第184話 潜入
「あああーっと!オウライ選手の渾身の上段蹴りををオウコ選手、上段防御でうけとめたあ!!」
武術大会、1回戦はオウライとオウコの戦いとなった。
オウライは武器を投げ捨て、素手での殴り合いをオウコにいどんだ。
「おもしろい!」
オウコも槌を投げ捨て、上半身裸となり、殴り合いとなった。
力と力のぶつかり合いに、会場はヒートアップする。
(これほどのものが、野に埋もれていたのか!?)
オウライはオウコの力に驚愕する。
その様子をみてジユンはニヤリと笑った。
(あのオウライと正面からなぐりあうとは、やつはなんとしても手に入れねばな。)
◇
一方、異世界グルメイベント会場-
道行く人々は様々な珍しい食べ物をほおばり、その味を楽しんでした。
「おお!この豚骨ラーメンなる摩訶不思議な食べ物もすばらしい!おい!この白に渦巻きが入っているものもしっかり解析しておけよ!」
一人の男が一緒にラーメンをたべている大男に指示をだす。
「は、かしこまりました。しかし、解析スキルをつかってしまっては究姫様たちに探知されるのでは?」
大男の正体は人に変化した饕狼である。
隣でラーメンを食べている男は死翼である。
「たしかに、お前の言うとおりだ。しかし、この摩訶不思議な味、食べて終わるだけではやはりおしい。やはりすべての料理を解析しておけ!」
「は、はあ。」
死翼は主の狂気にため息をつくしかなかった。
(まさか、異世界の料理をたべるために、全ての魔力を一時的に捨て、魔力すらろくに持たない人間になってしまうとは。)
饕狼は死翼とのやりとりを思い出す。
「饕狼よ!私は人間になるぞ!」
「は?それはどういうことで!?人間に変身するということですか?恐れながら、その程度では究姫様や青竜様をだませるとはとても・・・」
「それはそうだろう。変身ではない。ようはこの霊力がやつらに探知されてしまうのだ。ならば私は精神体も人間となり、肉体も人間になればいい!そうすればやつらにばれることはない!」
「そ、そんなことができるのですか。では、簡単ではないですか。」
「うむ、だが、ことはそう簡単ではない。ただの変化ではない。精神体すら人間になるのだ。この肉体をすて、精神体をすて、意識をたもてるぎりぎりにするのだ。そして、意識のみを人間にうつすのだ。」
「精神体をすてる!?そんなことができるのですか!?」
饕狼はおどろく。
意味が分からなかった。
上級悪魔の自分ですらそんなことはできないのだ。
「だが、問題もある。精神体を完全に切り離し、人間にうつしたまま殺された場合、私は二度と復活できず、人間として死ぬだろう。その場合、わが眷属のお前もただではすむまい・・・」
「え!?オレにも影響が!?」
主のとんでもない一言に饕狼は驚愕した。
「だから、貴様は私を全力で守らねばならない。なあに、お前に勝てる者などこの世にそうはおるまい。それにただの人間になった私を襲うものなどいまい。」
「いや、ちょっとまってください。では、すくなくとも究姫様、青竜様、玄武竜様から死翼様をお守りするということに。」
「そうだ。しっかり守れよ。では、わかったら、あの商人のなかから一人さらってこい。」
そういって死翼は崖下をすすむ商人の一団を指さす。
「できれば使用人や兵士でいなくなってもよさそうなやつだぞ!逃げ出したとおもってもらわねばならん。目立つなよ。」
◇
こうして、死翼は人の身体を手に入れた。
そして、本体は先ほどの崖にひそかにかくしてある。
「ところで、死翼様、いま気がついたのですが。」
「なんだ?」
「死翼様の本体ですが、今、野生の魔獣や獣におそわれたら、どうなるんでしょうか。」
「まあ、私が戻れば再生は容易だ。かりに食い散らかされていても、復活できる。おお、そんなことより、つぎはあそこにある「クレープ」なるものがなんともおいしそうではないか。お前、並んで来い。私はとなりにある「すし」というものを買ってくるから。しっかり解析もしておけよ。」
「は、かしこまりました。」
そういって、二人はわかれた。
◇
オウライの右こぶしがオウコのみぞおちにきまった。
オウコはゆっくりと崩れ落ちていく。
オウライはニヤリをわらった。
だが、その瞬間、オウライにも限界が来た。
意識がたもてなくなりオウライも崩れ落ちた。
そのまま両者ともうごかなくなる。
「ああーっと、まさかの両者KOだああああ!この場合、ルール上は後に倒れたほうの勝利だ!勝利はオウライ選手だあ!」
両者に歓声と拍手があがった。
「それでは、選手の安全を確保するため、私が両者を回復させるぞ!」
凍子はそういうと、両者に手をかざす。
二人が光につつまれ、両者とも目を覚まし、ゆっくりと立ち上がった。
「オレはまけちまったのか・・・」
オウコが自分とまわりをみて呟いた。
観客が自分とオウライの名を呼んでいた。
「ああ、試合としてははな。だが、オレは勝ったとはおもってねえ。またやろうぜ。兄弟。」
そういって、オウライがオウコに右手を差し出す。
オウコは笑って、その手を握り返した。
◇
「なかなか。いい試合だったな。」
貴賓席の究姫は満足そうに二人をみつめた。
そして、クロがたちあがった。
「あら?あなたも気がついた?」
そのクロをみてアオが声をかける。
「クロ、何かあったのか?」
キョウもクロのほうをみる。
「この魔力は饕狼とかいうやつだね。ちょっと様子をみてくる。」
「あ」
そういわれて、試合に夢中になっていた究姫も気がつく。
「アオ子と究姫はキョウとジョイエルを守っていてくれ。」
クロはそういうと貴賓席から飛翔した。
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