第186話 接近
「たしかに主は、すしを買いに行くと言っていたのですが」
饕狼とクロは、回転寿司店の前で死翼を探していた。
(いた!)
死翼は回転寿司のカウンターにすわり、皿を積み上げていた。
(死翼様、お許しを)
饕狼は心の中で主に謝罪し、クロに事態を報告しようとする。
しかし、つい先ほどまでとなりにいたクロが、いなくなっていた。
(どちらにいかれたのだ?)
饕狼があたりを見回すと、すぐに見つかった。
なんとクロは、回転寿司の列にならんでいた。
「ク、クロ様……!? 一体、何を」
「まあ、探してもみつからないんだろ。それより、さっき、お前、ごちそうしてくれるといっていたな。私は、これが食べてみたい」
そう言って、クロは回転寿司を指さした。
色とりどりの美味しそうな寿司が、回っている。
クロはそれを、珍しそうにみていた。
「は、はあ……」
饕狼は戸惑いながらも、クロのあとにつづく。
「お次のお二方、どうぞー」
受付に呼ばれて、二人はカウンターに案内される。
なんとそこは、死翼のとなりだった。
二人に気がついた死翼は、おもわず寿司を喉につまらせた。
(げえええええ! クロ!)
(饕狼! 貴様、何を考えている!?)
完全に人間の中年になっている死翼に、クロは気づかない。
(ど、どうするべきだ!?)
(すぐに席を立つべきか)
(いや、それは、かえって怪しまれるかもしれん)
(おそらくクロは、自分から距離をとる動きを少しでもしたら、怪しむだろう)
(いや、それよりも今の私は、魔力防御すらできないのだ)
(クロが少しでも精神解析をしたら、おわってしまうではないか!?)
実際のところクロは、回転する寿司を珍しそうにながめつつも、油断なく、自分から離れる動きをするもの全員の観察と精神解析を、同時にしていた。
となりにいる死翼に気がつかないのは、まったくの偶然にすぎなかったのである。
◇
「さあ、魔導武術大会、第三試合! 魔導士ホウコウ選手対、宰相にして魔導戦士、アマン選手の戦いは、大変なことになってきました! おい! 究姫! アオ! 私だけに働かせずに、お前らもはたらけ!」
ホウコウはマントから、羽の生えた筒のような物体を宙に放った。
【銃魔】。
使い魔たちは宙を舞い、全方向からアマンを襲った。
アマンは球体状の結界をはり、使い魔からの砲撃をはじいた。
弾かれたり、それたりした流れ弾は観客席をおそったが、それらはすべて凍子が結界ではじいていた。
(やるな、ホウコウ!)
(私の【絶影】の射程外からの、数による遠距離攻撃)
(これを返すのは、ひとつ)
(だが……)
ホウコウは、アマンの思考を正確に読んでいた。
(そう。アマンはおそらく、自身を中心とした広範囲攻撃系の法術をうってくる)
(そして、そのあと、一気に距離を詰めてくるはず)
(そこを、迎撃罠の法術で迎え撃つ)
アマンは、剣に手をやった。
(くるか!)
ホウコウは構える。
が、次の瞬間、アマンは予想だにしない行動をとった。
剣を、その場で投げ捨てた。
「降参だ」
「おーーーっと! アマン選手、降参だあ! ホウコウ選手の攻撃に、成すすべがなかったか! 勝者は、魔導士ホウコウ選手だ!」
割れんばかりの歓声と、ブーイングがあがった。
「アマン殿! どういうことだ!? いや……仕方ないな」
ホウコウは声を上げたが、すぐにアマンの真意を察して笑った。
「よく考えたら、こんな大観衆の前で、奥の手をさらすことはできないな」
「お互いにな。今後は、私のために力をかしてくれ」
「もちろんです、閣下」
そう言うと、ふたりは握手を交わした。
◇
(いまだ! そおっと、自然に、自然に勘定をしはらって、でるのだ)
死翼は、店員を呼ぼうと手をあげようとした。
そのとき、電流が走る。
(しまった!)
(財布を、饕狼にあずけたままだった!)
(やつにしはらわせるつもりだったのだ!)
クロを挟んで反対側にすわる死翼の様子を、クロ越しに見ていた饕狼は、それを見て察した。
(この懐にある財布を、なんとか玄武竜様に気づかれることなく、死翼様にお渡しせねばならない)
「あんた、どうした? なにか、体調でもわるいのか?」
魔力感知で周囲の様子をうかがっていたクロが、横に座る男——つまり死翼の様子がおかしいことに、気がついた。
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