第185話 尋問
饕狼は、クレープ屋の前で散々悩んだ末、ストロベリーチョコクレープとバナナチョコクレープとフルーツクレープを、二つずつ注文した。
(こんなことなら、死翼様の好みを聞いておけばよかった)
(すこし、時間がかかってしまった)
饕狼は両手にクレープを抱えながら、死翼があるいていった方向を見た。
そこに、悪夢がいた。
「おい、お前。饕狼とかいうやつだろ」
(玄武竜様!)
(まずい!)
大柄な男に変化しているが、その術式は完璧だった。
実際、ここにきてから、人間やエルフの警備とすれ違っているが、まったくばれなかった。
しかしクロは、はるか遠くから、饕狼のわずかな魔力をかぎ取った。
「こ、これは、玄武竜様! まさか、こんなところでお会いするとは……!?」
「お前、一人か? まさか、主の死翼といっしょじゃないだろうな」
クロは、ゆっくりと近づいてきた。
地上でも魔界でも、自分が恐怖することなどありえないとおもっていた。
だが、饕狼は強者ゆえに理解してしまった。
このものこそが、この世の頂点なのだと。
以前、アオを見かけた時と、おなじ空気を感じた。
主ですら恐怖する理由を、理解した。
「いえ、オレは一人ですよ。そう、一人で、この異世界のイベントを楽しみにきたのです」
「ふーん。それにしては、お前、ずいぶんな量のクレープを手にもってるじゃあないか」
クロはそう言って、両手にもったクレープを指さす。
「はははは、オレはこのように、体がでかいからですね。一人で食べるんですよ!」
饕狼は必死で、この状況を切り抜ける方法を考えた。
(そうだ! すくなくとも、主がこの状況をみれば、逃げはするだろう!)
(ここで時間を稼ぐのも、いいかもしれん!)
「そういえば、玄武竜様もお一人ですか? どうですか、一緒に食事でも! ごちそうさせてください!」
(のってこい!)
饕狼はクロを見据えた。
「ふーん。お前、一人か。だったら、死ね」
そう言うと、クロは指先に黒い闇を作る。
饕狼は仰天した。
「な、なぜそうなるのですか! すいません、私ごときが、玄武竜様を食事に誘おうなどと! 無礼を申しました!」
クロは指先の闇で、饕狼の持つクレープにふれた。
饕狼は危険を感じ、とっさに指をはなす。
するとクレープは、闇の中に音もなく吸い込まれるようにして消えた。
「この奈落にふれると、全ての物質は消滅し、悪魔のような精神体でも、私に吸収されるから復活もできない。役に立たない悪魔はいらない。じゃあね」
クロがそう言うと、指先の闇はさらに大きくなる。
(か、会話が通じねえええええ!)
(死翼様! 助けてください!)
おもわず、饕狼は視線をまわりに泳がせる。
それをみて、クロはニヤリとわらった。
それこそが、答えなのだ。
◇
リユウは指先で、ごく細い金属の糸に魔力を送り、苦無をあやつる。
苦無による全方向からの攻撃、防ぐ手段はない。
さらに、命中させる必要すらないのだ。
地面に突き立てた苦無は魔法陣を形成し、相手の自由をうばう。
……はずだった。
試合開始直後、リユウの魔力の糸は、すべて断たれた。
なにがおこったか、わからなかった。
しかし、解析は容易だった。
ジョカは、解析妨害もしなかったからだ。
(化け物か)
解析して、理解した。
ジョカが発動したのは、「糸を断ち切るスキル」だった。
(そんなものが、あるのか)
おどろく間もなく、ジョカは地面をすべるように高速移動し、足払いをかける。
「突風波!」
リユウはジョカに突風をふきつけつつ、その勢いを利用して距離をとる。
(くそ)
その瞬間、再びジョカのスキルが発動する。
リユウの足に、魔力の牙が噛みつく。
「うあああ!」
「【罠牙】。魔法による攻撃を受けた時に起動するスキルよ。あなた方の兵に、仕えるものがいた。相手の魔法をうけないといけないリスクがあるので、使い勝手はよくないわね」
「あーっと、リユウ選手の足首が、ジョカ選手によって打ち抜かれた!」
凍子の、なぜか嬉しそうなアナウンスがこだました。
(回復魔法を……!)
リユウは回復魔法を発動しようとする。
が、発動しない。
みると、いつのまに結ばれたのか、リユウの足首に、先ほど切り取られた糸が結ばれ、その先をジョカがもっていた。
(これは、エルフの封印術か!)
「なかなか便利な術ね。でも、これでおわりね。降参なさい」
ジョカはリユウに、降伏を勧告した。
(まだ、おわらない!)
リユウは苦無で、糸を切ろうとする。
が、切れない。
たかが糸が、切れない。
(魔力で強化しているのか!?)
「これも、あなたたちの兵の一人のスキルよ。本当に、優秀な兵が多いわね。対象の強度が弱いほど、強度を強化できる。【弱者の意地】」
(いま、この闘技場には四万人近い観客と警備の人間がいて、こいつは、その全てのスキルをつかえるっていうの!?)
「最後よ。降参しなさい」
(くそ!)
リユウは立ち上がろうと、最後の力を振り絞る。
そのとき、ジョカは目の前のリユウから目をそらし、真上をみた。
(なに。なにをみている?)
隙だらけ。
しかし、確認せざるをえなかった。
リユウも、天空をみた。
そこには、なにもなかった。
青い空と、白い雲だけが浮かんでいた。
◇
「すごいですね、この人。私の【魔道衛星】に気がついた」
ガリョウが、テレビモニターを見て呟く。
ワタシたちは、ガリョウのスキルで写しだされたジョカとリユウの戦いを見ていた。
小型の虫型の偵察機と、闘技場のはるか上空に位置する魔道衛星から、戦いの様子が正確に映し出されている。
「しかし、このガリョウ殿のスキルもとんでもないですね。はるか遠くの場所の映像が見れるなんて……」
その様子を見て、リョーカが呆れる。
「ガリョウ。ジョカのスキルは、周囲にいるものたちのスキルをコピーできる。あなたのスキルも、コピーされない?」
「私の魔道衛星は、はるか天空、上空三万六千キロに浮遊しています。これを正確に解析するものがいれば、世界のどこにいても解析されます。そして、危険が近づくと自動で消えます。おそらくジョカは、まわりの虫型の偵察機と魔道衛星の、魔力の方向くらいはみえるのでしょうが、そこまでです。通常、それすら見えないので、ジョカは十分、化け物ですね」
「あなたも十分、化け物よ」
ワタシは、彼女の言葉につっこんだ。
まさか、ここからはるか遠くはなれた霊都の様子が、リアルタイムでみれると思わなかった。
次の瞬間だった。
時間が、飛んだ。
何が起こったのか。
リユウが、仰向けに倒れていた。
そして、その横にジョカが立っていた。
会場は、なにがおこったかわからず、静まり返る。
「これは、アマンのスキルね。それをコピーしたのよ。攻撃の瞬間を、だれも認知できなくなる。回避不能のスキルよ」
ワタシが、モニターの中を解説した。
「あーっと! ジョカ選手の蹴りが、リユウ選手の眉間をつらぬいたあ! リユウ選手、おきれない! これで試合終了だあ!」
凍子の解説で、ようやく会場が沸き上がる。
「凍子には、見えてたみたいだな。ビゼン、お前には見えたか?」
「いや、全くみえなかった」
試合をみていたヨクトとビゼンが、驚いたように感想をつぶやいた。
「では、録画で見てみましょうか」
ガリョウがそう言うと、とどめのシーンが再現された。
たちあがろうとするリユウの無防備な眉間に、ジョカが正確に蹴りを入れている。
「しかも、蹴りの瞬間、気絶系のスキルを打ち込んでますね。これを放たれたら、どんな相手も、まず一撃で意識を刈り取られますね」
ガリョウが解説してくれた。
「ということは、こいつはいままで、いつでも倒せるのに、あそんでたってことか?」
ヨクトが、画面のなかのジョカをにらみながら言った。
「遊んでいたというより、実験してるのよ。コピーしても、実際にどれが実用的か、使ってみないとしっくりこないこともあるからね」
ワタシは、昔を思い出しながら言った。
「でも、スキルはともかく、動きのほうも、昔とは比べ物にならないくらい強くなってるわね」
ワタシは再び、画面の中のジョカをみる。
無表情に、会場の声援に手を振っている。
ロリババア、相変わらずだ。
彼女の負けるところが、まるで想像できない。
◇
「じゃあね」
虫でも殺虫剤でころすように、クロは饕狼に向けて、指先から闇を放とうとする。
饕狼は、恐怖した。
不滅のはずの、そもそも死ぬことなどないはずの上級悪魔が、生まれて初めて、死をイメージしてしまった。
「す、すいません、うそです! 死翼様といっしょにいました!」
饕狼は恐怖のあまり、おもわず叫んだ。
まわりの通行人が、おもわず振り返る。
美女が大男をしかりつけているようにみえて、道行く人は笑いをこらえた。
しかし、饕狼は気が気でなかった。
命がけだった。
(申し訳ありません、わが主よ!)
(しかし、この人はどうしようもありません!)
「ふうん。うまく化けてるんだな。とりあえず、どっちにいったか案内しろ」
クロはにこりとわらって、饕狼に指図をした。
饕狼は、死翼がむかったほうにむかって、先導してあるきだした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




