第204話 魔族の戦争
鋼祖は家来数十人を連れて、龍奴のエリアに殴り込みをかけた。
「手を出してこないやつと、カタギには手を出すなよ! あくまで狙いは龍奴のやつだ!」
鋼祖は先頭に立って、駆けていく。
「てめえ鋼祖! 裏切りやがったな!」
オークが鋼祖の前に立ちふさがった。
「どきやがれ!」
大槌が唸り、オークの頭が叩き潰された。
「やりやがったな! てめえ!」
オークたちが鋼祖の部隊に襲いかかり乱戦となった。
もとより、戦闘種族のオーガである鋼祖とその家来達のまえにオークたちはなぎ倒されていく。
「くそ! 龍奴さんに知らせるんだ!」
徐々に旗色が悪くなったオークたちは我先にと逃げ出した。
「逃がすな! 皆殺しにしろ!」
鋼祖はオークたちを追って龍奴のアジトに向かった。
◇
ワタシたちは鋼祖と龍奴の争いに巻き込まれた人たちの救助と、カタギに手をだしてる連中の退治をしていた。
ビゼンの青竜冷艶鋸でオーガの上半身と下半身が離れる。
【蛇矛牙】(スネーク・バイト)
ヨクトの槍の一撃でオークの腹に風穴があいた。
【爆裂】(イグニス)
シリュウのスキルでオークが爆ぜる。
ワタシはオークに襲われていた女性にマントをかけてやった。
「アビ。お前は何をやってるんだ。なぜ、そいつをたすける! なぜ、味方を殺した!」
呂鋼鬼が背後から詰め寄ってくる。
「鋼祖はカタギに手を出すなといったでしょ。命令違反よ。」
この地域では組織に所属していない魔族や人間をカタギと呼んでいる。
もともとはワタシたち異世界人の世界の裏社会に属していない普通の人たちを指していたのだが、いつのまにか、この地域では浸透していた。
果たしてひろめたのはだれなのだろうか。
「なにも味方を殺すことはないだろう。」
呂鋼鬼の視線が、まだ震えている魔族の女性に落ちた。
「それに、そいつを助けたのはなぜだ。」
「この人は関係ないでしょ。それに、みんながみんなアンタみたいに強くないのよ。」
ワタシは彼女の腰を軽くたたいた。
「カタギに手を出してるやつ以外はこっちから相手をしちゃだめよ。とくに、モス! 華侯姫あんたたち!」
ワタシはうちの武闘派を名指しで注意した。
◇
戦場に、そこかしこにオークとオーガの死骸が転がっている。
オークとオーガだけじゃない。弱小魔族も。
部隊の少数精鋭で来てよかった。
ワタシの部隊に被害がほぼなかったのは幸いだった。
だが、それゆえに、この殺し合いそのものをとめることはできなかった。
これが魔族同士の戦いだ。
そこに鋼祖がもどってきた。
右手には、ひときわ大きい、オークの首をさげている。
あれが龍奴ってやつだろう。
「これはどういうことだ?」
血と屍の海を、鋼祖はゆっくりと見回した。
「これをやったのはお前か?」
「いうことを聞かなかったからね。仕方なかったのよ。」
どすん、と龍奴の首が地面に落ちる。鋼祖が投げ捨てたのだ。
「まあ、こいつらが死んだのは仕方ない。弱かったってことだ。だが、人間の女よ。オレの子分をやってくれたけじめはつけてもらうぞ。」
鋼祖の筋肉がもりあがる。
「なんか、ワタシは人間じゃあないみたいよ。」
言っても無駄だってのはわかった。
ワタシは剣を手にとる。
「アビ、危険です。あなたが戦わなくても。」
ガリョウがワタシの袖をつかんだ。
「まあ、そうなんだけどね。こいつらの土俵で戦わないと納得しないみたいだからね。」
ワタシは、左右に雌雄一対の剣を構えた。
◇
霊都——カードゲームバーVIPルーム。
場違いな雰囲気の中、巨大な人狼のような大男、饕狼が部屋の隅で小さくなって、座って、いや座らされていた。
テーブルを囲みソファーで四人の人物が座っている。
金髪に金の瞳を持つ美女、究姫、その隣には黒髪の少女、凍子、反対側には、クロが座っていた。
そこにアオがやってくる。
「なんでこいつらもいるのよ。デートにでも誘ってくれたのかと思ったのに。」
饕狼をちらりと一瞥し、アオはクロの横に腰を沈めた。
「私もいろいろ忙しいんだけど。」
言いながら、テーブルの上に置かれたシュークリームを勝手につまむ。
「実はね。」
究姫がカードを伏せた。めずらしく、まじめな顔をしている。
「結論からいうが、死翼のやつが死んだかもしれない。」
「かもしれない? 中途半端な表現をするわね。」
シュークリームを口にいれたまま、アオが返事をした。
「そういえば、あいつ人間になってたわね。その間に死んだの? 私たちも長い間生きてきたけど、そんなバカな神は見たことがないわね。」
「おい、饕狼。話せ。」
究姫に顎で示され、床の魔人が身を縮めた。
「はい。ご存じかと思いますが、わが主は人間になっていました。それで、本体はとある小屋に隠していたんです。例の混乱の中、主は人間に捕まってしまいまして、俺もどうしたものかと考えましたが、とりあえず、主の本体を主に届けようとその小屋にもどりました。すると、そこには人間になった主の遺体だけがあり、本体はすでにそこにありませんでした。」
言い終えた饕狼の額を、汗が一筋つたっていく。
饕狼も上級悪魔だが、四人の間では使い魔と変わりがない。
「私達以外に殺されるとは、ほんとに前代未聞だな。」
クロが持っていたコップを回した。
「そう。でも問題はだれがやったかね。」
「姒鯀だろ。」
「誰だっけ? それ。」
クロとアオが顔を見合わせる。
「死翼の奴が言ってたやつだよ。死んだものを一時的に生き返らせて操ることができる。おそらくは人間になってるとき殺されて、操られたんだ。それで力を継承するという契約でも結ばせたんじゃないかな。覚えとけよ。」
「ごめんね。私に小物は覚えてなくてね。で、そいつがなにか悪さでもしてるの?」
「いや、今のところは何もないよ。なんの動きもない。」
究姫は言葉を切って、指先でカードの角をはじいた。
「しかし、力を継承するなんてこと、ほんとにできるのかなんて、試したこともないし、本来試しようもない。死んだらどうなるか試してみるみたいなものだからね。」
ため息がひとつ。
「あいつも究極の研究ができて幸せだったろう。」
「でも、クロは死翼のやつを殺す気だったんでしょ。手間が省けてよかったじゃない。」
アオが横目でクロを見た。
「だが、その姒鯀ってのが死翼の力を引き継いだのか、それともあらたな後継者が生まれるのか。それもわからない。それに姒鯀というのは死翼よりももっとやばいやつな気もするからな。どうしたものかと思ってる。それでみんなで話しておこうとおもってね。」
「みんなといっても、例によってシロもアカもいないし、そっちももう一人、禍雄主? だっけ? それもいないじゃない。」
「禍雄主君はここにはまずこないからね。」
カードから目を上げないまま、凍子が口を挟んだ。
「あんたたちのことが相当きらいみたいだよ。」
「まあ、会わなくていいよ。」
クロがアオのほうへ身を乗り出す。
「というわけで、アオ、その姒鯀というやつには気をつけろ、何をするかわからん。死翼の話では凍子を狙っているらしいからな。」
「どんなやつか楽しみだね。この私に喧嘩をうるなんて、ワクワクするよ。」
凍子が牙を見せてニヤリと笑った。
「シロとは結局戦えなかったけど、死翼の力をもし継承してるならいい勝負ができるかもしれない。」
「問題は姒鯀の狙いだよ。一つは凍子だと思っている。」
究姫の目が光る。
「もう一つは魔王の座かもしれない。」
「魔王? 気苦労のほうが多いのに。」
二つ目のシュークリームに手を伸ばしながら、アオは欠伸まじりに答えた。
「もとはと言えば、死翼のやつが自分で魔王になりたいと言っておいて、いやになって、ヴィクトリーにやらせたのが始まりだったね。そういうことなら、死翼の後を継ぐなら姒鯀は適任かもしれない。」
「そう、それだよ。アオ。おまえ、アビを魔族圏の魔王にしたいんだろ。姒鯀とぶつかるぞ。」
「あー、それは嫌だね。」
「そう、正式に姒鯀が魔王になりたいというなら、私たちは中立がルールだ。それを釘を刺すために、あんたたちを呼んだんだよ。」
「わかったよ。じゃあ、そうなる前に今から姒鯀を殺そう。そいつはどこにいるの?」
「知らないよ。」
究姫が呆れた顔で肩をすくめる。
「というか、多分、お前らのそういう暗殺を恐れて身を隠してるんじゃないのか?」
「お前、隠してるんじゃないだろうな。」
クロの指が、究姫の鼻先に突きつけられた。
「私はアビよりで見てるよ、二人が戦うならアビにつくよ。今のところは。凍子の奴もねらってるんならなおさらだ。」
言い終えるなり、究姫はその指をぱくりと咥えて、舌で舐めた。
「お、めずらしく素直じゃないか。そういう態度をしてる間は好きだよ。」
クロが二本目の指を、究姫の口にゆっくりと差し入れる。
「じゃあ、今回は、私たちは敵対しないってことでOK?」
アオが三人を見回した。
「ああそうだね。ただし私たちはね。禍雄主がどうするかはしらない。ハクやスカーレットもそうだろう?」
究姫がようやくクロの手から離れる。
「まあ、あの二人は大丈夫だとおもうよ。いつもどおり。しかし、姒鯀の動きは一応はお互い気を付けるようにしよう。」
「クロ。」
「なんだ。アオ子。」
「その指、ちゃんと洗ってよ、臭くなるから。それで私をさわらないでよ。」
「私の唾液もあんたたちと同じで無菌だよ!」
部屋の隅で、饕狼が身を硬くしたまま、視線のやり場を探していた。
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