第201話 化かし合い
(こ、こんな馬鹿な。)
呂鋼鬼は仰向けに倒れ、天空を見上げていた。
「大丈夫か?」
ビゼンが倒れている呂鋼鬼に手を差し出す。
「クッ」
呂鋼鬼は歯を食いしばりながらも自らの敗北を認めた。
時は少しさかのぼる。
◇
ワタシは場所を変えて、冒険者ギルドの片隅であらためて仲間たちと呂鋼鬼を引き合わせた。
「では、早速だけど、アンタのボス、鋼祖と連絡をとってもらおうかしら。」
シリュウが呂鋼鬼に対して今後の話を申し出た。
「そしてできるだけ、災王の陣営とチミの奴に関する情報をしりたい。まずはチミをなんとかする。そのあと災王だ。チミさえ何とかすれば、最悪、刑将様はサシで災王と決着をつけてもいいと言っている。」
魔族の世界の理屈は話がはやい。
お互いのトップ同士が戦って決着をつけてもいい。
それから逃げた場合、自分が相手より弱いと認めるようなものだ。
とくに武闘派の魔族同士ならなおさらだ。
刑将様は体調が万全ではないらしいが、人間世界とちがい、そんなものの理由にならない。
だが、あのレジェンドとホウスウだけは別なのだ。
この世界のすべての攻撃が効かないレジェンドと、魔族特効のホウスウ。
この二人を味方につけたほうが勝つはずだった。
しかし、誤算があった。
災王が思っていた以上にレジェンドはアホでクズだったのだ。
敵と戦うより、味方のテリトリーを襲ったほうが楽というとんでもない馬鹿だったわけだ。
しかし、その強さゆえにコントロールも効かない。
レジェンドの弱点はワタシたち異世界人の素手による物理攻撃だけ。
あいつの身体能力自体は鍛えたといっても常人の範囲をでないはず。
複数で取り押さえればなんとかなるはずなのだ。
「その前に、確認したいことがある。」
呂鋼鬼はワタシたちを見おろしていった。
オーガ族である彼女は女性ゆえにオーガの中では小柄、しかしその躯体は2メートルをこえ、ワタシたちのだれよりも大きい。
「お前たちが本当に信頼に値するか、試したい。だれでもいい。腕に自信があるやつ。私とここで戦ってほしい。」
降伏してきたやつがワタシたちを試すのか、と思うのは人間の価値観だ。
武闘派の魔族はこういうものだ。
「いいだろう。私が相手をしてやる。」
そういって、うちの武闘派、ビゼンが前にでた。
「なるほど。一目見てただモノではないと思っていた。ルールは素手。それでいいな。」
そう言って、呂鋼鬼は構える。
ビゼンも身長180はあるが、呂鋼鬼は彼女よりなお、頭二つ分高い。
ワタシたちは彼女に任せ距離をとる。
オーガとダークエルフの喧嘩ということで、やじ馬たちが集まってくる。
極秘の話をしているはずなのに正直勘弁してほしい。
これが武闘派魔族というやつだ。
「おー!おれはダークエルフの姉ちゃんに賭けるぞ!」
「おれは!オーガの姐さんだ!」
ギルドの獣人が幹事になって賭けまで始まってしまった。
「ビゼ、あまり騒ぎになりたくない。早く済ませて。」
ワタシは愛称で彼女に声をかけた。
「だといいけどな。」
そういいながら彼女は一歩踏み出した。
呂鋼鬼は左のジャブで牽制をはなつ。
ジャブといっても2メートルのオーガが放つジャブはまるで大岩だ。
あたれば意識が飛ぶ。
ビゼンは呂鋼鬼の右手に回り込みながら小さく掌打を放つ。
だが、呂鋼鬼はそんなものは意にも返さなかった。
しかし、それが失敗となる。
ビゼンの軽い掌打で呂鋼鬼の巨体は大きく後ろへ吹き飛んだ。
おおおお!
その様子にざわつくやじ馬たち。
これが彼女のスキル【闘神】だ。
あらゆる防御と抵抗を無効化する。
これに対抗するには彼女を超える魔力をもつか、対抗できるスキルで防ぐしかない。
単なる身体の大きさなどは一切ハンデにならなくなる。
巨大重機のような本来の姿になったベヒーモスのモスの突進ですら彼女は右ストレートで吹き飛ばすのだ。
オーガの体形など彼女には問題にならない。
しかし呂鋼鬼は身体をばねのようにして飛び起きた。
「やはりやるじゃないか。」
そういって牙を見せてにやりとわらった。
「あの子、マッチョかと思っていたら、牙がなかなかかわいいじゃない。」
横で座って見ていたアオがちょっとにんまりしながら彼女をみた。
嫌な予感しかしない。
「手を出さないでよ。」
ワタシは彼女に釘をさした。
「わかってるわよ。」
彼女はそういいながら、ビゼンのほうにベットした。
「どんな能力をもってるか知らんが手加減はいらない相手のようだ。」
呂鋼鬼はそういうと全身の筋肉が肥大化した。
あくまで真っ向勝負、鍛え上げたからだで来るらしい。
「いくぞ!」
地面を蹴り呂鋼鬼がビゼンに対して肩からぶちかましをかけた。
空気が割れた、その次に鈍い音が来た。
だが、それまでだった。
ビゼンはその場から一歩も動かず、呂鋼鬼の突進を受け止めた。
そしてそのまま、彼女を頭上に持ち上げる。
【脳天砕き(ブレーンバスター)】
そのまま、呂鋼鬼の脳天を地面に垂直に叩きつけた。
あれは、ガリョウが持っていたプロレスのDVDから学んだ技だ。
◇
ビゼンは跳ね起きたが、呂鋼鬼は頭から血を流し、動かない。
息はしているので死んではいないようだ。
人間なら即死しているぞ。
「大丈夫か?」
ビゼンが倒れている呂鋼鬼に手を差し出す。
「クッ」
呂鋼鬼はビゼンの手を取りゆっくりとたちあがった。
両者の健闘を称え合う拍手と、賭けに勝ったものの歓声があがる。
「これほどの強さをもちながらお前がボスではないのか。」
呂鋼鬼は立ち上がりながらビゼンに聞いた。
「私など、仲間たちの中ではまだまだだ。そこにいる、ヨクトやアビ、それにアオ様の足元にも及ばん。」
(いや、ワタシより貴方のほうが強いと思うが。)
ワタシは内心突っ込む。
「なに?アオ様、アオ様がこちらにいらっしゃるのか?」
呂鋼鬼は驚いた様子を見せる。
「ああ。というか、お前、アオ様の正体をしっているのか。」
「ん、ああ。青竜様のお名前だけはな。お目にかかるのははじめてだが。」
ワタシはその一言を聞き逃さなかった。
呂鋼鬼はアオが青竜であることを知っていた。
同名の別人ではなく。
「アビ。」
ガリョウもワタシに目配せをした。
彼女も気がついたようだ。
なるほど。
この裏切り、なにか裏がありそうだ。
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