた。
「いや、まあ、私はそんな人の国の些事はどうでも……」
「ほら! クロも賛成してくれたわ。早く仕事を片付けて、あなたもこっちにいらっしゃい。そして、毎日たのしく暮らしましょう」
「ちょっと、返しなさい!」
ワタシはアオから、スマホを取り返した。
「まあ、あなたには強力な味方がいるのよ。負けるわけがないんだから、しっかりね!」
ワタシは、スマホの向こうのキョウに笑いかけた。
彼女も白い歯を見せて、彼女らしい笑みを浮かべてくれた。
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