第202話 隠し事
ワタシたちは呂鋼鬼につれられ鋼祖という魔人のもとに向かっていた。
彼女が何かを企んでいるかもしれないというのは、ガリョウとシリュウにしか伝えていない。
なにかボロを出さないか、ガリョウのスキルで常に監視しているが、今のところ怪しいところはなかった。
というか、オーガという種族はほんとに脳筋なんだな。
うちのメンバーに次々に挑んでいた。
流石に人間のリョーカには勝ったが、悪魔の華侯姫に完封され、フィジカル上位互換のベヒーモスのモスにもボコられていた。
「うおおおおお! 私はまだまだだあ!」
彼女は暇さえあれば岩のバーベルでトレーニングをしていた。
ドスン。
岩のバーベルをおいて、彼女は汗をかきながらワタシのもとにやってくる。
正直、嫌な予感しかしない。
「アビ殿! この部隊で最強というアンタと戦いたい!」
勘弁してほしい。
というか、いつの間に、最強になったんだ。
この部隊で最強はアオを除けば、相性にもよるが、ヨクトかビゼンだろうに。
「いや、ワタシは別に最強じゃないんだけど。」
「ヨクト殿や、華侯姫殿もみな、あなたこそが最強だと、だからあなたに挑めと。」
(どいつもこいつも相手するのが面倒になったんだろう。)
(いい加減なことをいいやがって。)
しかし、ここでワタシは思いついた。
「じゃあ、ワタシが戦ってもいいけど、条件がある。」
「なんだろうか。」
彼女は静かに答えた。
「ワタシが勝てば、アンタが隠していることを話してほしい。」
「・・・!?・・」
彼女の顔が固まる。
そして・・・。
沈黙。
うむ、実にわかりやすい。
「い、いや、なんのことだ? 隠しごとなどないぞ?(棒)」
答えはもらったようなもんだが。
しかし、とにかくオーガ族というのは魔族の中でも特に武闘派だ。
とりあえず力を見せないと話が始まらないだろう。
というわけで、荒野でワタシと呂鋼鬼の稽古試合がはじまった。
◇
「あなたには手加減は不要だろう。」
呂鋼鬼はそういうと、大槌を持ち出した。
剣で受けることもできない。
勘弁してほしい。
殴られたら普通に死ぬんだが。
そもそも、ワタシのスキルはこういう試合には向いてない。
基本的に冒険で生き抜くためのスキルと、【限界突破】の発動時にのみ使えるスキルに偏っている。
要するに初心者向けのスキルと、手加減が難しい殺す気満々のスキルしかないのだが。
「悪いけど手加減はできないわよ。」
ワタシはそういうと【限界突破】のスキルを発動した。
ワタシの肉体と魔力が限界を超えて強化されていく。
「フハハハ。すごいな。」
ワタシの魔力をみて呂鋼鬼は笑った。
「では、胸を借りるぞ!」
呂鋼鬼は大槌を小枝のように振り上げる。
その一撃を、ワタシは紙一重で横に流した。
大槌が地面を叩き、足元の岩が砕けて飛ぶ。
やっぱりあたったら死ぬやつだ。
その動きに合わせて、ワタシは彼女の懐に飛び込み、正拳をつきだす。
固いゴムタイヤをうつような衝撃。
そして接触の瞬間に電撃を直接叩き込んだ。
呂鋼鬼の動きが一瞬固まる。
しかし、彼女は一歩下がると同時に構わず大槌を振り下ろした。
稽古試合で殺す気か。ワタシはさらに懐に飛び込み、下から呂鋼鬼の顎にアッパーを叩き込みつつ電撃をいれる。
しかし、オーガの頑丈な脳は打撃では揺れない。
が、神経に電流を流されて、無事でいられるものなどいない。
呂鋼鬼は声もなくそのまま仰向けに倒れ込んだ。
強力な魔力耐性をもっていないものにこれは耐えられない。
「大丈夫?」
ワタシは呂鋼鬼に声をかけた。
顔の神経に電撃を浴びせられて、後ろ向きに倒れたのだ。
彼女なら大丈夫だとおもってやったが、人間なら、死んでもおかしくない。
「うううう。」
なんとか大丈夫みたいだ。
ワタシは手をかざして回復魔法をかける。
もともと再生力のつよいオーガに回復魔法をかけると、傷はみるみるうちに塞がっていく。
「ううう。」
まだうめいている。
傷自体は深くなさそうだが。
「ま、まさか、本当に人間に真正面から負けてしまうとは、アビ殿、アンタ含めてアンタの部隊はなんなのだ。」
呂鋼鬼は目に涙を浮かべている。
「それじゃ、あんたの隠し事を話してくれる?」
ワタシは倒れている彼女に聞いた。
「わかった・・・」
彼女は起き上がり話し始めた。
「私は、災王様を、その、ひとりの男として、愛しているんだ! だれにもいうなよ! こんな軟弱なことをオーガとしていえるか! 私はまだ災王様にふさわしい女に全くなれていない。アビ、人間のお前にすら負けてしまった! こんな私が災王様に愛される資格などないのだ!」
・・・・・・・・
いや、そうじゃないのだが。
「いや、そうじゃなくて、あんたのというか、あんたのボスの鋼祖の裏切りは嘘じゃないかって思ってんだけど。」
「それは嘘じゃない。」
「それは? とは?」
「私から言えるのはここまでだ。しかし、アビ殿、あんたは信頼にたるものだということはよくわかった。」
彼女はそういうと、またトレーニングに戻った。
まあ、いい。
言えないことがある、とは認めさせた。
この女は嘘をつききれない。それが分かっただけでも収穫だ。
◇
「おお! 呂鋼鬼よ! もどったか! で、刑将殿はなんと?」
ワタシたちは呂鋼鬼の直接の主、鋼祖の屋敷に案内された。
鋼祖もオーガタイプの魔人だった。
呂鋼鬼よりもさらに大きい。
おそらくは呂鋼鬼より強いことはまちがいないだろう。
「はい。こころよく我々を受け入れると、使いを出してくださいました。」
そういって、呂鋼鬼はワタシたちを紹介してくれた。
ここにはワタシとシリュウとテルだけが代表してきている。
「まて、呂鋼鬼よ。この者たちはどうみても人間なのだが、なぜ人間を?」
「ハッ、しかし、この者たちは人間ではありますが、一騎当千の猛者です。お恥ずかしい話ではありますが、私もこのアビに完敗しました。」
鋼祖はワタシたちを値踏みするように見た。
「そうか。お前ほどのものが敗れるのであれば、問題なかろう。それで使者殿、刑将殿、いや刑将様との面談はいつ叶う?」
「刑将様はまずはその証をみせてほしいとおっしゃっています。」
シリュウが答えた。
「いいだろう!」
鋼祖が立ち上がる。
「今すぐ、隣のエリアの龍奴のやつをぶち殺しにいってやる! 昔からあいつは気にいらなかったんだ! 呂鋼鬼! お前も準備をしろ!」
鋼祖が嘘をいってるようには思えない。
はたして、呂鋼鬼は何を隠しているのか。
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