第189話 失踪
「さっきのコンってやつ、どうおもう?」
ワタシは録画映像をみながら、ガリョウに聞いた。
「あの能力は、私にも解析できませんでした。さっきの結界は、おそらく光すらも遮断されていますね。そして、あいつ自身も解析できていません。何者かはわかりませんが、ただものではないですね」
「どうやって徐姫を倒したかも、わからないしね」
ワタシたちは改めて、先程の戦いを録画で見る。
「しかし、ガリョウ、お前のスキルもすごい能力だな」
ガリョウのスキルに、ヨクトが感心する。
「私のスキル【魔道衛星】と、科学の融合ですよ」
ガリョウはノートPCを叩きながら答えた。
まさか、この世界でノートPCを見ることになるとは思わなかった。
これも彼女のスキルの権能らしい。
向こうの世界で自分が実際に使用していたものを再現できる、というのが本来の彼女の能力とのこと。
その「使用していた」という定義は、かなり幅広い。
スマホのGPSを使用していたというから、【魔道衛星】を再現したらしい。
チートツールとしか、いいようがない。
飛行機にものったことがあるから再現できる、と言っていた。
ただ、拳銃などの兵器類はつかったことがないので、再現できないらしい。
しかし、意外だったのは、凍子に対してクロがわりとあっさり引いたことだ。
どうもクロは、凍子には甘い。
究姫にも、わりとやさしい。
アオは二人をうっとおしがっているから、だいぶ違う。
「次はまた、例のジョカの戦いだな。やはりアビは、彼女が勝つと思うか?」
ビゼンが画面を見ながら質問した。
「当然ね。今、あの会場には、アマンの警備隊を含めた四万の観客と、出場選手たちがいる。その全部のスキルや魔法を、彼女は使えるのよ。彼女に勝つには、それこそ——荒野にでも彼女を連れ出して、しかもフィジカルで圧倒しないと無理よ」
ワタシは笑って答えた。
◇
「さあ! 準決勝第一試合は、オウライ選手対ジョカ選手だ! オウライ選手は身長二メートルをこえる大男! 一方、ジョカ選手の身長は、まさにちびっこ! これは勝負、見えたかあ!?」
二人の選手が入場した。
オウライは、当惑していた。
(オレもいろんなやつと戦ってきたが、まるで子どもじゃないか)
前にたつジョカは、武道着を着てはいるものの、姿形はどう見ても、少女のそれだった。
姿形が少女という意味では凍子もそうだが、四凶である彼女に対し、ジョカはどう見ても、人間の少女にしか見えなかった。
(いや、姿に惑わされるな)
(彼女はここまで、勝ち上がってきたのだ)
(眼の前にいるものは、化物と思え!)
オウライは、改めて自分の油断に活をいれた。
「それでは! 試合開始!」
凍子の声があがった。
◇
「おおおお!」
オウライは、雄叫びをあげた。
が、次の瞬間、ジョカが消えた。
いや——自分の背中が、地面についている!
「ようやく気がついたな」
横に、ジユンが腕組みして立っていた。
周りをみる。
「ジユン様! ここは一体!? オレはジョカと戦っていたのでは!?」
「試合開始、直後。眉間に一発だった、らしい」
「らしい? とは?」
オウライも、自分になにが起こったかわからず聞いた。
「あれは、アマンのスキル【絶影】だな。だれも、ジョカが何をしたかわからなかった。凍子の解説によれば、試合開始直後、ジョカがお前の懐に飛び込み、眉間に一撃を放ったらしい。オレたち目線では、いきなりお前が仰向けに倒れたようにしか、見えなかったがな」
「ばかな! 納得がいかない! いくらなんでも、オレはまだ戦えます!」
オウライはベッドから起き上がる。
「まあ落ち着け。お前の気持ちもわかる。だが、今はそれどころではない」
「なにか、あったのですか!?」
オウライは立ち上がりながら聞いた。
「例のコンが、姿を消した」
◇
コンの控室に、アマンとカギ、リユウ、クロに凍子、究姫、それにスタッフがあつまった。
「ほらみろ。あのとき私が正体を暴いていればよかったのに。にげられたじゃないか」
クロは腕組みして、不機嫌そうにいった。
「もう一度聞くが、でていったところは見ていないんだな?」
アマンはスタッフに確認をした。
「はい。各出口には警備が配備され、身分証の提示など厳しいチェックが行われますので」
スタッフは恐縮しながら、アマンに答えた。
(もっとも、スキルなどを使われたら、わからんか)
「だいたい、クロ。あんたが怪しいと言ってたんだから、あんたが監視すればよかったじゃないか」
究姫がクロに突っ込んだ。
「魔力感知はしていたよ。ふっと消えたんだよ。空間転移したか、あるいはごまかしたか、まではわからないけど」
クロは不機嫌そうに答えた。
「ちょっと、気になることがあるんだけど」
凍子が口を開いた。
「みんな、気がついてると思うけど。この大会、ものすごい近いところで見てるやつがいるよね。でも、その逆探知はものすごく遠くからやってるみたいで、探知できない」
「それは、どういうことですか?」
アマンが凍子に聞いた。
「それはいいよ。敵じゃないから」
クロが代わりに答える。
「なんだよ、それ。秘密? 大会審判の私にも言えないこと?」
凍子が口を尖らせた。
「まあ、そういうな。敵を欺くにはなんとやら、ってな。知らないほうがいいこともある。とにかく、それは味方だ」
クロの反応に、アマンも不満の表情を見せるが……
「それはともかく、大会はこのまま実行したいと思います。コンについては失格、ホウコウが不戦勝ということで、決勝でジョカと戦ってもらいます。それと……」
アマンは、不意の来客について、情報を共有した。
◇
ジョカの控え室。
「ジョカエル様、ご無沙汰しております」
ジョイエルが、ジョカの控室を訪ねた。
「ジョイエル。久しぶりね。姿を消してから、心配していたのよ。今まで、どうしていたの?」
ジョカは、ジョイエルを部屋に招き入れた。
「現在は、玄武竜クロ様のもとにお世話になっています」
ジョイエルは、ジョカに促されて椅子にすわる。
部屋は、簡素なテーブルと椅子だけがあった。
「クロと一緒にいたのは、知っていたわ。人質にでもされているんじゃないかと、心配していたのよ」
ジョカの声に、ジョイエルは言葉を詰まらせる。
「私は、信仰を霊神から玄武竜クロ様に変えました。私のことは、ジョイとお呼びください」
「そう。元気そうなら、それでいいわ。霊教会を離れることを、別に責めてるわけじゃないわ。霊神は、あなたをたすけてくれなかったのでしょう?」
ジョカは、ジョイエルを笑顔で見つめながら答える。
「ジョカエル様。今日、こうして恥を忍んで参ったのは……霊教の大司教のあなたから、異端者の裁きを受けるためです。どうぞ、私に異端の烙印を押してください」
そう言って、ジョイエルはジョカにひざまずいた。
ジョカは、ジョイエルの肩をだいて立ち上がらせる。
「霊神は、そんなことであなたを裁いたりしないわ。別に、クロと仲良くしても、霊神はあなたに天罰など与えてないでしょう。それに、世話になったクロに感謝をするのと、霊神への信仰は、矛盾はしないでしょう」
「わかりません。私は、クロ様の【誘惑】で、惑わされているのかも」
ジョイエルは、うつむきながら答えた。
「ジョイエル。あなたは、ほんの少し迷っているだけよ。私には、あなたを異端にすることなんてできない。それより、元気そうでうれしいわ。あなた、ミルクティーで良かったわよね」
ジョカは改めて、ジョイエルのためにミルクティーの準備をする。
「ジョカエル様。一つ、教えてください。あなたが、この大会にでている目的はなんですか」
「この大会の優勝者には、究姫から力がもらえるそうじゃない。それよ。その上で、私の力がやつらにどこまで通じるか試すためよ」
「邪神の力ですか?」
「霊神は別に、力をえるのに邪神を利用してはいけないなんて、いってないわ。力のない正義なんて、無力よ」
「たしかに、それはそうかもしれません」
「あと、ジョイエル。この大会、なにか、まだ起こるかもしれないわ。クロのそばを離れないようにしなさい」
「それは、どういうことでしょう?」
「あのコンというやつが消えたわ。何か、おこるかもしれない。それに、あいつは私でも解析できなかった。おそらく、かなりの上級魔神ね」
「ジョカエル様でも、ですか?」
「そう。ひょっとしたら、四凶か四神クラスかも。今の私の力がどこまで通じるか、試してみたくは、あったけどね」
ジョカエルは、ジョイエルに向けた優しい笑みから一転して、冷徹な笑みをうかべた。
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