第180話 現状整理西方と南方
「次に南方。ここは魔族の勢力圏です」
そう言って、ガリョウはTVモニターに地図を出す。
「しかし、魔族といっても、ここは昔から特定の勢力がおらず、いわば無政府状態でした。最近までは」
街を歩く魔人の一団の姿が映される。
「やや後ろを歩いている、黒いローブと仮面をつけている男が姒鯀。南部で勢力を伸ばしている魔族ですね」
遠目で、おまけにローブを被り、マスクをつけているようで、容姿は確認できない。
「恐ろしく用心深いやつです。これ以上近づくと、バレました。厄介なのが、この姒鯀は政治的には動かず、マフィア化して裏から支配しているという感じですね」
「魔王や刑将様とは、ちょっと違うという感じ?」
ワタシは、違いが分からず聞いた。
「少なくとも、魔王ヴィクトリーは自国民を守り、栄えさせようと思っていましたからね。災王も刑将も、そこは引き継いでいます。しかし、姒鯀は自分の進化——新たなる魔王になりたいようですね」
「そして、追われた魔族たちが、彼女を頼って合流しています」
赤い髪のおさげの女。
「この女性はハオ。南の英雄と呼ばれたレツオウの娘です」
レツオウ。
あいつか。
キョウとカイ王の命を狙って、リョーコさんが命がけで倒したやつ。
「おそらく、両者は戦うでしょう」
「どちらが勝つと思う?」
ワタシは聞いた。
「姒鯀の戦力は分からないので、何とも。しかし、ハオは正義感が強く、姒鯀のやり方を許さないでしょう」
ガリョウは答えた。
「では、何で、すぐに戦争にならないの?」
「そこが姒鯀の狡猾なところで。自分は表舞台に立たず、ゆっくりと裏から支配していくのです。極力、自分は表に出ず、第三者を操ります。だから、ハオはまだ、脅威には見えていないと思います」
「まあ、要するに小物だね。目障りなことをしたら、消してやるよ」
クロが、大雑把すぎることを言った。
クロが本気になれば、どうやら四凶ですら止められないらしい。
戦力分析としてはまったく参考にならないが——その姒鯀というのが、ワタシたちの敵に回らないなら、放っておけばいい。
「つまり、北方はおそらくアマンかショウが覇者となって、南方はハオか姒鯀が覇者となるってことね」
ワタシは、地図を見ながら確認した。
「そうです。そして、この西部は——アビが災王、刑将を倒し、キョウ殿下と一緒になれば、ほかの勢力を頭一つ抜きます!」
「いや、そ、それはどうかな」
ワタシは遠慮したが。
「それは面白いな。キョウが私の子供を産んで、お前たちの子供にしてもいいぞ」
「それは、もっと却下よ!」
ワタシはクロに、手のひらを突きつけた。
「で、ここから本題なんだけど。レジェンドのやつは、どこにいるの? あいつを止めれば、災王は刑将様が何とかするでしょう」
「この地よりさらに西、砂漠地域の入り口。このあたりで、やつは勢力を広げています」
そう言って、ガリョウは一つの地点を指した。
◇
「この群れの指導者は、お前か」
魔人たちを従えた一人の男が、獣人の群れのリーダーに話しかけた。
男は黒い髪。鎧などは身につけていない、異世界風の軽装である。
獣人は大猿タイプの獣人で、その身長は男の二回りは大きかった。
「ああ、チミさん、あんたか。何の用だ」
獣人はレジェンド勇者チミを警戒しながら、答えた。
「今日から、ここは俺の縄張りにさせてもらう。お前は用済みだ。俺の配下になれ」
チミは獣人に命令した。
「待て。そんな話は、災王様から聞いていない。どういうことだ?」
獣人はチミに食い下がった。
「それはそうだろう。災王の命令じゃない。俺が命令してるんだ。分かったら、俺に跪け」
「ふざけるな! そんなこと、許されるはずがないだろ!」
獣人はチミを見下ろし、拳を握りしめた。
「やかましい!」
チミはそう言うと、剣を獣人の足の甲に突き立てた。
「ぎゃああああ! 貴様、何しやがる!」
獣人は怒りに任せて、チミに拳を突き出す。
しかし——
ガキッ。
獣人の拳は、チミの前で、何かの膜に防がれたように止められた。
「跪けと言ってんだよ!」
チミは叫ぶと同時に、剣を獣人の膝の関節に突き立てた。
「ぐわあああ!」
膝の関節を破壊され、獣人は崩れ伏した。
「そうだ。それでいいんだ」
チミはそう言って、獣人の顔を踏みつけた。
「まだやるか?」
そう言って、チミは獣人の首に刃を当てる。
「分かった! 分かりました! あんたの勝ちだ! あんたの家来になる!」
獣人は叫びながら、命乞いをした。
「初めから、そう言や、いいんだよ!」
チミはそう言うと、靴で獣人の耳を踏み潰した。
「ぐわあああ!」
獣人は再び、叫び声を上げた。
「おい、そこのお前!」
チミは、そばにいた獣人を指さした。
「まずは、女と酒を持ってこい! 今からここは、俺の縄張りだ!」
味方の縄張り荒らし。
それは、魔族にとってもタブーだった。
しかし、チミは気がついたのだ。
反抗してくる敵よりも、リーダーを倒せば終わる味方の方が、攻略が楽だということに。
しかし、そんなことは、災王の軍団でも許されるはずがなかった。
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