第205話 雷神
「いくぞ! アビとやら!」
鋼祖は大槌を小枝のように振り回しながら突っ込んできた。
さすがにエリアを任されるだけの実力はあるようだ。
しかし、おなじように物理と闘気でおしてくるものとしては、ロフや饕狼にくらべればあまりに遅かった。
それに弱点をまるで克服していない。
【魔神雷斬】(ライトニング・スラッシュ)
ワタシは高速移動をしながら鋼祖の四肢を切りつけた。
鋼祖はまるでワタシの速度についてこられない。
というか、そもそもまるでかわす気はないらしい。
「こんなもの! ぬるいわ!」
オーガ生来の再生速度に任せて、攻撃してくるつもりらしい。
しかし、そのまま鋼祖は前のめりに倒れた。
「ぐわあああ! なんだこの痛みはわあああ!」
ワタシは鋼祖の両足に電撃を叩き込み、魔力で強制的に筋肉を収縮させるイメージを送り込んだ。
そして、再生を阻害する。
【雷神】
ワタシが今、習得しようとしているスキルだ。
電撃に魔力を乗せるイメージ。
突き詰めると筋肉の収縮も電気信号だし。そこに魔力を乗せるとかなり応用力のあるスキルになると思う。
【翻訳者】と並行使用することで、言語化できるイメージを魔力にして電撃にのせる。
アオにもなかなかほめてもらった。
本来、電流は生物にはめっぽう強いが、無機物には雷自体でどうこうできることが少ない。
が、そういうのはビゼンに頼もうと思っていた。
まして、精神体には効果があるまいと。
しかし【翻訳者】を介して言語化できるイメージはある程度実現できた。
電撃自体で無機物を砕くとか、エネルギー効率の悪いことや、精神体が本体の悪魔、華侯姫にもダメージを与えることも実現できた。
本来は電流自体ではなく、魔力が電流のイメージになっているのかもしれない。
それはさておき……
「ク、殺せ!」
鋼祖が気高い女騎士のようなセリフを吐いている。
「あんたは、刑将様の部下になるんでしょ。負けを認めるなら、命まではとらないわ。」
ワタシは剣をしまった。
「わかった。敗者のオレに何かをいう権利はない。オレの負けだ。」
「そう。だったら、スキルを解除するわね。暴れたらその首が今度は飛ぶわよ。」
ワタシは鋼祖にかけていたスキルを解除した。
すると鋼祖の身体が見る見る回復していった。
◇
龍奴は鋼祖に殺され、このエリアは鋼祖の手に落ちた。
これでこのエリアも刑将様の縄張りになる。
はず、だったが……
「アビ殿、いや、アビ様!」
鋼祖が地に額をこすりつけた。
「オレは間違っていた。オレが仕えるべきは、災王でも刑将でもなかった、アビ様! あなただ!」
「いやいやいや、そんなこと言われてもこまるんだけど!?」
「いや、みんなきいてくれ!」
鋼祖は立ち上がり、居並ぶ配下を振り返った。
「オレは刑将につくつもりだったが、それは間違いだった! みんな、今のオレとアビ様の戦いを見ただろう! 災王でもここまで一方的な戦いにはならなかった! アビ様こそオレたちのボスにふさわしいとおもわないか!」
「たしかに。」
「災王様でもここまで一方的にはならなかった。」
まわりのオーガたちも鋼祖にうなずきはじめた。
「いや、スキルには相性があるのよ。ワタシの能力があんたと相性がよかったというだけでワタシが災王よりつよいってことにはならないわよ。」
「あなた、なかなか見どころがあるわね。」
ワタシの言葉を遮るように、唐突にアオが現れた。
「ちょっと、アンタ、どこにいってたのよ。」
(まあ、彼女をどうこうできるものなどいないから心配はしてなかったが。)
「ごめんごめん。ちょっと、クロに呼ばれてね。」
アオはワタシの肩ごしに、土下座の跡の残る地面をのぞきこむ。
「それより、いいじゃない。だいたいガリョウだって、アビに仕えるといって刑将は許してくれたし、いまさらよ。」
「私達もアビ様にここにいてほしい!」
ワタシたちが保護した人たちからも声があがった。
流れとはいえ、自分がやったことである。
ワタシはとりあえずは、仮のボスという形で引き受けることにした。
◇
王都よりはるか南——
アビたちのいる魔族圏とは別の魔族の勢力圏。
ここは魔王もなく、それぞれの地方の有力な魔人たちが勢力を伸ばしていた。
そのなかで有力なものが姒鯀である。
しかし、突如、姒鯀とその一味は姿を消した。
とある廃墟。
地面にそのまま、酒瓶がころがっている。
「姒鯀、ほんとにこれでいいのか。お前、あの死翼の力を得たんだろ。だったらお前が魔王になればいいじゃねえか。」
ガタイの大きいダークエルフの男が、酒瓶を咥えたまま床に唾を吐いた。
「驩兜、その話はなんどもしただろ。」
かちり、と留め金の音がして、姒鯀が仮面をはずす。
黒い肌に、黒髪。
ダークエルフと呼ばれる姿である。
「俺は確かに強くなった。だが立ち回りを間違えると非常に危険な立場にあると。」
「だからといって、俺たちと敵対していた陽龍のやつの手伝いをするのか。」
「ぶつぶつ言うな。驩兜。リーダーが決めたんだ。うちらはそれに従うだけだ。」
白髪のダークエルフの女が、驩兜の口から酒瓶を引き抜いた。
「奴も志は違うが、うちらと同じダークエルフだ。ほかのやつの手伝いをするよりはましだ。」
「混々(コンコン)、お前はそうかもしれねえが、俺は納得いかねえ。あいつを殺してやりてえ。」
驩兜は拳を握りしめる。
「なら好きにしろ。お前に殺されるなら、あいつもその程度のやつだったというわけだ。」
姒鯀の声には、温度がなかった。
「俺があいつにまけるとでも?」
「さあな。俺はお前たちを縛り付けない。頼みはするが、あくまで頼みだ。どうしても奴が気に入らないなら殺せ。なんならお前が魔王をめざしてもいい。」
「俺が魔王に? 考えもしなかったが、おもしろい。」
「それよりこれからの計画を教えてくれ。」
奪った酒をあおりながら、混々が顎で先をうながす。
姒鯀はうなずいた。
「まず、俺たちは陽龍の支援をする。影からな。そうするといずれ、いまや小魔王と呼ばれているハオというやつと争うことになる。そして、勝ったほうを魔王にする。」
「なんだ、アンタが魔王になるんじゃないのか。」
混々の眉が寄る。
「中途半端に魔王になったら、敵が多くなる。俺たちの敵はあくまで凍子とそして四霊だ。だが、できれば四神には目をつけられたくない。」
冷たい目が、混々の不満をひたと押さえつけた。
「今のお前でも四神には勝てないのか。」
驩兜の声が、少しだけ大きくなる。
「正直、お前と手合わせしてみたが、以前のお前とはまるで違った。俺がまるで勝負にならなかった。その力とお前の知恵があれば四神もなんとかなるんじゃないのか。」
「死翼は言っていた。自分では玄武竜や青竜に殺されると。それも気にいらないが今は仕方ない。すくなくとも奴らは今はまだ俺たちの敵じゃない。しかし……」
「しかし?」
驩兜が身を乗り出す。
「お前が暴れるのを止めるつもりはない。ただし、俺の名前はだすんじゃないぞ。あくまでお前ら独自の動きだ。」
「なんだよ、それ。」
混々が鼻を鳴らして酒瓶を投げ捨てた。
「それならありがてえ。お前が魔神になった影響か。俺たちにも力があふれてきたんだよ! これをためしたくてしかたねえ!」
驩兜が拳を鳴らす。
「ここにいない奴にも言っておいてくれ。俺はしばらく世界をみる。」
姒鯀はそういうと闇に消えた。
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