第236話 兵站
ショウ・エンが動いた。
この知らせがはいるなり、霊都は混乱に陥った。
敵軍の数は20万にたいし、こちらの兵数は2万である。
ただの20万ではない。
ショウのスキルにより強化された20万である。
降伏か、それとも、魔王アビに救援をえるか、そう言った声もひそかに上がっていた。
しかし、群臣たちを前にして、アマンが最初に告げた言葉はそのすべてを裏切った。
「この戦いを勝利するには、方法はひとつしかない。」
アマンの言葉に群臣に緊張がはしる。
10倍の戦力をもってなお、勝てる方法があるというアマンの言葉に、群臣たちもアマンの目を見る。
「兵站だ。」
軍事に詳しい者たちが頷く。
「諜報部隊がすでにエン家の兵糧がどこにあるかも把握してある。そこを焼く。」
「よろしいでしょうか?」
エイサイが挙手する。
「かまわん。」
アマンが許可する。
「私に命令してください。決死隊を率いて、焼き討ちをしてまいります。」
それに続いて、武官たちは自分こそがと手を挙げた。
アマンは微笑し、手を上げて制した。
「諸君らの気持ちはありがたいが、ショウの奴も馬鹿ではない。そこは十分、防御を固めている。普通に攻めれば、1万の軍を率いようが勝てない。ここは私に考えがある。だが、そのためには・・・」
そう言ってアマンは地図を指さす。
「ショウの部隊を抑え込まねばならん。しかし、敵はわが軍の10倍。さらに、全員がショウの力で強化されている。そこで、わが軍は大河・コウを渡り、背水の陣を敷く。」
全員に緊張が走る。
背水の陣。
つまり、背後は川、引くことはできない。
生き残るには勝つしかない。
「腕がなるぜ。」
オウライが地図をみて闘志を燃やした。
「いや、オウライ、お前はここ、霊都でキョウ殿下をまもってくれ。」
アマンがオウライを制止する。
「いや、それは。」
オウライが反論をしないまでも、あからさまに不服そうな顔をする。
「殿下も来るとおっしゃるだろうが、今回ばかりは認められない。私がもっとも恐れているのは、殿下の暗殺だ。殿下には悪魔、妲姫がついているから、相当の手練れでないと大丈夫だと思うが、もし、同等以上の悪魔、例えば、あの徐姫や華姫クラスの悪魔をショウが召喚していたら、止められない。しかし、お前がいれば安心だ。」
アマンが恐れていたのは悪魔召喚だった。
「ショウは誇り高い男だ。私がしっているやつなら悪魔をつかって殿下の暗殺など絶対にやらん。それは信頼している。しかし、やつの配下や、霊教のものたち、それに奴が何者かに操られてしまった場合まではわからん。そして、殿下が死ねば、我々は逆賊となる。ゆえに最も重要な任務だ。わかるな。」
その言葉に、オウライは背筋を伸ばす。
「この命に代えても、殿下はお守りいたします!」
その言葉にアマンは深くうなずいた。
「なお、諜報部によると、魔王軍がひそかにわが領土に入ってきている。」
その言葉にふたたび、緊張がはしる。
「だが、おそらくは、わが軍の救援だろう。しかし、我々は魔王軍の力など公に借りぬ。民に害を与えぬかぎりは素通りさせ、監視だけ続けさせる。それよりも・・・」
アマンは地図の南方をむく。
「今、さらに注視すべきは南方の勢力だ。ハオや南方の魔物の勢力の監視をせねばならん。北進するにはオアシスの付近を通る必要がある。軍を進めたら朱雀竜様が許さんだろうが、万一ということもある。これを任せられるのはジユンしかいない。貴様は南方に向かい、監視をつづけてくれ。」
ジユンも黙ってうなずいた。
「エイサイとオウコは私とともにエン軍にあたってもらう。」
オウコは武術大会で軍に加わった戦士である。
これが初めての大きな戦いとなる。
「諸君らの奮戦に期待するものである。」
アマンの声に群臣たちは声を上げて答えた。
◇
「ジョカエル、もうだめだ。食べられない。」
机にならぶ肉の山を前にして、カイ王は青い顔をした。
「陛下、がんばってたべてください。強くなりたいのでしょう。」
ジョカエルはそういいながら、肉にかぶりつく。
「この肉は貴重な小型のドラゴンの肉です。王国には生息していません。こういった神獣の肉を食することで、人間も魔族のような強靭な肉体を得ることができるのです。」
まわりには、強靭な魔人たちが遠巻きに、ジョカエルとカイ王とリジュエルをチラチラとみている。
通常であれば、中年男性一人と人間の子供がふたりなど、ここ、修羅の国、大白ではただでは済まない。
しかし、周りの魔人たちはこの少女ジョカエルの恐ろしさをしっているのだ。
「おい、お前、うちの子分を痛めつけてくれたそうじゃねえか。」
2メートルはある、全身毛と筋肉におおわれた魔人が、二人の獣人をつれてジョカエルに話しかけた。
ジョカエルは彼を一瞥した。
「痛めつけたと言われてもわからないわ。いちいち覚えてないのよ。」
「てめえ!」
家来の獣人がジョカエルに向けて、彼女の頭より大きい拳を放った。
しかし、ジョカエルは軽く頭を躱す。
その瞬間。
「トラップスキル発動【邀撃石化】」
獣人の全身が石化して、石像がひとつできあがった。
「おおお!」
まわりの客から声があがる。
「これは、魔導士ステンノーの秘術だったはずだ!何者かに殺されたと聞いたが!」
この町でジョカエルは自分の力を強力にするために、強力な戦士や魔導士と戦い、その秘術を身に着けていた。
「これもそのひとつ。」
ジョカはひとりごとをつぶやく。
「でも、殿下、魔力だけではだめなのです。」
ジョカエルはそういうと両手をあげた。
「てめえ、よくも!?」
そういいながら、全身毛におおわれた魔人は両手をジョカエルに組み合わせる。
ほんのすこし、握っただけでへし折られそうだ。
「はあああああ!」
ジョカエルは全身にちからをこめ、顔が真っ赤になるまで力んだ。
「な、なんだ!?」
魔人もジョカエルを押しつぶそうとする。
体格も数倍である。
しかし、
「はあああ!」
ジョカエルはつかまれた手を逆さにかえす。
「ぐわー!」
魔人が断末魔をあげ、手首がごきりと嫌な音をたてる。
「関節がはずれただけよ。はやく医者でも回復術でもかけるのね。」
ジョカエルがそういうと、魔人とその子分は石像を放って出ていった。
「【砂変化】」
ジョカエルがそういって石像にさわると、石像は砂になって、崩れ落ちた。
「陛下、私をみて強いと思いますか。」
ジョカエルはカイを見た。
「それは思うよ。僕はジョカエルより強い人を見たことがない。」
「陛下、たしかに人間はよわい。しかし、特に央国の人間はよわいのです。あなたの国は四神と四凶に守られているからです。」
「どういうこと?」
「彼らがいるので、強い種族ほど王国の人類圏には近づかない。地上最強といわれるドラゴン族。不死身にちかい強度をもつ巨人族、最強の魔獣フェンリルに悪魔族。まれに強さをもとめるものもいますが、そういうのはまれで、そもそも近づかないのです。その結果弱いのです。」
そういいながら、ジョカエルは再び肉にかぶりつく。
「陛下にはここ、大白で修行していただきます。でないとこの旅すら乗り越えられません。」
「わ、わかった。でも今日のところは勘弁してくれ。」
カイはそういうとトイレに向かって駆けだした。
「やれやれ。お前もだぞ。まずはしっかりたべろ。」
リジュエルも横で青い顔をしながら、ドラゴンの肉を頬張っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




