第251話 裏切りの始まり/魔王と白虎竜
「シエンだと!? 奴が何をしに……!?」
ショウ配下の武官コウは、シエンが自分のところにやってきたと聞いて、腰を浮かせた。
(やつはショウ閣下に謹慎を命じられ、そのあと姿を消した)
(例の災害で死んでいたと思っていたが)
「よし、通せ」
コウは部下に、シエンを連れてくるよう命じた。
◇
「息災か。コウ将軍」
シエンは気安く手を振ってみせた。
「シエン殿。生きていたとはな。で、何をしに来られた」
コウは警戒を解かなかった。
左手を剣の鞘に当て、いつでも抜けるように身構える。
「友の身を案じて、ここに来たのだ」
「友だと?」
「今ここには、アマン殿の兵が向かっている。アマン殿はショウ様の策を看破している。おそらくは、アマン殿の軍がショウ様の城に攻めようとしたとき、貴殿を含め、分散している軍が引き返し、一挙に包囲しようとしていたのだろう」
その言葉は、まさに図星だった。
「た、たしかにそうだが。だが、閣下はその可能性も視野に入れ、我らに十分な兵を与えてくださっている」
コウは平静を装った。
「なるほど。しかし、アマン殿の最初の目標は、まさに貴殿だ。このままでは、仮に負けなかったとしても、大きな損害がでる」
「たしかにそうだが」
「しかし、貴殿がアマン殿に下ればどうだ。おそらく別の将もあとを追い、兵力は逆転する」
「馬鹿な。貴様! 俺にショウ閣下を裏切れというのか!」
コウの手が、剣の柄にかかった。
「まあ、おちつけ。それより、コウ将軍。アマン殿はなぜこれほど早く軍を引き返すことができたと思う?」
「知るか、そんなこと。たしかに、どんな手品を使ったのかとは思っているが」
「地域住民の協力よ。地域の民はショウ様を恨んでいるぞ。もう心はショウ様にない」
「どういうことだ?」
「あの災害で、ショウ様の軍はなにか不思議な結界に守られただろう」
「ああ、おそらくはショウ様の威光が霊神様に通じたのだと思うが」
「しかし、民はそうとっていない。地域の破壊を考えず、自分の軍だけを守ったとおもっているぞ」
「なに!? そんなはずはないだろう! あれは我らにとっても、まったく知らぬことだ」
「ああ、そうだろう。だが、民はそう考えなかった。結果として、アマン殿のほうに大量の兵糧が持ち込まれ、ショウ様を討って欲しいという民の声が集まったのだ」
柄を握るコウの手から、力が抜けた。
「そ、そうなのか。ということは、もう民の心はショウ様、いや、エン家から離れてしまったのか」
「なあ、コウ将軍。ショウ様は立派な方だが、貴殿もエン家とのゆかりは薄い。勝っても報奨はすくなく、負ければ命を失うかもしれん。どうだ、アマン様にくだらないか。寛大な褒章と、貴殿だけではなく、兵たちやその家族の安全も保証してくださるそうだ」
コウは下を向き、考えた。
「わかった。民の心がもうないなら、この戦いは見えた。俺だけではない。キクギなど、エン家にゆかりが少ないものに手紙を送ろう。アマン殿、いや、アマン様には、貴様からよろしくたのむ」
コウは、シエンに深く頭を下げた。
◇
「ちょうどいい機会だから、君もいっしょにこいよ」
クロがドレスに袖を通しながら言った。
「いっしょにって、どこに?」
ワタシは、まだ起きたばかりなのだが。
というか、本来この人たちは、眠る必要もないそうなんだが。
「ハクのところだよ。白虎竜ハク。ジョカ? ジョカエル? 君の友達なんだろ? 彼女も来たらしいよ」
「ジョカが?」
ワタシは上半身を起こした。
その動きに、ガリョウとアオも目を覚ます。
「その、例のカイ王といっしょだったの?」
「いや、すくなくともその時は一緒じゃなかったらしいよ。でも、話を聞いてみたいと思わないか?」
ワタシは頷いた。
「わかった。とりあえず、シャワーを浴びるわ」
ワタシはベッドを抜け出した。
「浄化の魔法をつかえばいいのに」
背中で、クロのつぶやきが聞こえた。
「気持ちの問題よ」
ワタシは一人で浴室に向かった。
ベッドでは、まだアオがガリョウに絡みついていた。
◇
応接間では、褐色の肌に白、あるいは銀の髪の男が座って待っていた。
「やあ、ハク。この子が新しい魔王、アビだよ」
クロがワタシの背を押して、前に出した。
「はじめましてかな。ハクという。一応、君と同じように魔王をやってて、小さいがこの国を治めているよ」
ハクは立ち上がり、右手を差し出してくる。
「アビといいます。よろしくお願いします」
ワタシは握手で応えた。
すごく普通の人にみえる。
てっきり、いきなり襲いかかられるんじゃないかとおもって、その覚悟もしていたが、そんなことはまったくなかった。
「で、なにしに来たんだ? クロ、お前がここに来るなんてめずらしい」
「ここは、大して面白いのがないからね。ところで、ジョイエルという霊教の大司教と、リユウというエルフの戦士、それに央国の兵たちという、かわった組み合わせの子たちがここに来てないか?」
「え? リユウって、あのアマンのところ? あの人もここにいるの?」
ワタシは驚いて、クロの顔を見た。
そんなことは初耳だった。
まあ、カイを探してこちらに来たとなれば、意外なことではないのかもしれないけど。
「ああ、うちの門番と連日のように闘ってるな。ほら、ちょうどいまもやってるんじゃないかな」
ハクが何もない空間を指さすと、リユウと兵士たちが、巨大な守護像と闘っている姿が映し出された。
翼の生えた巨人のような守護像だ。
通常の剣では、刃も通りそうにない。
おまけに、魔力防御もかたそうだ。
単純に火力でぶち抜くのが効率が良さそうだが、一般兵と魔法主体のエルフの戦士では相性がわるい。
「友達っていうか、彼女たちも私のあれなんだよ。勘弁してやってよ」
クロがウィンクして、ハクに手を合わせた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




