第197話 狂信者の最期
「じゃあ、キョウのところに報告にいくか。アオ、つれていって」
ビエムが捕らえられたあと、ワタシは、合流したアオに依頼をした。
アマンとキョウが合う前に一応話をしておきたい。
今、キョウはアオがつくった閉鎖空間の部屋にいる。
出口も入り口もない空間だ。
アオがいないと入ることすらできない、絶対に安全な場所だ。
きっと、退屈しているだろう。
アオと妲姫が、彼女のために異世界の料理のお土産も用意してくれた。
「わかったわ」
アオがそう言うと、転移門が現れた。
しかし、ここでちょっと、嫌な予感が頭をよぎる。
「みんな、ちょっとまって。ここから先は、ワタシとアオと妲姫に任せて」
ワタシはみんなのほうをみて言った。
「はい。でも、何か心配事が?」
ガリョウが不審な表情をする。
「うん、ちょっとね。大丈夫。とにかく、任せて」
そう言うと、ワタシはいそいそと、アオと妲姫だけつれて転移門をくぐった。
◇
ワタシの予感は、あたっていた。
閉鎖された空間には、異臭というか、淫靡なにおいが漂っていた。
そこは、凄惨な地獄だった。
ベッドには、下半身裸で大股をひろげたキョウが横たわり、チリ紙が散乱し、もちこんだ大人のおもちゃが転がっている。
さらに、空の酒瓶がころがり、床を汚していた。
妲姫がいないと、この子の部屋はこうなるんだな、と。
「キョウ、終わったわよ」
ワタシは、酔いつぶれたキョウを起こした。
「おお、アビか」
「おお、アビか、じゃないわよ。ひどい有様じゃない」
「しょうがないだろ。こんな部屋にいれられて、やることもなし。やることといったら、酒をのむか、一人でするかくらいだよ」
「いいから、とりあえず、下着を穿きなさい」
「まあまあ、そういうな。とりあえず、風呂に入るよ。詳しい話は、風呂できこう」
そう言うと、キョウは上半身もはだかになって、風呂場に向かった。
とりあえず、風呂に入りながら報告をすることにした。
◇
「ビエムを尋問して、可能な限りわかったことを整理します」
カギが、幹部達に報告書を配布した。
「なお、尋問にあたっては、尋問師のスキルをつかい、やつの脳に残る記憶で答えられるものは、全て吐かせました。もっとも、奴自体が錯乱し、真偽が怪しいものもありますし、あくまで彼視点の物語であり、我々の憶測も含まれますが」
報告書をみて、重臣たちは目を見開いた。
そのビエムの記憶にあった歴史は古く、それは魔王ヴィクトリーと勇者ヨウトの時代、つまり五十年以上前までさかのぼった。
ヴィクトリーと呼ばれる強力な魔族が、その力で王国の西、魔族勢力圏を統一した。
そして、彼を魔王に後押ししたものがいた。
それが四凶であり、本来その地域の魔王だった、死翼だ。
死翼は魔王の座をヴィクトリーに禅譲した。
しかし、霊教の神、霊神はそれを否定した。
なぜなら、王国と霊教会の中間地点に、政治的に強力な魔王が生まれることになるからだ。
死翼は魔王ではあったが、政治的にはまるで無関心だった。
だから、彼が魔王をしていても、霊神たちも大きくは問題にしなかった。
実際、死翼が魔王の間に、王国にも数多く霊教が広まった。
しかし、魔王ヴィクトリーは、魔族圏を発展させるために、死翼から異世界の経済システムを学習した。
それが、管理通貨制度だ。
国家が通貨の流通量を管理する仕組みである。
これにより、金などの貴金属とは無関係に通貨が流通し、魔族圏は大いに栄えた。
一方、魔王ヴィクトリーは、国内では魔族による力の文化には否定的だったが、絶大な力をもつ魔王に逆らえる魔族はいなかった。
そして、経済的にも軍事的にも巨大化した魔王圏は、王国を脅かすようになった。
また、魔王ヴィクトリー自体に思想はなかったが、魔王による自由競争は、霊教会の目指す平等な社会とは相容れない面が多かった。
しかし、霊教会は、この魔王ヴィクトリーのシステムに欠陥を見つけた。
魔王が滅んでしまえば、全てのシステムが崩壊するのだ。
魔王通貨の価値は、魔王の絶対性により保証されていた。
よって、魔王を倒してしまえば、全ての経済システムが崩壊する。
そして、魔王に不満をもっていた魔族たちが、かならず自壊すると。
そこで、霊教会は、いや、霊神は、ひとりの若き天才に、勇者の力と啓示を与えた。
それが、勇者ヨウトである。
事情はよくわからないが、ヨウトは四神に直接師事しながらも決別し、霊神の洗礼を受け、魔王ヴィクトリーを討伐した。
これにより、霊教会の教化計画は再開した。
王国は、霊教が国教とされるはずだった。
だが、ヨウトの盟友であり、魔王を倒した仲間でもあった前王レイが王位につくと、レイは自分たちがやってきたことに、疑問を抱きはじめた。
またヨウトも、霊教のやり方に異を唱えた。
その結果、ヨウトは霊教会本国に行き、そこで強い教化をうけた。
おそらくは、ヨウトは敗北し、なんらかの精神操作を受けたと思われる。
そのヨウトに強く惹かれた一派が、ヨウト派である。
ヨウトは帰国後、王国を相手に革命を起こした。
霊教国を設立するために。
だが、霊教会もいくつかの派閥があり、霊教会から見て辺境の王国では、ほとんどの派閥が統率のとれていないのが現状だ。
大きく分けて、派閥は四つである。
霊凰派、霊亀派、霊麟派、霊龍派である。
霊凰派。ビエムもこの一派で、もっとも急進的だ。
現在もっとも王国で動いており、アマンの旧友の家を焼き、父親も誘拐した一派である。
ただし現在、王国においてはリーダー的役割がいない。
霊亀派。比較的穏健な派閥で、ジョイエルがそうであったように、穏やかに信仰を広めようとする。法術、魔術でも交流がある。
霊麟派、霊龍派は、王国には現在あまり関わっていない。
霊教を国教化するために、いくつかの計画が走っているが、大きくわけると計画は二つである。
それは、今のカイ王に洗礼をさせ、国教とさせること。
そして、同時に国民に人気のキョウ王女を生死を問わず、政治的に無力化すること。
もうひとつが、キョウ王女を王にすること。
なお、キョウ王女を王にした場合、男系王家が断絶する可能性が高くなるので、最悪、王女自身に洗礼を受けさせなくても構わない。
そして、国内で戦争を起こさせて、その救済を霊教会が支援し、民衆の支持をえる。
これらの報告を聞いた重臣たちはみな激怒し、アマンも手が震えた。
そして、カギの報告は続いた。
今回の計画では、南方の魔物、姒鯀および死翼と手を結び、姒鯀の能力で会場に大量の死人を送り込み、スキを見てキョウ王女を殺害し、核爆弾の起動実験を行う予定だった。
王女を殺害したあとは、ショウを使いアマンを攻めさせ、その後、カイ王に国教化を認めさせる手はずになっていた。
この計画の報告を聞いた後、アマンは即日、すべての霊教会の監査を行わせた。
そして、計画にかかわっていたもの、知っていながら報告を怠ったものも、ことごとく逮捕した。
ビエムは国家転覆罪で、身体を切り刻まれ処刑された。
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