第182話 予選最終組
「さあ、予選最終組だ! この予選には、なんと、あの宰相アマンも参加しているぞ!」
凍子のアナウンスで、会場が沸き立つ。
「ルールは簡単! 倒れて三カウントで立ち上がらなければ、敗北だあ! 勝者は三人! みんな! 宰相閣下を殴り飛ばせるチャンスだぞお!」
おおおおおお!
宰相を殴り飛ばせるチャンスということで、会場は否が応でも盛り上がった。
「ぼうや。私がまもらなくても大丈夫かい?」
リユウがアマンに話しかけた。
「遠慮なくかかってくれてもかまわんぞ。久しぶりに、模擬戦といこうか」
アマンは、模擬戦用の剣をぬいた。
刃はついていないが、当たりどころが悪いと骨折は免れない。
「さあ! それでは試合開始だあ!」
凍子の合図で、試合がはじまった。
アマンのそばの数名の選手が、彼めがけて突っ込んでくる。
アマンはそれらをかわしながら、油断なく周囲に魔力感知の網を張る。
瞬間。
何か、予感があった。
自分と同じように、魔力感知を張ったものがいた。
(この戦術は、リユウのものだ)
(しかし、発信元は彼女ではない)
(なにか、やばい!)
アマンはその瞬間、【高跳】の魔法を発動する。
その場で垂直に飛び上がるだけの、基本魔法の一つ。
リユウはよく知った術式が展開されたのを感知した。
(この術は、やばい!)
リユウもとっさに結界をはった。
一方、次の瞬間、地上にいた選手たちは叫び声をあげた。
「ぎゃあああああ!」
「ぐわあああああ!」
「おおおおおっと! 最終予選、あっというまに勝者はきまった! 立っていたのは、アマン選手、リユウ選手——そして、圧倒的な魔術でほぼ全ての選手を倒したのは、ジョカ選手だあああ!」
(ジョカだと!?)
アマンは、闘技場に立っていた一人の少女をみた。
まだ十代前半にみえる。
(見たことがある)
(彼女は霊教の大司教、ジョカエルといったか)
(ジョカの名で、この大会に参加していたとはな)
「あなたは、霊教のジョカエル殿か?」
アマンはジョカに話しかけた。
「ご挨拶がおくれましたね。しかし、今回の大会は、一人の戦士ジョカとして参加させていただいておりますので」
ジョカはスカートをたくし上げ、優雅に挨拶をする。
そこに、リユウもやってくる。
「いまの術は、どこで身につけられた? エルフ秘伝の術だが」
「私のスキルは、このあたりにいる方の、全ての術やスキルを使用できます。あなたのスキルが最適だったので、使用させていただきました」
(このあたり全員のスキル? なんなの、その能力!?)
リユウはジョカの力に戰慄する。
「良いのか? 自分の能力をバラしてしまっても?」
アマンは、自身の能力も解析されたかと警戒しながら聞いた。
つぎの瞬間、ジョカの指先が、アマンの首に触れた。
(いまのは、私の【絶影】か!?)
「閣下のお命を狙うものも、多いとおもいます。閣下の豪胆さには、かないませんね」
ジョカはそう言ってククと笑うと、一礼をして去った。
「いまのは、坊やの【絶影】だね。とんでもないやつがいたもんだ」
「だが、なんとか我々の戦力となれば、頼もしいことはない」
アマンはそう言いながら、ジョカの後ろ姿を見送った。
「さあ、いよいよ次は本戦だ! 一体、誰が優勝するんだああ!」
凍子自身も観客の人気者となり、声援に応えていた。
◇
とある宿——
ジョカエルが部屋に戻ってくる。
そこに、フードをかぶった一人の男がいた。
「ジョカエル様、勘弁してください。あのアマンと接近するなんて」
男は立ち上がって、ジョカエルに諫言をした。
「あら、リジュエル。あんたまで、ここに来ることはなかったのに。勝手についてきたんでしょう」
ジョカエルはそう言いながら、リジュエルの前のソファにすわりこみ、ジェスチャーでお茶をいれるように指示をする。
「そういうわけには、いきませんよ」
リジュエルは、お茶をいれる準備をしながら答えた。
「まあ、あんただけショウのもとにいれば、殺されるかもしれないしね」
リジュエルは、だまって自分の仕事をした。
「ビエムがあらわれるかと予想してるんだけど、今のところ姿を現さないわね」
「なんのために、でしょうか?」
リジュエルは、ティーカップを出しながらきく。
「核爆弾じゃなくても、アマンを暗殺するとか、キョウ王女を暗殺するとか、そういう手をうってくるんじゃないかと思ってるんだけどね」
(アビも戻ってくるかと思っていたんだけど、いないようね)
(今回もまた、すれ違いか)
ジョカエルは、出されたお茶を手に取りながら答えた。
「それで、武術大会のほうはどうですか?」
「だめね。凍子の能力はコピーできなかったよ。やはり私でも、四凶の能力のコピーは無理ね」
「いえ、そうではなくて。参加者のほうなのですが。ジョカエル様に届きそうなものは、いましたか」
「私にとっては、自分のちからがどれだけ四凶や四神に届くのかが重要なのよ。結局、彼らをなんとかしないと、霊教の教えを広めるのに限界があるからね。私の能力は、最強になるためじゃないわ。人々を救うためにあるのよ。……それより、早く出ていきなさいな。あなたと一緒にいることがばれたら、私も逮捕されるかもしれないのよ」
ジョカエルはそう言いながら、異世界グルメイベントのパンフレットに目を通す。
(アビとまわれたら、楽しかったでしょうね)
ジョカエルは、アビの笑顔を思い出した。
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