第192話 傀儡
「どうしたんだ、アマン殿。大事な話があると聞いたが」
応接室で、アマンとホウコウが向き合って座っている。
そして、ホウコウの左右には、魔導士のリユウとカギが挟むように立っている。
「ホウコウ、落ち着いて聞いてほしい。まずは、君に会ってほしい人たちがいる」
そう言うと、オウライが応接室に、二人の老夫婦を招き入れた。
「父さん! 母さん! 来てくれたのか!」
ホウコウは立ち上がって、二人に近づく。
しかし、オウライが二人の前に立ちふさがった。
「ホウコウ……あんた。ほんとうに、ホウコウなの?」
女性が涙を流しながら、ホウコウに話しかけた。
男性は女性の肩をだいて、涙を流してホウコウをみている。
「そうだ。オレだよ。どうしたんだ? 久しぶりだけど、なにかあったのか?」
ホウコウは事情がわからず、二人を見て戸惑った。
「ホウコウ。落ち着いて聞いてほしい。本当に残念なんだが。でも、大事なことだ」
アマンは、心痛な表情をして、ホウコウに話しかけた。
「どうしたんだ、アマン殿。君まで……」
アマンは目を潤ませて、いった。
「ホウコウ。君は、君はすでに、死んでいるんだ」
「え?」
ホウコウは言葉を失った。
「え、僕が……死んでる?」
「ああ。そうだ」
アマンは下を向いてこたえる。
ホウコウはしばらく黙っていた。
そして、笑った。
「クククク。アハハハハ。アマン、君は子供のころから、何も変わってないな。たしか、重病のふりをして、みんなで叔父さんを騙してからかったな。いや、すまない。父さんと母さんまでよんでくれたのに。いくら何でも、せめてもう少しましな、いたずらにするべきだよ。クククク」
それをみて、ホウコウの父親が、涙をこらえながら言った。
「いや、ホウコウ。アマン、いや、閣下の言ったことは、本当だ。お前は、一か月前に病気で死んだんだ。本来なら、幼なじみの閣下にもすぐに伝えるべきだったが……私達も、お前が死んだということを受け入れられず、連絡が遅れたんだ。そして、お前がこの大会に出ていると聞いた。信じられなかった。見に来た。どう見ても、お前だった。信じられなかった。偽物だとおもった。しかし……しかし、お前を入れた墓を開けたんだ。そこにお前はおらず、何者かに掘り返されたあとがあった。ホウコウ、本当に、お前なんだな」
父親が近づこうとするのを、オウライは優しく制した。
「父さん、何をいってるんだ?」
ホウコウは、訳が分からないという様子をみせる。
「ホウコウ。お前はこの大会にでる直前、なにをやっていたのか覚えているか?」
アマンはホウコウを見つめながら言った。
「なにって、私は……」
そこで、言葉がつまる。
「お前は死の間際、ずっと病床で闘病していた。その記憶はあるか」
「いや、私は、そう、四凶の凍子を倒さないといけない……。だから、この大会に出たんだ。そして、そうだ。究姫が与えてくれるという力で、私の病気を克服しようと、そうおもったんだ。あと、一つ……。まて、おかしい。なぜ、オレは、そんな恐ろしいことを……」
「どうした、ホウコウ。何か、思い出したことがあるのか?」
「ああ、アマン。オレは、おかしくなってしまったのか。思い出した」
ホウコウは、うろたえ始めた。
「オレは、キョウ王女を殺さないといけない。なぜか、わからない。その欲望が、止められない。そして、あの、私のカバンの中のアレで、凍子を殺すんだ。だめだ、アマン! オレを止めてくれ!」
そう言うと、ホウコウの身体が、炎で包まれた。
「まずい! オウライ!」
アマンの声で、オウライはホウコウの両親をかばい、倒れこむ。
そして、カギとリユウが二人がかりで結界を張るが、防ぎきれず、吹き飛ばされた。
◇
一方、そのころ、グルメイベント会場。
「きゃああああ!」
女の声が響きわたった。
一人の男が、隣で食事を楽しんでいた女性に、突然刃物で切りかかった。
「なんだ? オレは。でも、そばにいるやつを、殺さないと」
男は、うずくまる女性にナイフを振りかざした。
「やめろ!」
客の一人が、体当たりをした。
拍子に、ナイフが転がり落ちる。
「なんだ、こいつ!」
観客の男性たちが一斉にとびかかって、取り押さえた。
◇
「ぐおおおおおお!」
おとなしく食事をたのしんでいたオーガが、突然暴れ出した。
「なんだ、コイツ!」
「取り押さえろ!」
力自慢の獣人や人間たちが、それを止めにはいる。
しかし、オーガは周りを蹴散らし、暴れまわる。
そういったことが、会場各地で起きていた。
◇
貴賓席で、究姫と凍子は雑談をしていた。
「究姫!」
凍子が、異変に気がついた。
「なんだ? これは?」
究姫も、アオに目配せをおくる。
「いよいよ、動きがあったみたいだね」
アオは究姫を見ながら、ジョイエルとキョウに目で合図を送った。
「私達がいるのに、どこのだれか知らないが、いい度胸じゃないか」
究姫は、怒りとともにニヤリと笑った。
「私はここで、キョウとジョイエルを守ってるよ。お前たちは、できるだけ会場のお客さんをお願い。といっても、もうかなりひどいことになってるけど」
アオは魔力感知で、あたりの様子を探った。
そこら中で、観客たちが暴走していた。
どちらが暴走していて、どちらが止めているのか、区別をつけるのも難しい。
どさくさ紛れに、暴れているだけのやつもいる。
「とりあえず、凍子、究姫、お前たちは、会場にいる強い魔人たちをなんとかしてくれる?」
「私は、この元凶っぽいやつをさぐるよ。なんか、爆発が起こったみたいだし」
凍子はそう言いながら、出ていった。
「チッ。しかたない。私はグルメイベント会場にいくか」
そう言って、究姫も消えた。
「アオ様。これは、いったい」
ジョイエルが心配そうに、アオをみる。
キョウは黙って、会場をみる。
「精神操作系にも見えるけど、多分、何かのスイッチがあったのかもね。いや、いろいろ潰してたんだけど。カモフラージュしていたね、これは。神使の仕業だね。間違いなく」
「ええ。たしかにあのジョカは神使ですが、彼女がこんなことをするとは?」
ジョイエルは、信じられないという表情をする。
「私達や究姫たちも、神使の霊力だけは感知できないからね。あいつらが動いてるのは、間違いないよ。それがジョカかどうかまでは、まだわからないけどね。まあ、すぐにわかるよ」
アオもそう言って、混乱する会場を見渡した。
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