第198話 和平と暴露
宰相アマンは、王女キョウの前に重臣たちを集めた。
「ショウから、非常に重要な使いが来た」
アマンは神妙な顔をしながら、群臣たちに伝えた。
「やはりそれは、前回のイベントの詰問でしょうか」
カギが確認する。
異世界グルメイベントでは、テロ行為により大きな犠牲者がでた。
外部的には、首謀者ビエムをとらえたということにしているが、実際のところ、黒幕と思われる四凶死翼および姒鯀は、行方知らずである。
その責任を追及し、王女の身柄を譲ることが要求されるものだと、誰もが思っていた。
しかし、アマンの口から伝えられたのは、予想だにしないことだった。
「一言でいうと、和平の申し出だ。それも、恒久の。」
臣下たちは、アマンの次の言葉をまった。
「一つは、陛下が私の妹、セツコを娶りたいとおっしゃっている、ということだ」
群臣がざわつく。
「カイは、いや、陛下はまだ十二だぞ。結婚には早いとはいわないが、アマン、お前の妹とは面識すらないだろう」
キョウが驚きながら、アマンにいった。
「はい。そのとおりです。おそらくは、ショウの勧めでしょう。そしてもうひとつが、殿下、あなたのことです」
「私のこと?」
キョウは、自分のことがでるとおもわず驚く。
(私に、何か責任をとれということか)
「一族のケイシとの婚約をすすめています」
「え? アマン、なんといった?」
キョウは、わが耳を疑った。
「エン家の一族の一人、ケイシとの婚約を勧めてきています」
アマンは、無表情にキョウに告げた。
(ああ、ついにこの日がきたか)
キョウは驚きはしたが、怒りはなかった。
いつかは自分は、いずれかの貴族のもとに嫁ぐのだろうとおもっていた。
そして、これが成れば、たしかに、アマンとショウの戦争は平和的に解決するだろう。
なら、受け入れざるをえないと考えた。
◇
ワタシにもたれて、酒を飲みながら、キョウは先日あったことをワタシに教えてくれた。
キョウの部屋とワタシの部屋は、ひそかにアオが作った転移門でつながっている。
これは、アマンもしらないことだ。
彼女の話を、ワタシとアオ、妲姫、ガリョウ、ビゼン、ヨクト、それにリョーカ、そして、なぜかそこにいたクロが聞いていた。
アオとクロが何か好き勝手やって、ワタシの部屋はどんどん拡張されていた。
「でも、キョウ。そのケイシとかいう人は、知らないんでしょ」
ワタシは彼女のとなりに座りながら聞いた。
「まあ、どこかで会ったことはあるかもしれないが、その程度よ。私に決定権などないからな。エン家は有力な貴族だ。外戚たちも文句はないだろう」
彼女は、寂しそうな表情をしていった。
「だめに決まってるでしょ」
はっきりと、アオがいった。
「アオ。ありがとう。でも、いいのよ」
キョウは笑って言った。
「良くないわ」
そういうと、アオは目の前からふっと消えたかと思うと、ワタシの反対側の、キョウの横にすわる。
「私が認めないといってるのよ。そんな、どこの馬の骨かわからない男に、あなたをやるものですか」
アオはそういって、彼女の手をとった。
「いや、でも……」
「なんなら、いますぐ、私がそのカイ王をつれてきて、そのショウの一味を滅ぼしてきてやってもいいのよ」
無茶をいう。
しかし、彼女の場合は、それができてしまうのだからたちが悪い。
「いいじゃないか。キョウが誰と結婚しても、死に別れするわけでもない」
クロが、ガリョウの肩に手を回しながら言った。
最近のクロのお気に入りは、彼女らしい。
しかし、彼女には誘惑の効果は薄いらしく、迷惑そうな表情をしている。
「お客様、当店はおさわり禁止です。離れてください」
ワタシはクロに釘をさした。
そういうと、クロもふっと消えて、ワタシのよこに座る。
「ハハハハハ。この世界で私にそんなことが言えるのは、アオとアカ以外では、お前だけだ。だからお前が好きだ」
そういうと、クロは今度はワタシに絡みついてきた。
「だが、私はショウ自体も悪いやつではないとおもってるし、あそこには私の友人もいる。アオ子に力づくでこられるのは、こまる」
そういって、クロはアオをみる。
「そういえば、あなたにショウの放射線の治療をたのんだけど、あれはどうなったの? こうなったら、忘れていたらそれはそれでいいけど」
アオがクロにいう。
「あー、今言われて思い出したよ。死翼のことで、頭がいっぱいだったよ」
ついさっき、ショウのことは気にしているみたいなことをいっていたのに、クロの中では、ショウは忘れるくらいのことらしい。
「まあ、二人とも、今はあくまでショウから話が来たというだけで、返事はしていないので」
キョウは、二人の間に入るようにいった。
「もっとも、カイとアマンの妹の方は、アマンはうけるつもりらしいが。王からの申し出というなら、断れないでしょうね」
「あの、よろしいでしょうか」
クロから解放されたガリョウが、手をあげる。
「なにか、いい考えでも?」
ワタシは彼女に聞いた。
「ようは、殿下が断れないというのは、家と家の関係と、そういうことでしょう」
「まあ、そういうことね」
キョウが、ガリョウの質問にこたえた。
「であれば、僭越ながら、以前から私が申し上げている計画を実行すればいいのです」
「計画って、まさか」
「そう。アビがまずはこのまま刑将の傭兵として、災王とその手下、レジェンド勇者を倒す。そしてそのあと、刑将も倒すのです。そして、この魔族圏の魔王となればいいのです!」
ガリョウは立ち上がった。
「いやいや、それは……」
ワタシは止めようとするが、彼女の演説はとまらない。
「そうすれば、アビは魔王として、殿下を正式に花嫁にむかえ、なんならこの私も側室にむかえることもできると!」
「いや、だからそれは無理でしょ!」
ワタシは、彼女の暴走を止めようとする。
「いや、でも、アビが魔王になるっていうのは、悪くないんじゃないか」
ヨクトまで、そんなことをいって、ビゼンが横でうなずいている。
「あんたたちまで」
「いや、でも、予想しておくが、おそらくそうなるよ」
クロが、ワタシに顔を近づける。
「いいかい。魔王になるには、神の推薦がいるんだ。かつてのヴィクトリーを推薦したのは、死翼だ。もし、刑将が魔王の資格を得たとしても、最終的には神の推薦がいる。本来この地の管轄は死翼なんだが、やつはいま行方知れずだ。だから、刑将は死翼の推薦を受けることができない。だから、どのみち彼が正式に魔王になるのは難しいだろう。でも、お前がその気になれば、私が推薦してやる。当然、アオも認める。そうなれば、だれにも反対はでないよ。まあ、四霊は反対するかもしれないが、私たちが後見人になってあげるから、安心しなよ」
こいつは、何をいってるんだ。
「ちょっと、まってよ! 刑将様はともかく、ワタシはそもそも、魔族ですらないのよ!」
「それは大丈夫だよ。人間でも、魔人に体が進化したり、吸血鬼になったり、神族化すればいいから」
「つまり、それはワタシに、人間をやめろと?」
「何言ってんだ。お前、もう半分人間じゃないだろ」
「ちょっと。それは失礼でしょ」
ワタシはクロを離そうとしたが……
「失礼も何も、お前のからだ、もう魔人化してるぞ」
「え? どういうこと?」
こいつ、しれっと、とんでもないことをいったような。
「アビ、お前の身体には、究姫の血がはいったろ? それで、妲姫の本体も、お前の右目に同化してる。そして、私やアオともさんざんやっただろ。お前の身体はもう、普通の人間じゃない」
「はああああ!」
とんでもないことを聞かされた。
「いや、今更なにを驚いてるんだ。ケガの治りも、異常にはやいだろ。おそらく、肉体的な寿命もない。精神体はわからんけど。魔人化すると、そうなる。知らなかったのか?」
(いや、たしかに、生理がこなくなった)
(そのわりに、なんか体調はよくなったから、気にしてなかったが)
ワタシは、しばし凍りついた。
「別に、人格がかわるわけじゃないし、問題ないでしょ。だから言わなかったんだけど。とくに、究姫の血と妲姫の魂が同化してるのが大きいわね。あなたは人でありながら、体のつくりは悪魔族。その中でも、究姫の血肉と、上級悪魔妲姫の魂が混じってるから、変化が速かったのね。でも、キョウ、あなたも私たちとしていれば、いずれあなたも、神族になれるかもよ。あなた次第だけど」
また、アオもとんでもないこと言った。
キョウも「お、おう」という、複雑な顔をしている。
「とにかく、その件は保留ね。ワタシたちの仕事は、明日からレジェンドのもとへ向かって、そいつをなんとかすることよ。いいわね」
ワタシは仲間たちに向かって言った。
アオとクロの二人の暴露に戸惑いながらも、仲間たちはうなずいた。
キョウにキョウの戦いがあるように、ワタシにはワタシの戦いがあるのだ。
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