第237話 開戦前、それぞれの陣営
「アマン軍は大河・コウを背に背水の陣を敷くようです。」
諜報部隊から、本陣にいるショウのもとへ報告がはいる。
「背水の陣だと、ふざけおって、閣下、俺にご命令を!まずはやつらの出鼻をくじいてご覧にいれます!」
武官のカイチがショウに命令を乞うた。
ショウは一考する。
「だが、まて、背水の陣は、こちらに策がないとわかっているときか、あちらに何かしらの策を講じているときに敷く陣だ。アマンめ。何を考えているのだ。」
ショウは、地図を睨みながらアマンの思考を読もうとした。
「閣下、よろしいでしょうか。」
シエンが口を挟んだ。
「申せ。」
「恐れ入ります。おそらく、アマンは兵站を狙っているのでしょう。それしかやつが勝つ道はありません。兵糧庫の防御を固めるべきです。」
ショウは笑っていった。
「それについては心配は無用だ。ウキョウに各兵糧庫の守備を任せてある。 」
「お待ちください、閣下。」
ひとりの武官が手をあげる。
「なんだ、コウ。」
ショウは武官のコウ・シュンガイを一瞥する。
若く勇ましさと慎重さを兼ね備えた武官である。
しかし、その慎重さはときに他の武官から臆病ともみなされていた。
「ウキョウは確かに強いですが、油断することがあります。私にウキョウの支援をお命じください。 」
「なんだ、貴様、敵をひとりも倒さぬままに後ろにさがりたいのか。」
カイチがコウを鼻で笑った。
「いや、そうではありません。あのアマンは戦いの天才です。なにをしてくるかわかりません。」
コウは怒りを抑えながらカイチに反論した。
「閣下、こちらは敵の10倍、戦う前から逃げ出すようなことをすれば、敵に笑われます。私に先鋒をお命じください。」
カイチは拳を握りしめながら、ショウをみた。
「閣下、コウのいうことはもっともです。ご一考ください。」
シエンも再度、ショウに頭を下げた。
「魔道士ごときが出しゃばるな。さがっていろ!」
カイチはシエンを一喝した。
シエンはその迫力におもわず下がりつつも、侮辱に怒りを覚えた。
「わかった。もういい。私はウキョウに命じたといった。戦いもせず、仲間割れをしてどうする。」
ショウは一同を制した。
「閣下!」
それでもシエンは食らいついた。
「くどい。さがれ。」
その一言に、シエンはやむを得ず下がった。
「カイチ、貴様はフェイスフルとともに先鋒をつとめろ。まずは敵に我が軍の強さを見せつけてやれ。しかし、無理をする必要はないぞ。時間をかけるほど我が軍が有利になるのだから。」
「ハッ!かしこまりました!」
カイチは胸をはり、出陣の準備をはじめた。
◇
「作戦はこうよ。」
ワタシはカフェでガリョウとシリュウとアオに向けて、作戦について事前の相談をはじめた。
ヨクトやビゼンはアマンの救援に向けて、すでに部隊を率いて旅立っている。
ワタシたちは国内の共生党の対策を考えないといけない。
そのために最大の障壁があのホウスウである。
彼とはできれば戦いたくない。
戦って勝てないとは言わないが、穏便にすませたい。
「まずは、和解をしようと彼を食事に誘います。」
「そこまではわかる。」
シリュウもうなずく。
「そのあと、既成事実をつくって、責任をとってワタシにつけとホウスウにせまります。」
パチパチパチパチ。
アオが笑顔で拍手をしてくれた。
ガリョウとシリュウが冷たい視線でみている。
「その、魔王がハニートラップってどうなんでしょう?」
ガリョウが冷静につっこむ。
やはりだめか。
「いや、だれも犠牲にならずに済むのでこれが一番じゃないかなと。というか、シリュウ、あんたがやれといったんでしょうが!」
ワタシもどうかと思いながら考えたのだ。
しかし、ワタシがあいつと寝ることで争わないならそれが一番いい気がしてきたのだが。
「いや、冗談のつもりだったんだが、まさかほんとにやるとは思わなかった。というか、あれからヨクトの2回目はあったのか?」
「いや、とくになにも。」
てっきり、猿の様に求めてくるかとおもったが、いわゆるワンナイトでおわってしまったか。
「あの子は、華侯姫とつきあってるからね。」
「そ、そうなの?」
アオがしれっととんでもないことをいった。
「別にのぞくつもりはないんだけど、私が魔力感知をすると半径数百メートルみえちゃうのよ。」
「いや、それなら、魔力感知で生活するのをやめて、普通に目で見ればいいとおもうんだけど。」
ワタシはつっ込んだが。
「甘いわね。私達、超越者もつねに訓練をしているのよ。超越者同士の戦いでは、日ごろからなにもしていないものが足元をすくわれるのよ。」
すごくごもっともなことをいってるが、ようはカードゲームや麻雀で勝つためでは。
「実力が同じなら、日々訓練しているものが勝つ。それは、人も魔族もそうでしょう。」
「まあそれはそうだけど。……て話がそれた。ハニートラップがだめなら、もう一つの策がある。」
「ろくなことを言わない気がする。」
シリュウがジト目でみた。
いやこれはまじめな話だ。
「共生党の連中のいうことを聞いてやる。自治を認める。まずは一番勢力の大きい地域からよ。もう上がりも税金もとらない。そして、ワタシの勢力の連中はそこにいくことを禁止する。」
「それは、独立をみとめるってことだぞ。」
シリュウは表情をかえた。
「なるほど。痛い目を見せるということですね。」
ガリョウはシリュウと正反対のことをいった。
「どういうことだ?」
シリュウがガリョウの方を見た。
「この地域の魔族や魔獣は、魔王の配下にあるから弱小種族を襲わないだけです。魔王がそこを守らないとなれば、魔獣や下等魔族はことごとく奴らを襲いますよ。」
ガリョウがワタシに答えてくれた。
「それって最悪みんな魔獣のえさになるってことか?」
シリュウが顔をしかめる。
「一応、監視はするよ。助けてくれ、悪かったと言えば助けにむかう。ああいう連中は痛い目を見ないとわからないし、痛い目を見てもわからないかもしれないけど、これが最大限の譲歩だよ。」
わがままばかり言う連中を助ける筋合いはない。
そういうのは勇者がやればいいのだ。
◇
「ほんとにこのガキから逃げきればオレを助けてくれるんだな!?」
「ええ、でも殺してはだめよ。殺したら私があなたを殺すわ。」
小鬼族の男がジョカエルに確認する。
小鬼の男が対峙しているのはカイだった。
カイはナイフをもち、息をきらしている。
そして、二人のまわりには円型に青い炎が結界としてはられている。
二人は同じことを考えていた。
ジョカエルに殺される、と。
◇
しばらくさかのぼる。
ジョカエルの名前はかなりこの近隣で知れ渡っていた。
恐ろしく強い人間の少女が、次々と腕に自信のある魔人たちをたおしているのである。
ただ、倒されるだけではない。
少女は戦った相手の能力をも完璧にコピーしていたのである。
初めは生意気な人間が粋がっていると勝負を挑む者もいたが、徐々に遠巻きに見るようになった。
しかし、それでも人間の子供はここでは希少種である。
人食いにも高く売れる。
性的玩具にもうれる。
「しめた!」
小鬼族の男が、ジョカエルに近づき抱きかかえようとした。
「ぎゃあああああ」
その瞬間、男が叫び声をあげた。
なにもない空間から突然、牙があらわれ、男の右手に食いついた。
「自動反撃能力【邀撃牙】。なかなか便利なスキルね。最近、覚えたスキルではこれが一番強力だわ。」
「くそ、一人だけでも。」
男の一人がカイを抱えようとするが。
「なんだ、おもい!」
もちあげることができなかった。
「【質量操作】これもなかなか便利ね。私や陛下の安全をまもれる。」
【銃魔】
ジョカエルの周囲から羽の生えた砲台が舞い、小鬼族たちの足を打ち抜く。
「ぐあああああ!」
「た、たすけてくれ!ゆるしてくれ!」
ジョカエルが指をならすと、一人の小鬼族を中心に青い炎がサークル状に地面に配置された。
「陛下、これをもって。こちらの中に、大丈夫です。熱くはありません。」
ジョカエルはカイに短刀を手渡し、円の中に招き入れた。
カイ王は短刀をうけとると、恐る恐る円の中にはいる。
「このスキルは【青き炎の闘技場】といいます。陛下にはそこで戦っていただきます。」
ジョカエルの言葉にカイは抗議の声をあげた。
「ちょっと!どういうことだよ!聞いてないよ!」
「このスキルは、どちらかが死ぬか、その10個の炎が消えるまで解除されません。途中で負けたほうを炎は焼き尽くします。」
その言葉にカイ王は顔色を変えた。
小鬼族の男はニヤリとわらった。
「このガキを殺せばオレは助かるってわけか。」
「だめよ。あなたは逃げるだけ。殺してはだめよ。この子を殺せば私があなたを殺すわ。」
「なんだと!?」
男が顔色をかえた。
「死なない程度にいためつけるのはかまわないわ。」
「なんだって!」
こんどはカイが顔色をかえた。
「陛下は口ばかりでなにもしないんですもの。さあ、コイツをころしなさい。そうすれば力が手に入るわよ。」
「うそだろ!?」
カイ王は震えあがった。
「ほんとにこのガキから逃げきればオレを助けてくれるんだな!?」
「ええ、でも殺してはだめよ。殺したら私があなたを殺すわ。」
「小僧、死なない程度に痛めつけてやる。悪く思うなよ。」
そういいながら、小鬼族の男はカイに近づいた。
カイは震えながらナイフをもった。
小鬼族の男は右足を打ち抜かれて足を引きずりながら、カイに近づく。
「陛下、その男はあなたを誘拐しようとしました。その罪は死罪に値します。殺してしまってもなんの問題もありません。」
ジョカエルはカイに淡々といった。
やじ馬たちもニヤニヤと笑いながら観察した。
ガツ!
男が拳をふるい、カイの顔を打ち抜いた。
「痛い!いたいいいい!」
カイの口から血が流れる。
「このガキ!」
男はカイに追撃しようとするが、足がうごかない。
カイは這いずり回って、男と距離をとった。
「陛下。よくみてください。その男は重傷です。その短刀には毒が塗られています。刺したら殺せます。はやくとどめを。」
「な、なんだと!」
その言葉に男が顔色を変える。
「しかし、まあよく考えたら、このまま10分まってもいいわけだ。」
男が足をかばいながらつぶやいた。
「それはこまる。【銃魔】」
ジョカエルが魔力をこめると、ジョカエルの【銃魔】が男の仲間たちをさらに銃撃した。
「ぐわああああ」
たまらず、男たちは悲鳴をあげる。
「殺さない程度に攻撃しろ。やめるな。でないと、私がお前の仲間を痛めつける。」
(無茶苦茶だ、こいつは!)
「小僧、悪く思うなよ。」
そう思いながら、男は仲間のほうをみた。
その瞬間。
ドン。
カイが男に体当たりをした。
カイの手に持った短刀が男の腹部にささった。
かに見えた。
「だめだ、できない。僕には……」
カイは涙をながし崩れ落ちた。
「ばかが。」
男はニヤリとわらい、カイに対して無慈悲に拳を振り下ろした。
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