第206話 アオとレジェンド勇者
(予定外のことが起こった。)
呂鋼鬼は元龍奴の屋敷の周りを巡回しながら考えた。
(まさか鋼祖が人間であるアビの配下になると言い出すとは。)
(まあ、いい。私の任務はあくまでアオ様に接触し、災王様のところにお連れすることだ。)
(しかし、その隙が無い。)
アオは急にいなくなることもあった。
その他はアビのそばにいたり、兵士たちに世話を焼かれている。
今も龍奴の元屋敷に幹部だけが呼ばれていた。
(いったい何を話し合っているのだろうか。)
屋敷の中を覗こうとするが、中の様子はわからなかった。
◇
「レジェンドが消えました。」
ガリョウが卓上にレジェンドの屋敷を映し出す。
「いつからだ?」
シリュウが身を乗り出して画面をのぞきこんだ。
「申し訳ないですが、わかりません。おそらく何かに紛れて出たのでしょう。」
「何かに感づいて、にげたか。」
「わかりません。」
「まあ、わからないものはしょうがない。」
ワタシは話を打ち切った。
「じゃあ、鋼祖に災王の陣営について話してもらおうかしら。」
「ハッ、かしこまりました。」
オーガの男、鋼祖はモスほどではないが、ここにならぶ誰よりも大きい。
彼が立つだけで場が狭くなるようだ。
「なんだか、話が長くなりそうだから私は外に行ってるよ。」
アオが早くも飽きた。
最強である彼女には戦力分析など無駄な作業以外の何物でもないのだろう。
「キョウの仕事の邪魔とかしに行っちゃだめよ。」
「わかってるわよ。」
彼女はそういうと部屋を出ていった。
◇
レジェンド勇者ことチミはひそかに、混乱に乗じて旧龍奴のエリアに紛れ込んでいた。
そして、龍奴の屋敷を外から眺めていた。
当然、その姿はガリョウのスキルにも映り込んでいた。
ただし、アビやアオのすがたを一目見ようとやじ馬たちが押しかけていたため、その中にレジェンドがいるとは誰も思わなかった。
遠目で見ていると、目に布を巻きつけた女が屋敷の玄関から出ていった。
門番たちは女に最敬礼の挨拶をした。
(目に布の女、もしやあれが青竜か。)
「おいゴブオ。」
チミは奴隷のゴブリンに声をかけた。
「なんでしょうか。」
「お前、門番に声をかけて、今の女が青竜か聞いてこい。」
「わかりやした。」
「ついでに青竜がどんなやつかもな。」
「はい。」
ゴブオは主人の言葉に短く返事をして門番のもとに向かった。
(ここ数日、またろくなものを食ってなくて腹が減ったな。)
ゴブオはそのままフラフラと門番に話しかけようとした。
「なんだ。お前、体調がわるいのか?」
門番の男のほうが先にゴブオに声をかけた。
「いや、まあ、ここのところ、食ってなくて。」
ゴブオは自分の任務をわすれ思わず返事をした。
「向こうの広場のほうで炊き出しをしているぞ。」
門番はアオが歩いて行った方向とは反対の方向を指さした。
「炊き出し? 金はねえよ。」
ゴブオは力なく答えた。
「ハハハ。安心しろ、炊き出しなんだから無料だ。」
相方の門番が笑って答えた。
「無料? ただ? なんでだ!?」
この魔族のエリアにそんなものはなかった。
基本的には最悪、誰かのものを奪う。
それが魔族の掟だ。
見返りが出せないものは死ぬか、自分のように身を売って奴隷にでもなるしかないのだ。
「うちの隊長っていうか、俺たち人間は弱いからな。困ったときは助け合うんだよ。」
門番はそう言ってわらった。
そして、ゴブオは自分の任務を思い出す。
「そうだ、さっきここから出ていった女、あれはだれだ?」
「ああ。あれが聖女、アオ様だ。なんでも本当は、青竜様だとも言われてるが、まさかな。」
門番の男はアオの歩いていった方向を見ていった。
「それで、アオ様はどこにいったんだ?」
「さあな。あーあっちは酒場のほうだから、酒でも飲みにいかれたんじゃないのか。アオ様はわりと酒好きらしいからな。聖女様が酒豪って笑えるけどな。」
「酒豪どころか、うちのアビ隊長や女兵士たちと夜な夜なやってるドスケベらしいぜ。まさに性女だな。」
相方の門番が肩をゆらした。
「おいおい、口をつつしめ、殺されるぞ。」
そんな二人のやりとりを、ゴブオは信じられない様子でみていた。
チミの悪口などいおうものならたちまちに密告され、言ったほうは褒美が与えられるが、言われたほうが殺される。
「そんな人が一人でうろうろしていて大丈夫なんすか?」
「ああ、アオ様はおそろしく強いからな。うちの部隊で実は最強なんじゃないかと言われているぞ。」
「そうか。ありがとうっす。」
そういいながらゴブオはフラフラとチミの元に戻ろうとした。
「おい、炊き出しはそっちじゃないぞ!」
慌てて門番が声をかけた。
「連れがいるんで大丈夫っす。」
ゴブオはそういってチミのもとにもどった。
◇
「おお、ゴブオもどったか。」
チミは屋台で買った肉の串焼きにかぶりついていた。
「ええ、あれがアオ様らしいっす。」
ゴブオは主人の口元から目が離せず、つばを飲み込む。
「で、青竜とはどんなやつだといっていた?」
「どうやら、門番たちはアオ様が青竜様だとは知らないみたいっす。」
「なるほどな。隠しているのかもな。」
「それでアオ様は酒好きで、ドスケベ変態で、夜な夜なアビ隊長とか女兵士とやってるらしいっす。」
「は? なんだそれは。」
「門番がそう言ってたっす。」
「はああ。お前にたのんだ、オレが馬鹿だったよ。」
「でも・・・」
「門番にからかわれたに決まってんだろが。」
チミはゴブオの言葉にかぶせていった。
「で、アオはどこにいったんだ?」
「おそらく酒場のほうだと。」
「酒場だと?」
(たしかに、あっちは酒場のほうだが、俄かに信じられん。しかし、青竜に接触するなら、今がチャンスだ。)
「よし、では後をおうぞ。」
チミは肉を飲み込んでいった。
「その前に、だんな。おれ腹が減って、向こうでただで飯がもらえるらしいから行ってきていいですか。」
ゴブオはチミの顔色を窺った。
「そうか。ならば今すぐ、もう飯がいらないようにしてやってもいいんだぞ。」
チミが右手に魔力を込めると、ゴブオの首輪がしまり、内側のとげが皮膚に食い込んだ。
ゴブオの皮膚から血がにじんだ。
「あ、あとでいいっす! 許してください!」
ゴブオはおもわず懇願した。
「フン! あとにしろあとに! アオがいなくなったらどうするんだ。これでもなめてろ!」
チミはそういうと、タレだけついた肉の串をゴブオに渡して歩きだした。
ゴブオはそれをペロペロと舌で舐めながら後を追った。
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