第215話 アビと須玉
ガバッ。
ベッドの上から呂鋼鬼が起き上がった。
「思い出した。」
起き上がるなり彼女は言った。
ワタシとガリョウとビゼンが彼女の様子をみていた。
「何を思いだしたの?」
ワタシは彼女に聞いた。
「そうだ。私は災王様と話をしていたそのとき、あいつだ。須玉と仮面の男が現れたんだ。
そして、私はその場で須玉に戦いをいどんで、あいつの剣で心臓をつらぬかれた。」
そういって彼女は自分の胸に手をやる。
「おわああああ!」
再び彼女がさけんだ。
「どうしたの?」
私達が驚いて彼女をみた。
「なんだこの胸は!? この細い腕は!?」
自分の体をみて驚いたようだ。
うん、それはしかたない。
「えーっと、あなたは死んで、クロによってオグレスという種族にされたらしいの。」
「オグレスだと!?そんな貧弱な種族に!?」
彼女の顔が怒りで赤くなっていった。
オグレスというのはオーガとは違い、戦闘力のまるでない鬼族だ。
「詳しい話はまた今度ね!」
「まて、話はまだ終わってないぞ!」
ワタシはあいつが待つ舞台へ向かった。
◇
「また、あったなアビ。」
レジェンドはいった。
ワタシが知っているやつよりも数段、体が大きくなっている。
以前会った時とも別人だ。
「あんたもしぶといね。」
ワタシは呆れるようにいった。
「先にいっておくけど、あなた、たぶんもう死んでるわよ。」
「殺したのは、お前らだろうが!」
(あ、知ってたのか。)
「審判! 質問がある!」
レジェンドはクロに向かって聞いた。
「なんだろう? この後はあいてないし、悪いな。私はこう見えて男とはやらないんだ。」
「ちがう! そんなこと誰が聞いている!」
クロがレジェンドをおちょくるようにいった。
「戦いの中で、オレがこのアビに何をしても止めないな。」
「ああ、アビが降参しない限りね。」
クロが答えた。
「もう一つだ。俺は魔王になる推薦はもらえるんだな。」
「ああ。いいよ。このアビに勝てたらね。」
クロはこっちを見ながら言った。
「試合が終わったとたんにアビの味方をするとかはないな。」
レジェンドはもう一度クロに確認する。
「わりとルールがガバガバなこの試合だが、いくら何でもそれはない。お前は魔王になる資格をえる。それは約束する。」
クロは再びいった。
「それを聞いて安心した。」
レジェンドは一歩下がる。
「それでは、魔王決定戦、最終戦はじめ!」
クロが試合開始の合図をおこなった。
こいつにはこの世界の攻撃は全て効かない。
しかし、異世界人のワタシの素手の攻撃だけが通る。
ワタシは【限界突破】で肉体を限界を超えて強化し、【雷神】でさらに自分の身体を動かす。
そして、やつのあごに向けて思い切り右フックを放った。
ワタシの拳がやつのあごに命中した。
しかし、その瞬間、やつの右こぶしがワタシの腹にめり込む。
「ぐは!」
息ができなくなる。
目元がくらむ。
しかし、ワタシの【雷神】はワタシの身体を強制的に動かして追撃を回避した。
一方、やつは首を左右に揺らしてにやける。
「どうした。何もきかねえぞ。」
どんなに鍛えようがワタシの一撃を顎に受けて、人間の脳が揺れないなんてありえない。
そして、触れた瞬間【触診】を放ったが、やつの肉体はやはり解析できなかった。
こいつ自体にはこの世界のスキルは一切きかない。
しかし、今ので一発でわかったことあった。
◇
「まずいね。アビの拳が須玉に届いていないね。」
究姫がつぶやいた。
凍子は二人の戦いを目を輝かせて見ている。
「勝ったほうと私が相手をしてあげるよ。」
凍子がつぶやく。
「いや、そんなルールないだろ、」
究姫が突っ込んだ。
「だめというルールもないでしょ。」
凍子は屁理屈をこねた。
「あいつのスキルはこの世界の攻撃は全て無効、いっぽう、この世界ではない異世界人の攻撃は通る、だったわね。でも今のアビは究姫、あなたのせいで半分魔族みたいなものだからね。それであのスキルが有効になったみたいね。」
アオが冷静にいった。
「別に私のせいだけでもないだろ。それより、やけに冷静じゃないか。このままじゃ、アビは殺されるよ。」
究姫がアオに答えた。
「まあ、そうなれば、アビを助けるから別にいいわよ。」
「いや、だから私達は中立というルールだろう。」
究姫はアオにジト目でいった。
「なにいってるのよ。そんなルール改定すればいいじゃない。」
アオはこともなげにいう。
「お前、何をいってるんだ?」
究姫と凍子はアオをみた。
「あなたたち二人が、私達が自分が応援するものに手をかしてもいい、というルールに賛成すればいいじゃない。そうすれば私達で3票。スカーレットとクロで反対2票で私たちが勝つわよ。」
「はあ? いやいやそんなむちゃくちゃ通らないだろ!」
究姫がアオのとんでも発言に異議をとなえた。
「スカーレット以外の他の連中は連絡したのに来なかったじゃない。棄権票になるわよ。それとも究姫、お前、アビがあいつに公開で犯されるのを見たいの? 私はちょっとみたいけど。」
「いやいや、そうじゃないだろ!というか、見たいって変態か!」
「まあ、まだアビが負けたわけじゃないから黙ってみてようか。」
アオは散々好き勝手いって、試合観戦にもどった。
◇
ワタシも徐々にわかってきた。
最初はワタシの攻撃が魔族化した奴の肉体に効いてないのかとおもった。
実際、奴のからだは、人間のそれじゃない。
おそらくいろんな種族のものが混じっている。
しかし、問題はそれだけじゃない。
ワタシの攻撃がそもそも通っていないんだ。
ワタシの身体が魔族化しているとアオたちが言っていたが、たぶんそういうことだ。
ワタシの心身が人間、つまり異世界人ではなくなっているんだろう。
レジェンドの拳が空をきる。ワタシはかわしながらヒットアンドアウェイを繰り返す。
しかし、このままでは、そうおもったとき、やつの足がワタシの足を踏みつけた。
(かわせなかった。)
その瞬間、奴の右手がワタシの髪をつかんだ。
(いた!)
次の瞬間、やつの左手がワタシのテンプルを打ち抜くのを感じた。
ぶちぶちぶちと髪の毛がむしり取られる。
クソ!
◇
「一つ確認したい。」
姒鯀がスカーレットにふった。
「はじめてアンタから話しかけてくれたね。」
スカーレットは嬉しそうにいった。
「もし、このまま須玉が勝てば、オレは魔王の後ろ盾として四凶に認められるのか。なら、あのアビの命までは取らせない。」
姒鯀はこのタイミングでスカーレットに取引を持ち掛けた。
「その前に聞きたいんだけど、君の目的はなに?」
スカーレットは質問で返した。目は姒鯀をとらえている。
「おれは、魔王におれ達の国をつくらせることだ。」
「だったら、君が魔王になればいいじゃない。」
「たしかにそれも一つの方法だが、それはここじゃない。なんだかんだいって、アンタたちはあのアビの肩を持つだろう?」
「なるほど。君は須玉に勝たせたうえで、私達に貸しをつくりたいと。」
「そうとってもらって構わない。」
姒鯀は仮面の下からスカーレットをみた。
「でも、勝負はまだわからないわよ。」
「ばかな、アビにもう残された手はない。」
しかし、次の瞬間、姒鯀は目を見張った。
「ぐわああああ!」
アビの一撃で須玉が叫び声をあげたのだ。
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