第231話 開戦前夜
魔王アビの元から王女キョウは霊都にもどった。
そして王女キョウは戻るとすぐに、ショウ・エンの立てた仮の王ハクアを認めないと宣言した。
これに対してショウ・エンは重臣たちとともに緊急会議をひらいた。
「みな、知っての通り、魔王アビのもとからキョウ殿下が戻られたらしい。これは喜ばしいことではある。しかし、殿下はハクア陛下を認めないと仰せられている。これについて皆の意見をききたい。」
ショウは重臣たちの意見をまった。
「恐れながらもうしあげます。」
シエンが立ち上がった。
「申せ。」
ショウは発言を許した。
「アマンとキョウ殿下は陛下が不在の間に、勝手に魔王と不可侵条約を結びました。これはあきらかな国家に対する反逆行為です。一方、閣下は霊神に選ばれし、新たな勇者といっても過言ではありますまい!今こそ、アマンを討つべきです。」
その言葉に大きくうなずくもの、沈黙を保つもの、様々だった。
「おまちください!」
一人の男が手をあげた。
文官の重臣、トヨタである。
「申せ。」
ショウは彼にも発言を許した。
「我々のすべきことはまずは、カイ陛下をお探し申し上げることです。もし、アマンに先に陛下を見つけられては、大義すらなくなります。それに、アマンと戦って勝てないとはもうしませんが、勝った後、我々は魔王と戦わないとなりません。それに魔王にはあの四神、いや、四凶までもがついているとか、勝ち目のない戦いです。」
トヨタは持論を展開した。
たしかにそうだと、群臣たちもうなずく。
「戦いもせずに、アマンにも魔王にもまけるとはなんという弱気なことをおっしゃる!魔王に四神や四凶がいるというなら、我らには霊神の加護がある!あの玄武竜クロですらもはやおそれるにたらん!」
シエンはトヨタを指さして反論した。
それから、王を先に探すべきというもの、アマン討つべしというもの、魔王こそ先に倒すべきというもの、さまざまに意見は分かれた。
「本日は一旦、これまでにする。また、明日この件については話し合おう。」
ショウは方針を決めかね、会議は終了した。
◇
「閣下、よろしいでしょうか?」
会議が終わった後、シエンがショウに話しかけた。
「もう、これ以上、今日はアマンや魔王については話すつもりはないぞ。」
ショウは手をふった。
「いえ、これは会議では話せないことですので。」
シエンは食い下がった。
「なんだ?なにかあるのか?」
「閣下は私情で動いておられるのではありますまいか。」
「どういうことだ?」
ショウはシエンの真意をはかりかねた。
「おそれながら、閣下と私とアマンは幼き頃はともに野山をかけた間柄。彼との昔のよしみに、心を痛めておられるのではないかと察しまして。」
「ああ・・・」
ショウは、昔を思い出した。
自分も、アマンもこのシエンも少年のころは、身分など関係なく、この国の将来について語り合い、笑った。
実際、アマンもつい最近まではエン家の後押しで動いていた。
しかし、いつの間にかアマンは、自分と同格の座までのし上がった。
ショウも何もエン家の名だけで今の地位があるわけではないという自負はあった。
しかし、それでもアマンと自分を比べ、意識していないかというと嘘になる。
そして、また同じように天下のために武力ではなく、言葉でもってぶつかりあいたいと思っている。
しかし、もはや、今の自分は自分のためだけにうごけない。
本来のエン家の本家であるコウロ・エンは逆賊としてほろんだ。
もし、自分までもアマンに敗北したら、それはエン家の終焉をも意味するのだ。
個人的にはアマンがキョウを支え、さらに自分がそれを後押しするのも悪くはないと思っている。
しかし、エン家を継ぐものとしてそんなことは許されない。
ショウはそんなことを考えながら少し昔を思い出し、笑みを浮かべた。
「フ、シエンよ。私はただのショウ・エンではなく、エン家のショウ・エンとしてここに立っているのだ。」
「閣下、それを聞いて安心しました。」
「私も今日は休むとしよう、お前も早く休むといい。友よ。」
ショウはそういって会議室をあとにした。
◇
ショウの城の離れにて。
一人の貴人が周りを気にしながら、一つの小部屋にはいった。
ショウの愛妾、側室の一人、シンである。
「シン様。このようなところまで、お越しくださりありがとうございます。」
そこには一人の男がまっていた。
アマンとの戦いを避けるように主張したトヨタである。
「なんでしょうか。トヨタ殿。このようなところを閣下に、いえ、まわりのものに見られたら問題です。クロ様にかかわることだと伺いましたが。」
「ええ、そうです。すぐに終わります。結論から申します。シン様から、閣下にこの戦いをはじめないように説得していただきたいのです。」
トヨタはすがるような目でシンを見た。
「私になにができましょうか。私は一人の女にすぎません。」
シンは首をふった。
「しかし、このままでは閣下はクロ様と戦うことになるかもしれません。」
「え?どういうことでしょう?」
シンは顔色をかえた。
シンにとってはクロは恩人である。
「閣下は魔王討伐をされようとしています。しかし、魔王は真教なる宗教を掲げ、その神の一人が玄武竜クロ様なのです。勝ったとしても我らの陣営に壊滅的な損害が出るは必定。いえ、そもそも玄武竜クロ様に勝てるとは、到底おもえません。」
トヨタはそういって首を振った。
「ショウ様とクロ様が・・・」
シンは言葉をうしなった。
「シン様、このままでは、明日にでも、戦争ははじまります。これを止めることができるのは、今夜、あなた様だけです。」
トヨタは伏して懇願した。
「わかりました。私にできるかぎりのことはやってみます。今のことは誰にもいいません。」
シンはそういうと、静かに部屋を去っていった。
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