第219話 魔王らしく
ワタシが魔王になってしばらくして、日々の仕事にせわしなくしていたが、
ある日、部屋の扉からキョウがやってきた。
いつになく神妙な顔立ちで。
「アビ、話がある。」
彼女は切り出した。
ワタシは戸惑いながらも頷いた。
「決めた。私はショウの誘いにのり、縁談を受けようとおもう。だから、アビ。お前とこうして合うのもこれが最後だ。」
彼女は笑顔でいった。
「まあ、私も人の妻になるんだ。もう、自由には外にはいけない。でも、妲姫に頼めば便りくらいは出せると思う。今まで、ほんとうにありがとう。」
彼女は一方的に喋った。
ワタシは頭が白くなって言葉がでてこなかった。
「そういうわけだから、元気で。もう一晩くらいお前といっしょに過ごしたかったが、長くなると、逆につらくなるから。じゃあ。」
彼女はそういうと背を向けて扉をくぐろうとした。
このまま、彼女と、キョウと会えなくなる?
死んだテルが重なった。
ワタシは無言で彼女の肩を掴んだ。
「だめよ。」
「無理をいうな。私は決めたんだ。この国の戦争を終わらせると。私は一度、仮の王になる。そして、カイが戻ってきたら王位を返す。もう、お前とはいっしょに・・・」
「だめよ。」
ワタシは無言で後ろから彼女を抱きしめた。
「あなたはワタシの妻になるのよ。」
キョウは振り返った。
「馬鹿! そんなこと許されるはずがないだろう!」
キョウの眼に涙が浮かんでいる。
ワタシは笑った。
クロ、あんたのいうとおりだ。
ワタシは魔王だ。
魔王らしくやってやる。
ワタシはキョウを抱きかかえて、部屋からでた。
皆が不思議そうにこちらを見ている。
「私、魔王アビはたった今! キョウ王女を王国から攫い、妻にすることにした! 異論があるやつがいるか!?」
一瞬の沈黙。
そのあと、
「魔王アビ、バンザイ!」
「キョウ王妃バンザイ!」
誰からともなく、歓声が沸き起こった。
「アビ・・・」
キョウはワタシに抱きついて泣いている。
◇
翌日の朝、霊都は大騒動となった。
突然、キョウ王女と仕えていた悪魔、妲姫が姿を消したのだ。
そして、鏡台に赤いインクで犯行声明が書かれていた。
「キョウ王女は我が妻とすることにした。よってその身を攫った。なお、私は人類圏と争うつもりはない。近いうちに結婚式の招待状を出すので、来るように。貴国を永遠の平和を願う 魔王アビ」と。
群臣たちは激怒した。
魔王討つべし!
姫を取り返せと。
アマンは黙って会議の様子を観察していた。
(陛下は行方不明、王女は誘拐、王家不在とは。)
(王家がいなくても、私がいれば国は回っている。)
(不敬な考えだな。)
アマンは自分の考えをふりはらう。
「閣下、オレに魔王討伐の命令を!」
ジユンが手をあげた。
「だから、アビは早く殺しておくべきだと言った。私に命令を!」
エルフの魔術師リユウもあとに続く。
(やむを得まいか。)
アマンがアビ討伐を命令しようとしたとき、アビ討伐を躊躇させる知らせが入ってきた。
◇
しばらく前——
「アビ、ガリョウ、これはどういうことだい?」
究姫がワタシとガリョウのもとにやってきた。
究姫は不機嫌そうに一枚の紙をワタシたちにみせた。
ワタシは雰囲気づくりのため、魔王っぽい玉座に座っている。
王妃の席にはキョウもすわらせている。
「どうもこうもありません。そのままです。」
ワタシの代わりにガリョウが答えた。
ガリョウには宰相をしてもらうことにしたのだ。
「この国、魔国の国教を、あなた、凍子様と、アオ様とクロ様、つまり、魔王就任の立会人になっていた方々を崇める、『真教』とすることにしました。」
「そんな宗教聞いたことがない。」
究姫がにらんでいう。
「それはそうです。新たに作った新興宗教です。」
「勝手にそんなものつくるな。」
「今までの貴方がたを崇める宗教はあったじゃないですか。それを国として統合します。」
「迷惑だ。」
「勝手に崇めるだけなので、気にしないでください。」
ガリョウも究姫相手に引かないとは大したやつだ。
しかし、助け舟をだすか。
「まあまあ、私たち友達じゃない。硬いこと言わないでよ。」
ワタシはそういいながら、テーブルを引っ張ってきて、彼女のためにお茶をいれてやる。
「正直いうけど、あなたたちの名前を貸してほしいの。」
ワタシは彼女に頼んだ。
先日も、荒っぽい連中がワタシが魔王になどみとめるかと乗り込んできた。
もっとも、一瞬でビゼンに叩き伏せられていたが。
「ほう。悪魔に頼み事か? ただというわけにはいかないよ。」
究姫がニヤリと笑った。
「いいよ。前みたいに右目を渡せばいい? それとも子宮? ワタシにはもういらないみたいだからいいけど。」
ワタシは淡々といった。
「お前、おそろしいことをいうな。そんなものはもういい。」
究姫は苦笑いをした。
「だったらなにがお望み?」
またとんでもないことを言い出すのではと警戒する。
「クククク。」
究姫が邪悪にわらい、懐から何やら取り出した。
「これだ!」
そういって、彼女は魔法通信機「スマホ」を見せる。
ガリョウが元の世界のスマホを魔法でこちらの世界に再現した。
これをうちの国民に順次配ることにした。
今までいまいち管理できなかった、アガリ、つまり税金をこれで管理し、さらに有力な住民の戸籍を密かに収集している。
エグいことを考えたものだ。
さらに、ガリョウはワタシに戦いを挑んできた凍子にこれを渡して、ある方法で懐柔してみせた。
そのある方法もまたすごかった。
スマホに連動する機能として「エクスター」という機能をもたせたのだ。
それはユーザー同士が繋がれるといういわゆるSNS機能である。
ガリョウは凍子のアカウントを勝手につくり、しばらく凍子になりすまし、ファンをつくっていた。
四凶とやりとりができるということで、そのアカウントは利用者の中ですぐに人気者になり、凍子は今や、真教の広報担当兼アイドルになった。
そのアカウントを凍子にまるごとゆずったら、凍子はそれをとても気に入ってくれて、戦うのはしばらく保留にしてくれるということになった。
今や、暇さえあればエクスターをいじっている。
究姫は、真教自体に反対するだろうからとアカウントはつくっていなかったのだが・・・
「凍子のように私にもアカウントを作ってもらおうか。」
究姫はニヤリと邪神らしい笑みを浮かべた。
ガリョウは究姫からスマホをうけとり、顔認証を登録してさっさとアカウントを作ってあげた。
「おお! 昨日、凍子に自慢されて悔しかったんだ。ガリョウ、お前いいやつだな。こまったことがあったらなんでもいえ!」
究姫はそういうと満足そうにワタシとキョウとガリョウの四人で写真をとり、「こいつらは私の友達だ。こいつらの敵は私の敵だ。」とエクスターに投稿した。
それがいろんなところに拡散され、エクスターを超えて、魔国の魔王アビと王妃キョウは四凶究姫の友人となったという話が、央国にも広まったのである。
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