第208 新たなる魔王を決める戦い
アオがゆっくりとチミに近づいた。
(なんとかにげないと!)
そう思って、自分の体を動かそうとするが、動かない。
見ると、首から下が完全に砕け散り、首だけになったチミの髪の毛をアオはゆっくりとつかみ、もちあげた。
◇
「うわあああああ!」
「ようやくお目覚めね。」
ワタシはしゃがみ込んで、仰向けに倒れているレジェンドを覗き込んだ。
「お前は・・・ブラック、いや、アビ?! あれは夢か!?」
そして、レジェンドはとなりに立つアオをみて引きつる。
「ひいい!?」
そして、自分の体の異変に気がついた。
両腕、両足がなくなっている。
両腕は肩から下がなくなり、両足は膝あたりから下がない。
もう、血も止まってるし痛みも、ないが。
「おまえら、なんてことしやがったんだああ!」
まあ、叫ぶのはわからないでもない。
ワタシが現場についたときは全てがおわっていた。
ワタシの兵士たちがうずくまっている一方、こいつはもっとひどいことになっていた。
四肢が砕け散り、小便をちびって失神していた。
というか、ほぼ死にかけていた。
なんとか、回復させて止血し、傷を塞いだが、もう少しおそければ死んでいた。
なお、アオはこいつの名前すら知らなかったが、一応、生かしてはおいたそうだ。
「あんたを探してたんだけど、そっちから来てくれて手間が省けたよ。」
「ひでえじゃねえか! オレはなにもお前らの仲間を殺しちゃいねえ! ここまでするか!」
レジェンドは悲鳴のような声をあげた。
すると、シリュウがちかづき、レジェンドの体を踏みつけた。
「何言ってやがる! 散々、私たちの仲間を! それもあっちの世界からきた人間を殺しまくりやがって! 本当は今すぐ殺してやりたいんだ!」
何度も踏みつけ、顔を踏み、レジェンドが悲鳴を上げた。
「あんたを、これから刑将様のもとに届ける。それからのことは刑将様にお任せするけど、楽に死ねないよ。今ここでワタシたちに殺されておいたほうが良いと思うけどどうする? 今ならこのアオに頼んで苦しまないように殺してもらうけど。せめてもの同郷のよしみの介錯よ。どうする?」
ワタシは低い声でレジェンドに問いかけた。
「いやだ! 殺さないでくれ! アビ!」
レジェンドは泣きわめいた。
「まあ、時間はあるけど、考えておいて。あんたを殺そうとすると、ワタシたちが殴り殺すか、あとは、餓死するまで放置するしかない。アオに頼んで介錯してもらうってのは武士の情というやつよ。いくわよ。」
ワタシはアオとシリュウに告げて、牢をでていった。
いくらあいつでもあの状態じゃあなにもできない。
なんとも後味の悪い最期だ。
せめて、ワタシの手で殴り飛ばしてやりたかったがああなるとどうしようもない。
ワタシたちはやつを連れて刑将様のもとにもどった。
◇
「すばらしい! よくやったぞ! アビ!」
刑将様は横に青くなって転がっているレジェンドを見ながら言った。
まあ、ほんとはアオが全て片付けたわけだが。
「このクズが! どうしてくれよう!」
刑将様はそういいながら、レジェンドを踏みつけようとした。
しかし、まるで壁のような力でレジェンドには届かない。
やはりアオたちを除くこの世界の力ではこいつを傷つけることはできないらしい。
「くそお! やはりわしらの力ではこいつをころすことはできんか。ならばこのまま、雨ざらしにしてやる。あるいは、汚物の中にすてるか。徐々に死の恐怖を味わいながら死ぬがいい!」
まあ、そうなるわな。
「刑将様、お願いがあります。」
ワタシは刑将様にひざまずいていった。
「なんだ。アビ。わしにできることならなんでもやろう。」
「このレジェンドはクズですが、流石に雨ざらしにして、餓死させるのはあまりにむごい。アオならばこいつに介錯することもできます。せめて、名誉の死を。」
「だめだ。いくらお前でも、それはきけん。こいつに何人の部下や仲間が犯され、殺されたとおもっているんだ。」
刑将様の声には、はっきりとした拒絶があった。
少し迷った。
プラン一。刑将様に戦いをいどむ。
いや、だいたいこいつの自業自得である。
クライアントに弓をひくほどの義理はこいつにはない。
プラン二。アオにたのんでこっそり殺してもらう。
直ぐバレる。
それにこんなゴミを殺すのにアオの手を汚させるのも申し訳ない。
もっとも彼女からすれば、ハエや蚊を叩き潰すくらいのものなのだろうが。
プラン三。素直に金塊をもらって仲間たちに還元する。
やはりこれだな。
よく考えたら、ワタシの仲間もこいつに痛い目に合わされ、アオも不愉快になっている。
こいつのためにアレコレする義理はないではないか。
「では、刑将様、褒美は約束通りお願いしますね!」
ワタシはにっこり微笑んだ。
「おお! そういう話なら心配するな! 色をつけて今すぐ支払うぞ! おい! あれをもってこい!」
刑将様が部下に指示をすると、山のような金塊が持ってこられた。
「おお・・・」
思わず声が出る。
例の鋼祖の部隊も増えて、おサイフ事情がどうしたものかと思っていたのだ。
「このクズ! 人でなし! 殺してやるぞ!」
横でイモムシがなにか喚いているが、今のイモムシには喚くことしかできない。
「そして、いよいよだ! 災王に決闘を申し込む! それで全ての決着をつけてやる!」
そう言って、刑将様は立ち上がった。
体調が優れないと言っていたが、そんな姿は微塵もみせない。
いや、だからこそ、あせっているのかもしれないが。
まあ、なにはともあれ、ワタシの依頼はこれで完了だ。
レジェンドとも今生の別れになるだろう。
今夜は仲間たちと楽しんで、今後のことはそれから考えるか。
そんなふうに思っていたが話はそれで終わらなかった。
◇
夜、ワタシの部屋に、呂鋼鬼がやってきた。
おお、ワタシはいよいよオーガ族ともやらないといけないのか。
体のサイズが合わないがどうしようかと思っていた。
アオと三人でとのことだ。
そういう人も多い。
三ピーか。
なかなか上級者だ。
アオはその気になれば、男性器をつけることもできる。
諸君らの好きなふたなりだよ、ふたなり。
初めてをアオにもらってほしいという女兵士も多かった。
が、ちがった。
究姫はアオやクロのことをアレのことしか頭にない変態だといっていたが、知らぬ間にワタシも影響を受けていたらしい。
ワタシのそんな邪な言葉とは裏腹に、呂鋼鬼はまっすぐまじめな眼をしていった。
「アビ、アオ様。私とともに災王様のところに来てもらえませんでしょうか。」
彼女はワタシに全てを打ち明けた。
本来であれば、アオを災王のもとに連れて行って魔王の推薦をえるはずだったこと。そして、あのレジェンドが魔族になりたがっていたこと。
「いや、めんどうだから嫌なんだけど。」
アオがポツリと言った。
まあ、そういうでしょうね。
「まずは、お会いしていただくだけで結構なんです! それでアオ様の眼で災王様を判断していただきたいのです。なにとぞ!」
呂鋼鬼は頭をさげる。
「まず、大きな誤解をしてるから言っておくと、私はこのアビがこの地の魔王になればいいと思ってるのよ。当然この子の意志は尊重するけどね。」
「ちょ、何勝手なことを!」
おもわず、声を上げた。
「あら、これは私だけじゃないわよ。クロも究姫も凍子も推薦してくれるらしいわよ。なかなか前代未聞よ。いえばきっと、アカも反対はしないと思うけど。」
アオはしれっととんでもないことをいってる。
「いや、呂鋼鬼! こんなことはワタシは今聞いたのよ! ワタシは魔王になんかなる気はないからね。」
ワタシは慌てて否定した。
「わかった。アビ殿、いや、アビ! ならば私は改めて、あなたに決闘を申し込む! 前のような練習試合じゃない! 誇りをかけた勝負だ! そして私が勝てば、アオ様には私と一緒に来ていただく。これでどうだ!」
いやちょっとまて。
ワタシになんの得もないのだが。
「いいわよ。あなたごときに負けるようじゃあ、アビも魔王の資格はない。逆にあなたがアビに勝てば、私の見る目がなかったと反省し、その災王とあいましょう。」
「ちょっと何勝手なこといってんのよ!」
「アビ、あなたが魔王になれば、キョウとも一緒に過ごせる。この国もあなたの自由にしていいのよ。私にクロ、それに究姫に凍子まで後押しするといってるんだから、あなたに逆らえるものなどいなくなるのよ。何が問題なのよ。」
アオはワタシの眼を見ながら言った。
「私たちだけじゃないわよ。ガリョウもビゼンも、ヨクトもそれだけじゃない。この地域の人たちだってあなたを歓迎してるじゃない。みんなが幸せになれるわよ。」
「あの、聞きたいんだけど。」
「なに?」
「そもそも魔王ってなんなの? なんであなた達の推薦がいるのよ。」
ワタシは前から思っていたことをアオに聞いた。
「なによ。そんなこと? それは・・・・」
そういおうとしてアオが止まる。
「忘れた。」
「なによそれは。」
「まあ、何かの決まりで始めたんだけど、細かいことは忘れたわ。こんどクロにでも聞いておくわ。」
大雑把すぎる。
「ええい! 何をごちゃごちゃいっている! アビ! 私の挑戦を受けないのであれば、四神様や四凶様に推薦されたお前が私の挑戦をにげたと言いふらしてやる。八凶神様たちも人を見る目がないと笑いものになるぞ!」
アオやクロ達のメンツが潰れるとまで言われてはしかたない。
この勝負受けざるをえないか。
「わかったわ。それじゃあ、いつやるのよ。」
ワタシは渋々、決闘をうけた。
「期日は、災王様と刑将の決闘の日だ! まずは私がお前に勝つ! そしてその上で災王様が刑将様に勝利し、魔王の資格を得、アオ様に認めていただくのだ!」
「なるほど。じゃあ、その災王と刑将の勝ったほうが、あなたたちの勝った方と戦い魔王に立候補すると。」
アオが話を飛躍させた。
「いや、そうではないのです!」
呂鋼鬼はあわてて、それを否定した。
「いいじゃないそれで。どうせ、アビが勝つのよ。その日で全て決めてしまいましょう。クロとその他二人も立会人によんでおくわね。」
「ちょ、なんでそうなるのよ!」
「いいだろう! 私も災王様にそのようにお伝えする!」
呂鋼鬼はそういうと部屋からでていった。
この話はまたたく間にひろがり、魔王の座を賭けた戦いがはじまろうとしていた。
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