第212話 戦いの前
旧魔王城跡地——
ここはここに住むものにとって聖地になっているらしい。
この地の魔王以外のものが住むことを許されない場所。
しかし、魔王ヴィクトリーが勇者ヨウトに倒されて、数十年後も清掃を怠らなかったおかげで、中は美しいままだ。
さらに、ヴィクトリーの肖像画が今でもかけられている。
初めてみたが、40代くらいの精悍な男性だ。
魔王と呼ばれているが、その容姿は人間と何ら変わらない。
ヴィクトリーもワタシと同じように異世界から召喚されて魔勇者と呼ばれる人間だったと聞いたが本当だったか。
ワタシのもとに獅子の顔をした獣人が近づいてきた。
なにものだ? こいつ。
恐ろしく強い。
だが、殺気はない。
「我が災王だ。お前がアビという女か。」
(こいつが災王!?)
自分から名乗ってくるとは思わなかった。
「そうよ。」
ワタシは短く名乗った。
災王はヴィクトリーの肖像をみながらつぶやいた。
「だれが、刑将を殺したかまだわからんのか?」
お前じゃないのかといいそうになったが、その目はどこか寂しそうだった。
「本来なら、アンタと刑将様のいずれかが魔王になったんでしょうけどね。アンタにもその資格がある気がする。はじめて会ったけど、そう思う。」
ワタシは彼に正直な気持ちをいった。
「須玉様はチミだ。」
彼が予想外の言葉をいった。
「なんですって? あのレジェンド!?」
「そうだ。オレにいえるのはここまでだ。いい試合を期待している。」
災王はそれだけ言って去っていった。
須玉がレジェンド。
なら、全ての物語がつながる気がした。
死んだあいつを姒鯀が蘇らせて操っていると。
アイツとの因縁も今度こそ決着をつけないといけないのかもしれない。
◇
魔王城、闘技場。
観客席では、災王、いや、須玉を応援するものたちと、ワタシを応援するものたちがにらみ合っている。
その中をワタシはひとり、闘技場の中心に向かった。
まだ須玉、つまりレジェンドのすがたは見えない。
たっているのは一人のオーガの戦士。
ただし、以前の彼女とは姿がまるで違っていた。
身体は一回り、大きくなり、おそらくは魔力でできたとげとげしい鎧が全身を覆っている。
ワタシの解析スキル【翻訳者】が発動する。
電撃耐性を上げ、全身を強化および硬化。
なるほど、ワタシに対する対策をしてきたわけか。
電撃を通さず。
全身を硬化することで、物理攻撃もはじくと。
でも、本気を出していなかったのはこちらも同じこと。
二人の間にクロが舞い降りた。
「この戦いは私、玄武竜クロ、および、そちらにいる、青竜アオ、ついでに究姫と凍子が立会人となる。この戦い及びこのあとの須玉との戦いの勝利者が魔王となる資格をえる。我々は戦いが終わるまで一切中立を貫き、なにものにも邪魔をさせないことを約束する。」
はじめてみる彼のすがたに会場のものたちがわく。
「あれが、玄武竜様か。」
「何と美しい。」
「他の四神様もあのように美しいのか。」
その声に答えるように、クロはその場でくるりとポーズをとり、会場に投げキッスをした。
その姿に更に会場は沸いた。
何をしてるんだこの人は。
◇
会場で観客に紛れていた姒鯀は戦慄した。
クロが姒鯀のほうをみて、投げキッスをしたのだ。
(なるほど。すべてわかったということか。)
「そこのとなりの席、譲ってくれないかしら?」
赤い髪の女が姒鯀のとなりに座る男に声をかける。
「なんだと?」
男が拒否した瞬間、男は一瞬、炎に包まれると、衣服だけが消し炭になった。
「な、なんだこりゃあ!」
男は声をあげて離れていった。
(こいつは!?)
「失礼。」
そういうと女は姒鯀の隣に腰掛けた。
「私はスカーレット。君が姒鯀というやつか?」
(朱雀竜か!?)
姒鯀は戦慄した。
しかし、何事もないようにふるまった。
「ええそうです。朱雀竜様に名前を知られているとは光栄です。」
「その仮面をはずしなよ。」
スカーレットは姒鯀にいった。
姒鯀は仮面をはずし、白い魔族の顔を見せた。
「それもだよ。」
スカーレットの言葉に姒鯀は、幻影をとき、黒いダークエルフの本来の精悍な表情をみせる。
「なかなかいい男じゃないか。」
「これでよいですか。あまり目立ちたくないもので。」
姒鯀はそういうと再び仮面をつけた。
「さっき、クロがいったようにこの試合が終わるまで私たちは何もいわない。しかし、あんたも何もしない。一観客。それでいいね。」
スカーレットは前を見ていった。
姒鯀は返事をせず沈黙した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




