第194話 正体と別れ
「お前、まじで何者だ?」
そう言いながらも、凍子は笑みを浮かべた。
自分が本気で戦えるあいてが、クロやアオたち以外にいたのだと。
凍子は戦闘狂だった。
しかし、クロは自分を子ども扱いして、まともに相手をしてくれない。
アオやアカは、戦うこと自体が本来は好きではない。
究姫は喧嘩はするが、自分と戦ってくれない。
このコンというやつは、自分の敵になってくれそうだ。
おもしろい。
凍子は再び、両手に魔力をこめた。
その時、背後に近づくものの気配を感じた。
敵意はない。
目視で確認しなくてもわかる。
すぐにわかった。
クロだった。
「クロ、こいつに手をださないでよ。私がやるから」
「わかった。こいつには出さないよ」
モニュモニュ。
そう言いながら、クロはうしろから、唐突に凍子の胸をもんだ。
「な、なにすんだあ!?」
思いがけないセクハラに、声が裏返った。
「さっきの試合でのいやがらせのお返しだよ」
クロはそう言って手を振りながら、コンに近づく。
そして、いった。
「おい、シロ。お前、こんなところで何をしてるんだ。魔王の仕事はどうした?」
「え? シロ?」
凍子はおもわず、その名を聞いて止まる。
コンはしばらく黙っていた。
そして、明後日のほうをみながらいった。
「いえ、自分は、魔王ハク様ではありませんよ。その使いの者です」
「お前のことをシロと呼ぶのは、私達だけだろ」
クロはそう言いながら、コンにむかって自分の胸をはだけた。
「ほーら、お前の好きなおっぱいだ。みせてやるから白状しろ」
クロはそう言いながら、ハクに近づく。
「やめろ! お前! そういうのは! しまえ、それを!」
コンはクロに向かって、指をつきたてた。
「ハク? おまえ、白虎竜ハクなのか?」
凍子はクロのうしろから、二人のやりとりに突っ込む。
「あーあ。バレたからには、しょうがない」
そう言うと、ハクはマスクをとった。
そこには、野性的な顔立ちの、白髪の若い男の顔があった。
「あ! お前、ハクじゃないか!? 道理で強いわけだよ!」
凍子は呆れたようにいった。
◇
「で、なんでお前、ここにいるんだよ? 仕事はどうした? 私達、基本無職とちがって、お前には魔王という仕事があるだろ」
クロはハクに肩をくみながらいった。
「お前たちと試合ができると聞いてね。正体を隠して参加してたんだよ。しかし、あの徐姫というやつがなかなか手ごわくてな。とても体術だけじゃ勝てそうになかったから、あの術をつかった。でも、あれでお前が乱入してきたから、もう無理だなとおもって逃げたんだよ。もっとも、あのあと、アオには完全にバレたみたいで、黙っててくれとたのんだんだけどな」
「クロは、いつ気が付いたの?」
凍子が不機嫌そうに、クロに聞いた。
「ほぼ気がついたのは、こいつと徐姫の試合だよ。あんな完全な結界が組める奴は、そうはいない。その中で、ここに来そうなやつといったら、消去法でいうと、コイツくらいだ。ただ、普段声をかけてもこないやつが、仕事をほっといてくるとは思えなかった。完全に確信したのは、凍子、お前との戦いを見ててだけどね。他の思い当たるやつなら、あんな戦い方はしないからな」
クロが凍子に答えた。
「それから、試合を見てたんだが、ジョカってやつと、このホウコウってやつが、どうもおかしかったからな。観察させてもらっていた。それで、スキをみて部屋の中を調べさせてもらったら、よくわからんが、やばそうなものを持っていたからな。あれは消滅させてもらったよ」
「ジョカはどうだった?」
クロがきいた。
「あいつは神使だろ。だから、魔力感知なんかできず、直接観察していたが……あいつは、今回はただの参加者だな。というか、あいつもただものじゃないか。向こうも、オレの動きにきづいてはいたみたいだがね」
「だいたい、なんだよその恰好は!紛らわしいんだよ!」
「よくできていると言ってほしいもんだ。その証拠にお前たちの誰もオレに気が付かなかっただろうが!」
クロとハクが言い合いを続けた。
そのとき、アマン達が部屋にはいってきた。
◇
時間は、少しさかのぼる。
会場から少し離れた場所——
ジョカは大会で敗北がきまるやいなや、会場をはなれていた。
「ジョカ様、そんなに早く戻らなくても。異世界のあなたにとっては、故郷の料理はよいのですか」
供をするリジュエルが、もう少しもどりたそうに聞いた。
「いいのよ。それに、余計なトラブルに巻き込まれたくはないわ」
ジョカはリジュエルのほうを見ずにいった。
「トラブルとは?」
「なんか、私のまわりを嗅ぎまわっているものがいたのよ。しかも、解析すらできなかった。何者かはわからなかったけど、敵対はしないほうがいいだろうし。ただ……」
ジョカは会場のほうを振り返った。
(アビ、あなたとまわれたら、楽しかったでしょうね)
ジョカは少し寂しそうに微笑んで、ショウのもとへ向かった。
◇
アマンは、ホウコウの部屋の中にいた「コン」とクロ、凍子、そして倒れたままのホウコウをみて驚いた。
そして、クロから話のいきさつを聞いた。
「わかりました。白虎竜ハク様、ご協力ありがとうございました」
アマンはそう言って、ハクに頭をさげる。
ホウコウの介抱を、カギとリユウが行っている。
「アマン様、だめです。回復魔法が一切通じません」
カギがアマンの顔をみていう。
ホウコウの顔色が、どんどん青白くなっていく。
「アマン……すまない」
ホウコウが目をさます。
「ホウコウ、気がついたのか」
アマンは跪き、ホウコウの手をとる。
「どうやら、君の言っていたことは本当らしい。時間が来たらしい。もう、何も見えない。そこにいるのか。父さん、母さんは、無事か?」
「ああ、ご両親は無傷だ。安心しろ。お前が、姒鯀の……悪魔の呪いに勝ったんだ。お前の勝ちだ」
アマンはもう一度、ホウコウの手をにぎった。
体温が、もうなくなっていくのがわかった。
「どうやら、目的が達成できなくなったから、かりそめの命は終わり……らしい。本当に、すまない、こんなことになって……」
「なにをいう。お前は悪くない。よく戦ってくれた。そして……よく会いに来てくれた。もう一度、お前と会えて、話せて、ほんとうに、うれしかった。また、いずれ話そう。そして、昔のようにいたずらをして、みんなを驚かせるんだ」
「ああ、そうだ……な……。もう一度、会えて、よか……ありが……」
そう言うと、ホウコウは再び、眠りについた。
アマンは、しばらく何もいえなかった。
「ホウコウ……。ホウコウ……」
そして彼の手を握り、吠えた。
「絶対に許さんぞ! 姒鯀!!」
◇
貴賓席——
「アオ様。殿下をつれて、この場を離れたほうがいいのでは?」
ジョイエルが、アオとキョウを見ながら言う。
「まだちょっと、気になることがあったんだけどね。ここにいても、仕方ないか」
アオがジョイエルに答えた。
「アオ様でも、神使の気配はわからないんですよね。なら、かなり離れたところに移動しないと」
ジョイエルがアオにいった。
「たぶん、神使の力をつかって、魔力を消したんだよ。だから、私たちにも気配がわからなかった。相当に相手は準備していたとみていい。どうせ移動するなら、霊都を離れたほうがいいだろうね。転移するか」
アオがそう言うやいなや——
一人の警備が声をあげ、キョウに襲い掛かった。
「殿下! 死んでください!」
誰も声を上げるまもなかった。
アオはその警備を、一瞥した。
その瞬間、警備は魔力の縄で縛りあげられる。
「アオ様!」
ジョイエルは、安堵の声を上げた。
同時に、もう一人の警備が、アオの魔力感知を掻い潜り、キョウに近づいていた。
そして、声もだすことなく——短刀で、キョウの脇腹をさした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




