第181話 罠
異世界グルメ祭り。そのイベントの一環として行われる魔導武術大会は、本戦に先立ち、予選が行われていた。
アマンたちはその様子を注意深く観察し、優れた選手たちをスカウトしていた。
「それでは、現状、発掘・調査している選手たちを紹介します」
カギはそう言って、アマンはじめ重臣たちに調査状況を発表する。
「まず、今回の優勝候補といってもいい者がこちら。チュウエイに紹介された悪魔、徐姫です」
将たちがざわつく。
「チュウエイやロフが死んだあと、いずこかへ消えていましたが、姿をあらわしました」
「あの徐姫か。俺たちもてこずり、結局やつを倒すことはできなかったが……まさか武術大会にあらわれるとはな」
ジユンが腕をくみ、憮然とした顔で言った。
「なお、徐姫にはすでに接触しており、大会後は我々に協力するよう契約をむすんでいます」
「ばかな! ほんとうか!? どうやって!?」
カギの一言に、ジユンは声をあげた。
「彼女はお金で動くようで。今は魔獣退治などの傭兵をしたり、歌姫として現世を楽しんでいるそうで。暇だから別にいい、とのことです」
「大丈夫なのか?」
ジユンは、当然のように不安の声をあげる。
「かまわん。金で働いてくれるなら、こちらとしてもありがたい。敵にまわるくらいなら、味方にしておいたほうがいい」
アマンはジユンを制した。
「アマン様がそうおっしゃるなら」
ジユンは、群臣たちの前で敬語をつかって返事をした。
「そして、魔導士ホウコウ殿」
一人の魔導士の名があがる。
「彼は王都で知り合った私の友人だ。病を療養するため、戦乱をさけ、しばらく中央をさっていたのだが、何人かの同志とともに、このたび正式にわが軍に参加してくれることが決まった」
アマンがホウコウを紹介する。
「しかし、自分の実力を諸将に証明するといって、この大会に参加している」
「その他、想像すらしていなかった選手も」
そう言って、カギは一人の名をあげる。
「まず一人目が、オウコ殿。農民出身の冒険者で、魔獣退治などをされてきたそうです。なんと予選にて、我が陣営のエイサイ殿を打ち破りました」
「あの、エイサイ殿が!」
「そんな者が、まだ世にいたのか」
諸将がざわつく。
「フッ、だらしない」
ジユンが鼻でわらった。
「奴にとっても、いい薬になったろう。まだ世の中は広い、ということだな」
アマンも笑って答えた。
「そして、もう一人。ダークエルフの選手、コン選手です。もっとも、ダークエルフというのも自身が言っているだけで、仮面とローブをかぶり、正体は不明ですが」
「いかにもあやしいな。戦いの様子はどうだ? 詳しい資料をみせてくれ」
アマンはカギに、資料の提出を求めた。
「……全ての戦いを、ほぼ基本魔法や正攻法で勝利しているな」
アマンは資料を見て呟く。
「はい。現状、変わったユニークスキルやオリジナルのスキルはないですね。強化系のスキルを使っているとはおもわれますが」
カギがこたえる。
「精神体の悪魔族ではなさそうだが、究姫様や凍子様はどうみている?」
「相当に身体能力をあげている魔力を感じる、と」
「なんともいえないな。目を離すなよ」
「かしこまりました」
「つぎはオウロ殿。異世界のグルメイベントの報告を」
「は、かしこまりました」
指名された四十代ほどの文官が、資料をもとに状況の発表をはじめる。
「現在のところ、四十八もの参加者が手をあげています。ハンバーガーという、肉をパンにはさんだものや、麺類、スイーツなど、さまざまな店が出店希望をだしています」
「ひとつ、質問があるんだが」
リユウが挙手した。
「なんでしょうか」
「当然だが、我々には、その料理が異世界のものか、オリジナルの創作料理なのかの区別がつかない。そこはどうなっている?」
「それには紆余曲折があったのですが。最終的には、凍子様と究姫様が試食をおこない、嘘をついていないかの判定をすることになりました」
「よく、あの二人が協力してくれたものだ」
リユウが資料をみながら確認する。
「実は、紆余曲折がありまして。我々の軍にも異世界出身の兵たちがおりますので、彼らに判定させようとおもい、試食をさせることにしました。ところが、一つの料理について、知っている者も知らない者もいれば、別の料理については、知っている者も知らない者もいたのです。以前から言われていましたが、我々が異世界と呼んでいた世界は、おそらく複数存在するようです。またその異世界のなかでも、複数の国や文化がある場合もあるようでして。結局、真偽の確認ができないのです」
「それで、あの二人に頼んだと」
「ええ。自分たちが嘘を見破ってやるから試食をさせろ、と」
「要は、自分たちが試食をしたかっただけか」
リユウは呆れたように返事をする。
「しかし、その結果、十以上の者が、創作料理を異世界の料理だと偽っていたことが判明しました。ただ、彼らの料理の中にもすぐれたものはあったため、創作料理として店舗を出すのはどうかと思いまして」
「かまわん。今回は、死翼をおびきだすことが真の目的だ。それから大きく外れなければいい」
アマンは答えた。
「は、ありがとうございます」
オウロは短くこたえた。
アマンは資料に目をやりながら、ふたたび次の報告を命じた。
◇
霊都で異世界グルメイベントが準備されている様子を、遠く崖の上から望遠鏡で眺める者がいた。
死翼である。
(おのれ! 究姫、凍子め、異世界の料理を、あんなにおいしそうに!)
望遠鏡の先では、究姫と凍子が異世界の料理に舌鼓をうっていた。
それをみながら、死翼は歯ぎしりをする。
(いますぐにでも、私も参加したい!)
(しかし、見え見えの罠!)
(おそらくは、私が近づくやいなや、私を束縛するつもりにちがいないのだ!)
その証拠に、凍子は食事をしながらも、周囲の様子を油断なくうかがっている。
究姫も、油断しまくっているようにみせて、あれこそ演技に違いないのだ。
魔力で【望遠】をつかえば、たちまち探知されるのはあきらかだった。
だから死翼は、魔力を一切つかわない異世界の道具で、会場の様子をうかがっていた。
世界中から異世界の料理があつまるというイベント。
いかないという手はなかった。
となりに、狼のような魔人、饕狼が控えている。
かれは武術大会に出場しようとしたところを、死翼に見つかってしまった。
「死翼様、こういうのはどうでしょう。オレが武術大会に参加するついでに、死翼様へのお土産をかってくるとか」
「はああ~!?」
死翼の眉毛が吊り上がる。
「ばか! 料理とは、出来立てが一番うまいにきまってるだろ!」
死翼はそう言うと、銀を魔力で強化したステッキで、饕狼をたたいた。
饕狼は、銀以外の攻撃は効かないというのを知ってのことだった。
「いたたた、死翼様! 魔力がちょっと漏れてますよ。究姫様たちにみつかりますよ!」
死翼ははっとして、望遠鏡をのぞき込む。
距離があったせいか、気づかれてはいないようで、安堵する。
そのとき、崖下に、商人の一団が霊都に向かっているのが見えた。
「そうだ、こうしよう! なんで、こんなことをおもいつかなかったのだ!」
死翼は、饕狼のほうをふりむく。
(嫌な予感しかしない)
饕狼は悪寒を感じながら、主の姿をみた。
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