第193話 コンと凍子
「閣下! 閣下! ご無事ですか!」
部下の声に、アマンの意識が覚醒する。
(全身が焼けつく。おそらくは、ホウコウ自身がこちらを殺す気がなかったため、この程度で済んだが)
アマンは身体の無事を確かめながら、立ち上がろうとする。
「閣下!」
その声は、この武術大会でスカウトした戦士、オウコだった。
「オウコか。私は無事だ。それより、爆発からどれくらいたった!?」
アマンは周りを確認しながら聞いた。
「いえ、すぐに来ましたので、すぐ、ですが」
オウコも周りをみる。
カギとリユウも、立ち上がっているところだった。
オウライの背中が焼けただれているが、おかげでホウコウの両親は、ほぼ無傷だった。
「オウコ、私はいい。オウライと、ホウコウのご両親の手当てを手伝え。カギ、リユウ殿、ホウコウを追うぞ! カバンがどうこう言っていた。おそらくは、自室にもどったはずだ」
アマンのその声に、二人はうなずいた。
◇
「はあ、はあ」
ホウコウは、自分の控室に向かって走っていた。
(アマン。すまない、無事でいてくれればいいが)
(なぜだ。アマンにもうしわけない。しかし、自分の意思と体が、止められない!)
そのとき、ホウコウは窓から、建物のそとの異変に気がついた。
そこかしこで声があがり、火の手まであがっている。
(なんだ?)
(なにが、おこっている?)
(アマンと父さん母さんは、オレがすでに死んでいると言っていた)
(それと、何か関係があるのか?)
(それでも、自分を止めることができない)
(なんなんだ、これは?)
ホウコウは、自分の部屋の片隅においてある、大きなカバンを思い出す。
(あれは、なんだ?)
(なぜ自分は、あんなものをもってきたのだ)
ホウコウは疑問をあたまに抱えながら、部屋に飛び込んだ。
(なに!)
そこには、探していたものはなかった。
その代わりに、一人の男がたっていた。
マントに仮面の男、コンだった。
「やはり、ここにきたか」
コンはホウコウに言った。
「おまえ、コンか? なぜ、おまえがここにいる? この異変は、お前のしわざなのか?」
ホウコウはコンに向かって話した。
「お前の戦いぶりをみて、どう見てもおかしかったのでな。悪いとおもったが、勝手に部屋の中を調べさせてもらった。あれはどう見ても、危険なものだったからな。処分させてもらったよ」
そう言いながら、コンはホウコウに向かって構えた。
「悪いが、こんかいは手加減はできない。大人しくさせてもらう」
コンはそう言うと、ホウコウに向かって手のひらをかざした。
◇
「くそ! 私としたことが! 死翼から姒鯀の能力を聞いたときに、なぜ、この可能性に気が付かなかったのだ!」
アマンは足を止め、そこかしこで暴動が起こっている様子をみながら叫んだ。
(姒鯀はすでに、大量の死人を会場におくりこんでいたのだ)
(しかし、なぜ、四凶や四神すら、それに気が付かなかったのか)
(そういえば、彼らが言っていた。四霊の加護を受けた神使の霊力は、自分たちでも感知できないと)
(霊教徒が魔族と手を組むなど通常ありえないから、神使と姒鯀がつながっていることに、思いがいたらなかった)
(しかし、ビエムは神使だったというわけか)
(だが、今は、ホウコウだ)
アマンは再び、走り出した。
◇
「お前、ほんとに何者だ」
コンとホウコウのもとに、一人の少女がたった。
凍子である。
ホウコウはすでに、倒れている。
「お前にも興味があるが、ここで戦うつもりはない」
コンは凍子をみて、いった。
「私のメンツをつぶしてくれて、タダですむと思うなよ。すぐには殺さない。まずは、正体をあばいてやる」
凍子はそう言いながら、コンに冷気の魔力を放った。
それで、終わりのはずだった。
いかなる魔族でも、自分の魔力を防げるわけがないのだ。
しかし、コンは微動だにせず、それをそよ風でもうけるように流した。
凍子はこのとき、完全にコンを敵だと認識した。
一気に距離をつめ、魔力をこめた貫手を、コンに向けてはなつ。
音速を超えた一撃。
そして、この世のすべてのものを貫く一撃である。
まず、コンを衝撃波が襲った。
通常は、それだけでほとんどの物質は破壊される。
しかし、コンはそれを、結界をはり防いだ。
そのあと、貫手がくる。
結界など貫き、コンを戦闘不能にするはずだった。
コンは貫手の力の方向をかえ、そのままなんと、凍子の側面にまわり、逆関節をきめた。
(この私に、関節技!?)
「お前は、クロのお気に入りだろ? オレはお前を、傷つけるつもりはない」
その一言が、凍子の怒りに火をつけた。
悪魔の王である自分を、なめるのかと。
凍子は関節を決められたまま、それに逆らい、自分で関節をへし折りながら脱出する。
ベキベキと、鈍い音がする。
「おいおい、なんてことしやがる」
コンは、おもわず手を放す。
凍子は体勢を整えたが、そのときにはすでに、へし折れた腕は再生していた。
凍子は、少し本気になった。
この世の頂点といわれたものの魔力が、解放される。
凍子を中心に、亜光速で魔力の結界がはられた。
その結界内のすべての空気と塵が消え、真空状態になる。
「お前なら、耐えられるかもね」
そう言いながら、凍子は懐からコインをとりだす。
【亜光速魔投射砲】。
コインが、魔力で亜光速で放たれた。
結界を張っておかないと、対象に着弾した瞬間、核級の破壊エネルギーが放たれる。
放った瞬間、凍子は後悔した。
しまった、カッとなってやりすぎた、と。
悪魔族なら、それだけで精神体を傷つけることがないので、うっかりしていた。
通常の魔族なら、物質の身体が蒸発してしまっては、終わりなのだ。
しかし、驚くべきことに、その心配すら杞憂におわった。
コンは片手で、亜光速のコインをキャッチしてみせたのだ。
「おまえ、マジで、なにものだ?」
その様子に、凍子は固まった。
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