第227話 王女の帰国
アマンの元から使者がきたらしい。
キョウを返せと言ってくるか、いきなり宣戦布告してくるかと思っていたが、意外なものだった。
「アビ陛下、ご無沙汰しています。」
外交官ブジャクがワタシに跪いて、頭をさげる。
ワタシがアマンのもとにいたころ、何度か話したこともある。
非常に頭が切れる文官で、容姿端麗の男である。
うちの女兵士にも密かにファンが多い。
「てっきり、怒り狂って攻めてくるか、宣戦布告してくるかとおもったよ。」
ワタシはそういって、彼が持ってきた親書に改めて目を通した。
ワタシとキョウの婚約については一切触れずに、キョウの身柄を返還したうえで、不可侵条約を結びたいと書いてある。
「つまり、キョウとの結婚は認めないってことね。」
キョウは席をはずしてもらっている。
ひとつは彼女は難しい立場にある。
一応、ワタシが無理やりさらってきたということにしてあるからだ。
もう一つはちょっとした実験に協力してもらってる。
「はい。恐れながら、魔王様との結婚など認めるわけにはいきません。」
ブジャクは頭を伏せたまま答えた。
ワタシの回りにいる兵たちに殺気が走る。
「顔を上げて。それで、アマン殿はワタシと不可侵条約を結びたいと。」
ブジャクはゆっくり顔をあげた。
「はい。閣下はまず、殿下の身の安全と陛下の行方を捜すのが最優先だとお考えです。」
ショウのもとにいた王が行方不明になったという。
しかも誘拐犯の容疑者はジョカということらしいが。
一応、彼女の行方もガリョウに探らせてみたが、どこにいるかわからない。
「正直、ワタシは別に人類圏を攻めるつもりはないけど、王が見つかったらこちらを攻めるということ?」
ワタシはストレートに聞いた。
「それは私ではなんとも申し上げられません。」
ブジャクは答えなかった。
彼の役割ではないが。
しかし、これでは埒が明かない。
「ガリョウ、例のものをブジャク殿に。」
ワタシはガリョウと前もって打ち合わせしておいたものをブジャクに渡した。
「これは?」
ブジャクは恭しくガリョウからうけとる。
「これはね。数魔法といって、うちが今、国をあげて普及させている魔道具よ。これをあなたにもぜひ使ってみてほしい。使い方はあとで教えるわ。」
そのとき、ブジャクに渡したスマホが鳴った。
「これは?」
再び、同じことをいって、いい反応をみせてくれる。
「その画面にでている赤い丸を触ってみて。」
「これですか?」
ブジャクがおそるおそるスマホを操作する。
「やあ、元気?きこえる?」
スマホからよく知った声が聞こえた。
アオである。
「アオ様、それに殿下!」
「いえーい。みてるー。アマンの使いくん、私はこれからこのキョウを・・・」
スマホからアオの声が聞こえる。
どこで覚えたか、なんかコントが始まった。
「そこは、霊都ですか!?」
ブジャクが驚いて画面に話しかける。
今、アオとキョウは霊都に行ってもらっている。
「殿下、ご無事ですか!?」
ブジャクが画面に向かって話しかけた。
「ちょ、アオ、打ち合わせにないことしないでください!」
キョウがアオに文句をいっている。
なんか、さっきのコントはアオの暴走だったらしい。
音声がスピーカーになっているので筒抜けだ。
「ああ、聞こえるか、お前、ブジャクか。私は今、霊都にいる。このスマホという魔道具を使えば、このように遠くにいる者同士でも、スキルなどなくともこのように話すことができる。」
「なんと!?」
「そして、私は決めたぞ。もし、カイ陛下が戻らなかった場合は、私が王位につく!」
「なんですって!?」
ブジャクが声を上げた。
いやワタシも声を上げそうになった。
アオだけじゃなく、キョウも打ち合わせと違うことをいいやがった。
おもわず、となりのガリョウに目線をやると、彼女もため息をついていた。
本来の筋書きはこうだった。
カイ王が見つからなかった場合、ワタシが後見人となり、キョウを央国の女王にたてる。
しかし、それも一時的なものだ。
その後は、徐々に民主制にするなり、別の王家をたてて、その国と友好を結べばいいとおもっていた。
そうしないと、彼女がずっと国の戦乱に巻き込まれる。
国をすてて、ワタシとずっといてくれるのが一番いいが、彼女はそればっかりは首を縦に振らなかった。
カイや国民をすてることなどできないと彼女は言った。
もし、ワタシと暮らすにせよ、カイがもどるか、最悪、もどらなくても、自分が王家の最後の人間として勤めを果たすと言った。
ただ、それはワタシが宣言するつもりだった。
魔王が傀儡国をたてるのに王女を利用しようとした、そうすれば、彼女の責任やヘイトの眼がいくのを避けられるとおもったが、彼女はやはりそれをよしとはしなかったらしい。
王が死んでいたら自分が王につくと発言するなど、簒奪者だと思われかねない。
「ちょっとまって。」
ワタシはブジャクからスマホを受け取って、キョウに話しかけた。
「ちょっと、あんたら打ち合わせと全然違うじゃない!というか、とりあえず、すぐ帰ってきなさい。」
「せっかくだから、このスマホの機能をつかうわね。」
横からアオの声が聞こえた。
すると、次の瞬間、アオとキョウがここに転移してきた。
「ちなみに、今の転移はアオの能力ではなく、このスマホの機能のひとつよ。持ち主の魔力が高ければ、このスマホをつかって、ある持ち主から別の持ち主まで、転移することができるわ。」
ワタシがブジャクにスマホの機能を説明する。
「なんと、これでですか!?」
驚いた表情でブジャクはスマホを眺める。
そして、ふと顔をあげた。
「アビ陛下。ひとつ、よろしいでしょうか。」
「なに?」
「これは、今どれほど出回っているのでしょうか。」
「まだまだ量産体制はととのってなくてね、この国でも一万台くらいよ。あと王都の近く、歓楽都市オアシスでも、まずは試作品を一千台くらいばらまいているわ。」
ガリョウもにっこりと微笑んだ。
「……承知しました。閣下にそのように伝えます。」
ブジャクは深く頭をさげた。
このスマホの脅威を理解したか。
やはりブジャクは切れるな。
それはさておき。
キョウはつかつかとブジャクのほうを向く。
「聞いての通りだ。もし、カイがみつからない場合、私が王位につくつもりだ。その時には、このアビがこの私の後見人になると言ってくれている。しかし、私はできれば王国の人間でこの国難を乗り越えたいと思っている。だから、アビ・・」
そういって、彼女はワタシをみつめた。
「私はこのブジャクとともに一度、国へ帰ろうと思う。自分が王になるために。」
彼女は、自分の道を見つけたらしい。
こうなったら、彼女の意思は固い。
もっとも、今までも彼女とはしょっちゅう会っていたし、このスマホを使えば、彼女に何かあってもすぐに転移していける。
「わかったわ。なにかあったらすぐ、連絡するのよ。」
「ありがとう。アビ。」
こうして、魔王による誘拐事件は終結したのだが、これにより王国では国をふたつに分ける戦争がはじまることになるのだった。
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