第233話 神の啓示を受けた男
ショウは会議の冒頭に切り出した。
「この国のため、民のため、逆賊アマンと魔王アビを討つ!」
その声に群臣がざわついた。
武官のフェイスフルやカイチは顔を見合わせ、ニヤリとわらった。
「お待ちください!」
トヨタが立ち上がった。
「我々の敵はアマンではありません。魔王を協力して討つならわかりますが、まずはアマンを討つのをお考え直しください!」
「私は、先日、神の啓示をうけた。」
ショウは昨日の夢を語り始めた。
群臣がショウの声を聞こうと静まり返る。
「今、魔王アビは自国民を虐殺している。」
群臣に緊張がはしった。
「魔人や、獣人たちもいたが、彼らもろとも人間を消し去った。なにが起こったかはわからなかった。しかし、魔王の前に数百人、いや、一〇〇〇人はいた者たちは塩になり、塵のように消え去った。」
「恐れながら、それは夢では?」
トヨタが恐る恐る尋ねた。
「これをみよ。」
そういって、ショウは袋から白い粉末を机にだした。
「これは?」
トヨタは粉末を眺めた。
「これは塩だ。」
ショウは静かにいった。
「塩、でございますか?」
トヨタはショウの言葉の真意を測りかねた。
「しかし、ただの塩ではない。おそらくは魔王に殺された者たちだ。夢の中でかれらは塩の柱になり消え去った。そして、朝起きると、枕元にこれが盛られていたのだ。」
「これが、人ですか。」
トヨタは思わずつばを飲み込んだ。
「私はなぜかつて勇者ヨウトが魔王を討つという決断をしたか、ようやく、実感としてわかった。魔王と人とは共生など不能なのだ。私はアビに会ったこともあるが、もはや彼女は人ではない。」
「しかし、では、アマンと戦う必要はないでしょう。ともに陛下を探し、そのあとともに魔王を討てばよろしいではありませんか。」
トヨタはなおも反対した。
「いや、キョウ殿下は陛下が見つからない場合、自らが王位につくと宣言した。これは簒奪であり、我らのハクア王とも相容れない。むろん、キョウ殿下の真意が別にあり、アマンに利用されているだけの可能性が大きいと私は考えている。そしてこの神器、美静弓・魔姫、これは討つべきあいてを教えてくれる。」
そういって、ショウは弓を一本引き絞った。
「この中に、先日の会議の内容を外部に漏らしたものがいる。誰だ!?」
その瞬間、ショウの感覚が研ぎ澄まされていく。
この距離であれば、人の鼓動、脈拍、呼吸、目の動揺までも、神器を通して、情報が流れ込んできた。
そして、ショウは静かに弓をおろした。
「トヨタ。残念だ。会議の内容をもらしたこと、わが妻の一人と密会したことは、許す理由にはならん。トヨタを拘束して、牢に入れておけ。トヨタへの処分は、アマンと決着をつけてから片付ける。」
ショウの命令で、警備の兵がトヨタの両脇を捕らえた。
「閣下!」
「つれていけ。」
ショウは一言命令した。
それ以上はいわなかった。
「さあ、戦の準備をしろ!今こそアマンと雌雄を決するのだ!」
ショウは右手をあげ、群臣たちは怒号をあげた。
◇
あーつかれた。
魔王となったワタシのもとには、連日のように挨拶に訪れるものが絶えなかった。
ほとんどのものにとっては、ワタシと敵対するよりは従属したほうがかしこいからだ。
先日きたデモ隊みたいなアホはめずらしい。
ワタシは休憩中、スーツのままソファーに寝転がる。
魔王衣装はやめた。
スーツにネクタイという異世界の魔王をアピールしている。
そこにアオがやってきた。
暇そうでうらやましい。
「アビ、あなた、浮気したでしょ。」
アオがニヤつきながら、ワタシのネクタイを引っ張る。
(こいつ、魔力感知で覗いていたのか。)
「う、あんた、こっそり、のぞいてたの、変態ね。」
ワタシはネクタイをとりあげる。
「魔力感知で見てただけだから、興奮もなにもないけどね。」
なるほど、魔力感知で人をみると、精度が低い者がやると、なんとなく、音だけが波紋のように見えるイメージだ。
人によってはサーモグラフィーのように見えたり、風や水の流れをイメージする人もいれば、嗅覚的に捉える人もいる。
あるいは、脈拍や呼吸がそこにいるように感じられる人もいるとか。
ワタシの場合、さらに特殊で、【翻訳者】により能力が言語化される。
なんにせよ、視覚的に見るのと少し違う。
エロさがない。
「別にいいわよ。でも、じゃあ、ワタシがヨクトに手をだしてもいいわよね。」
「あんた、普通の男に興味あったの?」
「冗談よ、冗談。私たちの中に混じらせたいなら呼んでもいいけど。」
そんなことより、言いたいことがあったのを思い出した。
「前にデモ隊を消し飛ばしたでしょ。ああいうのはちょっと遠慮してほしい。」
「あら、あいかわらずあなたは優しいね。」
彼女はワタシの隣に座り込んだ。
「いくらなんでも、卵をぶつけられましたの仕返しで、一〇〇〇人消しましたはまずい。」
ワタシはまじめな視線をむけるが。
「ちがうわよ。私とあなたとガリョウのまどろみの至福の時間を邪魔したからよ。」
そういいながら、ワタシの腰に手を回してくる。
「じゃあ、はじめから全員殺すつもりだったの?」
「そんなことないわよ。ちゃんと謝ってくれれば許したけど、そのつもりがない様だったからね。」
「でも、あなた、ワタシと初めてあったとき、あのチュウエイに刺されてもやり返さなかったでしょ。」
「あの程度ならね。あの時はまだアビと初めてあったし、それに究極があいつについてるのはわかったしね。でもまさか、アビが魔王になるとは予想はできなかったわ。人の可能性はすごいね。だからできるだけ、私の可能性の芽はつぶしたくはないのよ。」
「1000人消すなんて大虐殺よ。それだけじゃないわ。彼らにも家族がいるでしょう。恨まれるだけよ。」
まじめな話をしてるんだからと、ワタシは彼女と距離をとった。
「大丈夫よ。私はスカーレットと違いちゃんと考えてるから。」
「どう考えてるのよ。」
「だからね・・・・」
その後聞いた話に、ワタシは戦慄した。
ワタシはまだ、このアオの恐ろしさをわかっていなかったらしい。
◇
「すまん、みんな、みんな殺されてしもうた!」
キハムはアジトにもどるなり、ひざを折り、倒れこんで謝罪した。
共生党。
それが彼の本来所属するグループである。
どんな種族にも平等な権利を。
「平等な権利」、異世界人の概念を魔族や人間たちを中心に掲げた団体である。
構成員はおもに弱小種族や、年老いて戦闘力を失った老人の魔族である。
キハムの周りに、アジトにいた魔人や人間たちが駆け付けた。
その中にはホウスウもいた。
「もう大丈夫だ。なにがあったんだキハムさん。」
ホウスウがキハムの肩をだいた。
ホウスウはこの団体の本質をみるべく身を寄せていた。
「わしらは青竜様の怒りを買ってしまった。わし以外の全員は皆殺しになってしまった!全員じゃあ。」
魔人たちがざわつく。
「なんてことだ。みんなか!だれか、だれか生き残りはいないのか!?」
ラビット族のウーがキハムに問いかけた。
「すまん!ウー、お前の兄、サーもころされてしもうた。」
キハムのその言葉に、ウーは怪訝な表情をする。
「大丈夫か。キハム。おれにサーなんて兄はいないんだ。」
ウーの言葉にキハムは戸惑った。
「なにをいってる。サーはお前の兄じゃないか。」
「お前、記憶が混乱してるのか。落ち着いてから話をきこう。」
ウーはキハムに手をかそうとする。
「それだけじゃない。オーク族のトンも、わしの兄のキハクもみんな死んだ。」
まわりのものたちは顔を見合わせた。
「わかった。とにかくキハム。とりあえず、奥に行こう。」
キハムは支えられるように奥に連れていかれた。
そのようすをみて、ホウスウは違和感を覚えた。
「すいません。キハムさんはなにかおかしなことをおっしゃってたんですか?」
ホウスウは共生党の獣人にきいた。
「ああ、キハムには兄なんていないし、彼がいったようなものはいないんだ。」
「なんですって!?」
ホウスウは驚愕する。
「おそらく、よほどの恐怖で記憶がとんでしまったのだろう。」
そういいながら、獣人の男はキハムの後を追った。
ホウスウは胸の中の違和感をぬぐいきれなかった。
◇
「【因果切断】、あの場にいた連中に関する記憶はみんな消えるのよ。だから、恨みを買うことは少ないわ。」
アオは恐ろしいことをサラッといった。
「それって、初めからいなかったことになるの?それとも記憶が消えるの?」
「記憶が書き換えられるのよ。家族の記憶も消えて、都合よく、別のものにかわるのよ。」
ワタシはめまいがしそうになった。
「アオ、やっぱりアンタは絶対に手を出しちゃだめだわ。」
そういうのが精一杯だった。
「だったら、もどそうか。あなたのいうとおり恨まれるかもしれないけど。」
「もどして、お願い。恨まれるほうがまだましよ。」
ワタシはアオに頼んだ。
ワタシは彼らにも怒って、悲しむ権利くらいはあると思ったのだ。
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