第195話 真相
キョウの脇腹に、短刀がささった。
次の瞬間、実行犯はアオの魔力に拘束される。
「殿下ア!」
警備のものたちが、キョウに駆け寄る。
「はははは! やった、やったぞ!」
拘束された男が笑う。
「貴様!」
警備が、拘束された男の顔を確認する。
見知らぬ男だった。
「お前、顔はちがうけど、ビエムか?」
アオが冷たく言う。
「そうだ。そうですよ、アオ様! 私です、ビエム。いや、勇者ヨウトです! ついに、邪神に魅入られた悪しき王女を討ったのです! 私が、この勇者ヨウトが!」
「ビエム!? お前は、ビエムなのか!?」
ジョイエルも驚いてみる。
しかし、自分の知っている顔ではない。
「ああ、そうだ、この邪神に穢された娼婦め! ぐわああああ!」
ビエムは罵声を浴びせた瞬間、アオに魔力を流し込まれ、苦痛にのたうつ。
「安心しろ。お前には聞くことがいろいろあるからね。殺しはしないよ。しかし、みごとにガリョウの言うとおりになったね」
そう言いながら、アオはキョウのほうをみる。
そして、ビエムは異変に気がつく。
ビエムは倒れたまま、キョウのほうを見上げた。
脇腹に短刀が突き刺さったまま、キョウは何事もないように、たっていた。
「な、なぜ……その刃には、猛毒が塗ってある! なぜ、死なない!? なぜ、立っていられるんだ?!」
「悪いな。悪魔は、こんなものでは死なない。まして私は、不死身なんだ」
キョウはそう言うと、脇腹から短刀を抜き、姿をかえていった。
そこには、銀髪、褐色の悪魔、妲姫がいた。
「ば、ばかな。いつから! いつから、すりかわっていたんだ!?」
ビエムは声をあげた。
「最初からだよ。ここには、キョウはずっといなかった。このことは、アマンも知らない」
アオはそう言うと、再びビエムに、苦痛を与える魔力を流し込んだ。
「ぐわああああ!」
ビエムは悲鳴をあげ、のたうちまわった。
◇
グルメイベントの準備が始まる前。
「今回のイベントで、私は死ぬだって?」
キョウは声をあげた。
「ええ。とはいえ、実際に死んでもらうわけでは、当然ありません。死んだふりをするのです」
ガリョウが、ワタシ、キョウ、ビゼン、ヨクト、そして妲姫とアオに説明をする。
「今、ショウはアマンを攻めたくて、しかたありません。しかし、それができない一番の理由が、殿下、あなたです」
「なるほど。大衆に人気があり、王族がいる間は、ショウはアマンを攻められないってことね。じゃあ、ショウが暗殺部隊をおくってくると?」
ワタシはガリョウに確認する。
「いえ。その可能性はないとはいえませんが、ショウは誇り高く、正々堂々とした男です。暗殺部隊など送ってくる可能性は、低いでしょう。しかし、ショウとアマン、二人を戦わせたいものたちがいます。それは、霊教会です」
「なるほど。それはありうるかもしれない。でも、それで、キョウが死んだふりをする必要があるの? ガードを固めればいいんじゃないの? あるいは、何か体調不良とかの理由をつけて、欠席してもいい」
ワタシはガリョウにいった。
「いえ。逆に、罠をはるのです」
「罠?」
「アオ様たちも、神使は感知できないと、ききました」
「そうね」
アオは短くこたえた。
「それを利用します。まず、アオ様が殿下をガードします。すると、暗殺者は簡単に殿下を襲うことができません。しかし、かならず隙を伺います。そして、殿下を襲う暗殺者は、必ずアオ様の魔力感知を掻い潜ってきます。そいつが、神使です」
「なるほど。そして、襲わせた瞬間をとらえるわけか。それなら、絶対に捕まえられる。……妲姫、嫌な役だけど、頼める?」
ワタシは、キョウの横にすわる妲姫をみた。
「まてまて! 私のかわりに、妲姫をおとりにするのか! 却下だ、却下! そんなものは!」
キョウは声を荒げて、いった。
「ありがとう、殿下。でも、私なら大丈夫だ。殿下は安全なところで、待っていてくれ。お土産に、異世界のおいしい料理をもっていくと約束しよう」
妲姫はそう言って、ほほ笑んだ。
「妲姫」
キョウはそれだけ言って、妲姫を抱きしめた。
◇
「アビ、作戦成功よ」
アオはそう言って、虫型カメラに向かって笑顔で手をふった。
「きれいにきまったわね、ガリョウ。アンタのおかげよ」
ワタシはガリョウの策を賞賛した。
「いえ。殿下を守ることはできましたが……相手がまさか、ここまで無差別テロをするとは、おもいませんでした」
ガリョウは、言葉を濁らせた。
「まあ、これは本来、私たちの仕事じゃないからね。キョウを守るためにしただけだからね。あとのことは、アマンに任せましょう。あとで、キョウを迎えにいって、ワタシたちは自分たちの仕事、レジェンドと災王の討伐作戦を考えましょう」
ワタシはそう言って、ガリョウを慰めた。
とりあえず、テロの首謀者を捕まえることには成功した。
あとは、アマンの仕事だ。
◇
「おりゃあああ!」
饕狼は、暴れる獣人たちを、また投げ飛ばした。
「いいぞ、あんた!」
「すげーぜ!」
人間たちが拍手をおくる。
「なぜ、オレがこんなことを……」
死翼のことをどうしたものか、力づくで救助に行くべきか、と異世界の出店で買い食いをしながら考えていたところ、周囲に異変がおこった。
弱い人間たちが、声をあげて逃げ出し始めた。
見ると、人間だけじゃなく、魔人達まで急に暴れだした。
(ばかか、あいつら。究姫様たちに見つかったら、ころされるぞ)
そう思いながら、これ以上やっかいごとはごめんだと、騒ぎから距離をとった。
自分がまけるはずがないが、万一にでも究姫や、またクロにみつかるのは嫌だった。
そうおもっていたら、あっさり究姫に見つかってしまった。
そして、暴れている魔人たちを取り押さえろ、殺しても構わない、といわれた。
止むをえず、騒ぎに参加した。
後で何を言われるかわからなかったので、むやみに殺すつもりはなかったが、取り押さえた連中のほとんどは、その場で死んだ。
(なんだ、こいつら)
そして今、饕狼の前に、美しい一人の女悪魔が立った。
「てめえは徐姫。てめえもかよ」
みると、徐姫は両手に、銀を含んだ剣を持っていた。
「それは……」
以前、徐姫と戦ったときは完封した。
徐姫が、自分の弱点に対する対策をなにもしていなかったからだ。
「いつぞやは世話になったな。あの時の借りを、返させてもらうぞ」
徐姫が舞った。
饕狼は爪を生やし、迎え撃つ。
しかし、饕狼の爪は、銀の剣にへし折られる。
「どうした! 自慢の爪は、そんなものか!?」
徐姫は笑みを浮かべ、さらに剣戟を繰り出した。
「ちい!」
饕狼は身体をひるがえすが、受け切れずに皮膚を引き裂かれる。
「ハハハハハ! どうした、この狼男が! 死ぬがよい!」
徐姫はさらに、饕狼に向かってきた。
「このクソ女! 調子にのりやがって!」
饕狼はそう言うと、街灯に手をやる。
「くおおおおお!」
そして、雄たけびをあげると街灯を引き抜き、それを小枝の様にふりまわし、銀の剣を迎撃した。
一本の銀の剣が、あっさりおれた。
「おのれ! この馬鹿力が!」
徐姫は後ろに飛び、体勢をたてなおした。
◇
死翼を運ぶ馬車が、とまった。
「ついたぞ」
それだけいうと、役人はだまった。
「下りればいいのか?」
死翼は不審におもい、役人をみた。
返事はなかった。
「なに?」
死翼は、役人の手を取る。
冷たくなり、すでに死んでいた。
「お待たせしました。死翼様」
馬車のそとから、声がした。
ドアが開いた。
「お前は!?」
そこには、あの姒鯀がいた。
「救出がおそくなり、大変失礼いたしました」
姒鯀はにやりと笑い、深々とお辞儀をした。
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