第223話 誘惑
(こんなところに霊教の大司教が?)
リユウはわずかな手勢をつれて歓楽都市オアシスを訪れた。
そして、娼館街。
半裸の女たちが男たちを誘惑している。
そんな風景の中、数名の護衛たちが、町に似つかわしくない身なりでリユウを守っている姿は浮いていた。
「ここにジョイエル殿が?」
ひとつの娼館の前で立ち止まり、案内の男に確認する。
「はい。間違いありません。」
案内の男がうなずく。
「お前たちはここでまて。」
リユウは護衛をまたせて、店に入ろうとする。
受付の女が出てきた。
「エルフの人?しかも女性、めずらしいわね。大丈夫よ、女の子もいける子もいるから。」
女はそういってリユウを招きいれようとする。
「あー、すまない、そうではないのだ。こちらにジョイエル殿がいると聞いてやってきたのだが。ジョイエル殿はいらっしゃるか。」
「あー、そっちのほう。エルフの人が?なおさら、めずらしいね?」
女はそういいながら、リユウを奥へ案内する。
(なんだ?そっちのほうとは。)
リユウは不審に思いながらも奥の部屋にすすんだ。
(そういえば、数百年生きてきたが、娼館などはじめてだな。なにごとも経験だな。)
リユウはそんなことを考えながらも、小部屋に案内される。
そこにはジョイエルがいた。
かつてのように神官姿ではない。
娼婦のように淫靡な衣装をまとっているが、まぎれもなくジョイエルであった。
椅子に腰かけ、優し気にほほえんでいる。
「今日はどんな症状できたの?とりあえず、服を脱いで症状を見せてくれる?肌つやもわるくないから心配しなくて大丈夫よ。」
(なんだ、どういうことだ。)
「いや、ジョイエル殿、私はリユウといって、宰相アマン閣下の使いで来たものだ。なにか誤解されているようだが、」
リユウは戸惑いながらこたえた。
ジョイエルはしばらく沈黙して、笑って答えた。
「失礼しました。私はてっきりなにか性病でこられたのかと。エルフが性病などと珍しいとおもったのですが、違いましたか。リユウ殿でしたか、どこかで見覚えがあると思っていましたが。」
「せ、性病!?」
リユウはジョイエルの反応におどろいた。
「いえ、私はアマン宰相の命でお願いがあり、ここに参ったのです。」
そしてリユウはジョイエルに、ここに来た理由を告げた。
カイ王がジョカエルによって誘拐された可能性があること。
そして、その行き先がおそらくはるか西、霊教国であること。
ジョイエルにその捜索の旅、および霊教国への使節団に同行してほしいこと。
その条件として、霊教徒の支援を約束することを。
ジョイエルは話を聞き終えてから、静かに答えた。
「申し訳ありませんが、私はお力になれません。」
「なぜですか。ご不在の間のことならご安心ください。霊教徒の皆さんの支援はお約束します。」
(手荒な真似はしたくないが、どうしても首を縦に振らないなら、痛い目に合わせるしかないか。)
「私は形式上はまだ霊教の大司教ですが、もう、私の信仰は霊神にありません。」
意外な答えにリユウは戸惑う。
「それはいったいどういうことですか。」
「今、私が仕える神は玄武竜クロ様です。今、私がこうして生きていられるのも、あの方のおかげなのです。」
そうクロを語るジョイエルは、信仰を話しているというよりも、愛するものを話しているように頬をそめていた。
「クロ様ですか?」
リユウは戸惑いながら聞いた。
「そうです。今の私は、あの方のそばにいることが幸せなのです。」
「いや、しかし、クロ様はここにはおられないのでは?なんでも最近はあの魔王アビにあがめられていると聞いていますが。」
「こちらにはスカーレット様もいらっしゃいますから、よくおいでになりますよ。」
「スカーレット様、あの朱雀竜様もここに?」
「はい。」
(信じられない。こんな娼館に四神が二人も出入りしているなど、どうなっているんだ。)
(しかし、まずいことになった。ジョイエル殿の背後にクロ様がいるなら、力づくなどできるはずがない。)
(まずはクロ様を説得せねばならんかもしれん。)
「では、クロ様はどちらに?」
「連絡ならすぐにつきますが。」
「そうなのですか?では私も同行します。」
「いえ、そうではありません。これです。」
そういいながら、ジョイエルは手のひらに収まるくらいの、魔道具らしきものをとりだす。
「なんでしょうか。これは。」
「数魔法?というらしいです。魔国ではこれが流行っているらしくて、私もクロ様からいただいたのです。」
「すうまほう?」
のぞいてみると、魔道具に数字のようなものが並んでいた。
「あ、失礼、これは人にはみせてはいけないそうです。」
ジョイエルはその浮かんだ数を何やら押している。
そして、さらに魔道具を操作すると、魔道具からメロディーが流れる。
「それは?」
リユウは興味深そうに眺める。
「このメロディーがクロ様を呼ぶようです。」
ジョイエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
しばらくすると、魔道具にクロの顔が映った。
「どうかしたか?ジョイエル。」
「クロ様、今、話してもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。」
「これは!?」
(思念通話ではない。)
(実際に、相手の顔と声が聞こえるとは!?)
(どんな魔術なの!?これは!?)
「リユウ殿というかたが、クロ様とお話ししたいとおっしゃってまして。」
「リユウ?どこかできいたような。」
「アマン殿にお仕えしているエルフの魔導士ですよ。」
そういいながら、ジョイエルはスマホをリユウのほうに向けた。
「あー、あの子か。いいよ。今はオアシスにもどってるから、そっちにいくよ。」
クロはそういうと通信をきった。
「とんでもない魔道具ですね。」
リユウはまじまじとスマホを見る。
「アビはこれを人類圏にも持ち込もうとしているらしいですよ。」
「これをですか。」
(アビ。恐ろしい魔王になっている。)
(坊やが彼女と不可侵条約を結ぶというのはただしいかもしれない。)
そのとき、目の前にクロが転移をしてきた。
しかし、その姿におどろく。下半身こそタオルで巻いているが、上半身は乳房があらわになっている。
「クロ様!?そのお姿は?」
リユウが慌てておどろく。
「この近所の店でやってたんだよ。そしたら、お前が呼ぶから。服を着ようかとおもったんだけど、よく考えたら、どうせ脱ぐからこのままでいいかと思って。」
「は?どうせ脱ぐとは?」
リユウは全く事態についていけず困惑する。
しかし、なぜか不快感すら起こってこない。
数百年ぶりに胸がときめくのを感じていた。
(なぜ、なぜ、胸がどきどきするのだ。)
「だって、君、私に抱かれに来たんだろう。」
クロはそういって、リユウに近づき抱き寄せた。
「前はキスはしてやったかな。」
そういいながら、リユウの唇をうばった。
しかし、リユウはなぜか逆らう気がおきなかった。
クロの【誘惑】であることも気が付かない。
そして、クロのタオルがおちた。
そのままベッドに押し倒された。
リユウの身体に、数百年ぶりに熱い火のようなものがはしった。
ジョイエルもまた、ゆっくりと裸体になった。
「クロ様、ジョイエル殿、何を!?」
リユウの身体がさらにあつくなる。
「何って?娼館でやることは決まってるじゃない。」
ジョイエルはリユウの横に寝転がった。
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