第211話 傀儡
「こんな知らせが来ました。」
ワタシはガリョウから手紙をうけとった。
災王の勢力、地位を全て、須玉というものにゆずる。
そして、魔王決定戦もこの者が、自分に代わって出場すると。
「ガリョウ、シリュウ、この須玉という名前に聞き覚えは?」
「ない。」
「ありません。」
二人がいった。
「ガリョウ、災王のところに何か動きは?」
「実は、数日前、不審なものが二名、災王の屋敷に忍び込みました。その後は不明です。」
「捕まったってこと?」
「そう考えるのが普通ですが、わかりません。かわりに逃げ出した者が一名います。」
「一名?」
「慌てて飛び出していきました。普通に考えれば、忍び込んだ二人のうち、一人がつかまり、一人が逃げ出したと見えますが、詳細まではわかりません。」
「その後、災王側に変化は?」
「とくになく、その後、この話が発表されました。」
「なるほどね。」
刑将様の屋敷にもまれに命知らずが入ってきて、捕らえられることもあったし、これだけではなんともいえないが。
「それで、魔王候補の一人は暗殺されて、一人は引退。それでもやるの?」
ワタシは部屋の隅で酒を飲んでいるクロとアオに聞いた。
二人はここのところ、ワタシが魔王になると決まったかのように前祝いをしている。
「相手がやるといってるんだから、問題ないよ。それにあんたが勝てば問題ない。」
しかし・・・
「でも、そんなどこのだれかわからないやつが魔王になってもいいの?」
ワタシは二人に聞いたが…
「私たちにとっては、刑将も災王も、前のヴィクトリーも名前くらいしかしらない奴らだから同じよ。」
クロがアイスを舐めながら話す。
なるほど。彼らにとってはそんなものか。
「もし、ワタシが負けたらどうするの?」
「別に何も。死にそうになったら助けてあげるし、もし死んでも、精神体が砕かれない限り生き返らせてあげるから大丈夫よ。」
アオがとんでもないことをいった。
「アオ、あなた、死者の復活までできるの?」
「普通の人間は無理よ。でも、アビはもう普通の人間じゃないし、どっちかというと悪魔族と人間の間よ。精神体が砕かれない限り、死んでもすぐなら生き返れるわ。人間は肉体と精神体が同じだから、無理だけど。」
すごいことをいってる。
「あの姒鯀というのも、死人を生き返らせてたけど。」
「あれは、一時的に魔力で動かしてるだけよ。あなたの精神体はもう悪魔とよばれるものに近くなってるわ。」
それはなんといったらいいのか。
シリュウとテルはなんとも言えない顔をしている。
他の連中は、そうなんだ、てなもんだ。
「だから、魔王決定戦は問題なく行ってくれ。頑張れ。」
クロが他人事みたいにいった。
ワタシも覚悟を決めないといけないらしい。
◇
「アビを傷つけるな、だと!?」
須玉が姒鯀に叫んだ。
(こいつにはオレの死者支配の能力がいまいち効かないな。)
姒鯀は須玉のレジェンド勇者としての能力だけは認めざるを得なかった。
「ああそうだ。」
姒鯀はうるさそうにいった。
災王が座っていた玉座に姒鯀がすわり、災王もよこに控えている。
「別に負けろとはいってない。殺すな、暴行などするなといっているだけだ。」
「できればオレも殺したくはねえ。だが、あいつはオレの女にするんだ。」
「ああ、できるなら好きにしろ。しかし力ずくはだめだ。」
「なぜだ! オレは強い! あんたのおかげだ! 勝者が敗者に何をしようが自由だろうが!」
姒鯀はため息をついた。
「青竜や玄武竜に恨まれるのは避けたい。女などいくらでもいるだろう。」
「あいつは、特別なんだ! それをあいつは、オレを見殺しにしやがって! 許せるかそんなもの! あんただって、凍子のやつを許せないから、こだわっているんだろうが!」
その瞬間、姒鯀は須玉の顔面を蹴り飛ばした。
「ぐわあああ!」
須玉は悲鳴をあげて倒れこんだ。
「勘違いするな。貴様はオレが生かしてやってるんだ。オレがその気になったらいつでもお前は死体にもどるんだ。」
そう言いながらも、姒鯀は戸惑っていた。
いままで蘇らせた死体は自分が操られているという自覚さえなかった。
現に他の死人はこの様子を黙ってみている。
(これがこいつのスキルによるものか。)
(四神に真正面から敵対するのは論外としてもこいつの能力はつかえるかもしれん。)
(まだ利用できるかもしれん。)
鼻を抑え、のたうち回る須玉を見下ろしながら姒鯀は考えた。
◇
須玉は自室にもどり、苛立ちを抑えようとしていた。
女でも抱き、気分を変えようと思ったが、苛立ちのせいでそんな気分にもならなかった。
「おい、ゴブオ! いるか!」
「はいい!」
ゴブオは一度、チミがアオに捕らえられたあと、どさくさに紛れて逃げ出した。
しかし、再び首輪の魔力でチミ、つまり須玉に呼び出されたことに気がつき、チミのもとに戻ってきていた。
「ところで、おまえ、よくオレのもとに戻ってきたな。アビのところに行くのかとおもったぞ。」
「ええ、まあ、オレの主人はダンナですから。」
しかし、実際は違った。
アビの兵たちに囲まれ、尋問を受けた。
そしてチミの奴隷であったことをありのまま話した。
すると、チミが捕らえられたこともあり、あっさり解放された。
しかし、アビ達の魔道士でも首輪は外れなかった。
おそらくこれはチミの能力の影響だろうと思われた。
その後、首輪にチミの魔力がもどったことで、チミが復活したことを知りもどってきたのである。
戻らなければ、自分が殺されるかもしれなかった。
主人を殴ったことで殺されるかもしれなかったが、主人がその気ならすでに殺されていたため、殺される可能性は低いと考えたのである。
(あー、そこの飯はうまかったな。)
ゴブオはため息を飲み込んだ。
「おまえ、オレがいない間、どこに行っていた。正直に話せ。」
須玉はゴブオを静かに睨む。
「えーっと、その・・・」
ゴブオは言葉を濁した。
「正直にいえ、怒りはしない。アビの部隊にいたのか?」
「ええ、まあ。」
「あそこの部隊は居心地がよかったか?」
須玉の言葉にゴブオは即答できなかった。
「そうか、わかった。」
須玉はニヤリとわらった。
「今まで、ご苦労だった。暇をやる。」
須玉がそういって手をかざすと、ゴブオの首輪がすっとはずれた。
「だんな?! これは!?」
ゴブオは信じられないという顔をして須玉をみた。
「なあに。このとおりだ。お前を自由にしてやる。行きたいところへ行け。だが、その前にアビのところに礼に行け。あとで、手土産とお前の当面の食糧と金を用意しておいてやる。」
須玉の信じられない言葉にゴブオは黙って聞いていた。
「だんな、ありがとうございます!」
ゴブオは床に手をついて礼をいった。
「なあに。今までご苦労だったな。」
須玉は床にひれ伏すゴブオの肩に手を置きながら邪悪に笑った。
◇
災王の屋敷にて。
「災王様、なぜ、得体のしれないやつを災王様の後継者などに!?」
呂鋼鬼は災王に食って掛かった。
「何を言っている。貴様も魔王に名乗り出たではないか。」
災王は静かに答えた。
「しかし、私は災王様こそが魔王にふさわしいと思っています! なぜ引退を!? まして、あの須玉というものはなにものなのですか。それにあの仮面の男は一体!?」
(私は災王様の屋敷から逃げ去ったあと、翌日、自分の眼をうたがった。)
(たしかに惨殺されていたものたちが、何事もなかったように日常を過ごしていたのだ。)
(異変はそれだけではなかった。)
(奇妙なことに、災王の屋敷にいた腹心からは反対の声があがらなかった。)
「貴様も死にたいのか。本来であれば他の反対者と同じく殺すところだぞ。しかし、貴様は魔王決定戦で、あのアビに敗れるか、そのあと須玉様に殺されるがいい。」
災王は無表情に答えた。
「私が屋敷に来たとき、屋敷は死体で溢れていました。そしてあの仮面の男がいました。やつは何者なのですか、それになぜ死んだはずのものが!?」
呂鋼鬼は絞り出すように言った。
「夢でも見たのだろう。このとおりだれも死んではいない。あのお方はとある高貴な方だ。四凶、死翼様の後継者とだけ言っておこう。」
その威厳は何も損なわれていない。
だからこそ理由がわからなかった。
「呂鋼鬼よ。お前が言いたいことがあるなら、アビを倒し、須玉様を倒せばいいではないか。違うか。」
災王は力の論理をいった。
「その後、お前が魔王になるもよし、あの刑将を殺した真犯人を探すも良し。好きにすればいい。」
「では災王様はどうなさるのですか?」
呂鋼鬼は歯を食いしばりながらいった。
「その時は、新たなる魔王となるお前を支援しよう。さあ、わかったらでていくがいい。次に会うのは死合だ。」
「災王様!」
呂鋼鬼は食い下がった。
その時、静かに扉が開いた。
そこには須玉と仮面の男、姒鯀が立っていた。
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