第179話 現状整理、北方
改めて、ヨクトとビゼンにも席が設けられた。
TVモニターには、王国の簡易地図が映っている。
「あらためて、おさらいしますが。現在、霊都にはキョウ殿下とアマン宰相の勢力があり、北方にはショウ・エン公爵の勢力圏があります」
ガリョウは、地図上に勢力図を表示させた。
「なお、農業の収穫規模は、ショウの勢力がアマンの勢力の十倍に達します」
そう言って、グラフが表示された。
「こんなに差があるの?」
ワタシは聞いた。
「保守的な貴族や商人は、ショウについていますからね。アマンは既得権を改革しています。表向きは彼についていても、全体を見ればショウを支持する勢力も多いです」
(たしかに、アマンの陣営は、アマンとキョウのカリスマ性でもっているようなものか)
「アマンもこれをよく知っています。だからこそ、例の魔導武術大会で、一騎当千の猛者をスカウトしたいのでしょう」
「なるほどね。アマンはよく考えているわね」
ワタシは頷いた。
「普通に考えれば、ショウはこの機を狙って攻め込むべきですが、攻め込みません。理由は分かりませんが、最近はよく、いろんな側室のところに通っているようですね」
「お盛んなことで……」
「いえ、そうではありません。どうも最近、ショウは体調を崩しているようです。彼はひょっとしたら、被曝しているかもしれません」
「被曝!?」
ワタシとガリョウのやりとりに、他の三人がついてこれないという顔をする。
「ガリョウ、被曝とは?」
ビゼンが聞いた。
「なんというか、例の核爆弾の爆心地に、彼は行きましたからね。放射線と呼ばれる毒を受けたかもしれません。その毒は、徐々に体を蝕みます」
「魔法やスキルで回復はできないのか?」
「魔法で疾病を回復する場合、少なくとも疾病の原因を突き止めないと、通常は治せないです。例外もありますが。この世界では放射線の概念が分かっていないので、通常のやり方では治せないでしょう」
「でも、アオ。あなた、あのあたり一帯のけが人や病人を全部治したよね。あれは?」
ワタシは、アオに聞いた。
「あれは『復元』っていって、厳密には治療ではなく、もとに戻したのよ。そういうスキルを持ってる人なら治せるでしょうね。そしてクロは、そのなんとかという物質を消したのよ」
「正体が分からないのに、消せるの?」
「私たちならね」
「じゃあ、ショウを治してって言ったら治せる?」
「たぶんね。治してこようか」
ワタシは一考した。
「お願い」
「本気ですか!?」
ガリョウは驚いて聞いた。
「自業自得ならともかく、たぶん、ショウは被害者のために、誰よりも早くそこに行って被曝したんでしょう。それを知っていながら見殺しというのは、ちょっと寝覚めが悪い」
「ショウが死ねば、戦争は早く終わりますよ」
ガリョウは驚いて言った。
「それでもよ。彼とは会ったこともあるけど、少なくとも悪人には見えなかったしね」
「もし、アマンが敗れれば、キョウ殿下のお命も危険ですよ」
「そのときはそのときよ。行き当たりばったりと言われれば、そうかもしれないけどね。核兵器で苦しむ人を助けに来た人を見捨てて、何が正義かという話ね。もっとも、放射線が関係ない話だったら、助けなくていいけど」
ワタシはそう言って、アオを見た。
「分かったよ。とりあえず、今夜にでも見に行くよ」
「見つからないようにね」
「分かってるよ」
そう言って、しばらく何か言いたそうに黙る。
「やっぱり、私のような淑女が、夜に殿方の寝室に行くのはどうかと思う」
(いや、それはそうだけど、淑女ではなくて痴女だと思うが)
「こうしよう。ちょっと待ってて」
そう言うと、アオの身体が薄くなり、どこかに転移した。
「すごいですね。普通に歩くように空間転移するんですね。こんなの、伝説級のスキルですよ」
ガリョウが驚く。
まあ、そういえば、クロやアカは空を飛んでくることが多いな。
「お待たせ」
そう言うと、アオはクロを連れてきた。
「紹介するよ、ガリョウ。こいつがクロだよ。こいつに、ショウの治療は頼むことにするよ」
「いや、どういうことよ。それより、なかなか綺麗な子がいるじゃないか」
クロはガリョウを見て、目を細める。
「どうも。私、ガリョウといいます」
ガリョウは驚いたように、クロに挨拶をした。
「ん? お前、私の【誘惑】をはじいてるな。なんだそれ」
初対面で、挨拶代わりに精神干渉を仕掛けるとは、なんというやつだ。
「その、初手から精神干渉って、どうかと思いますが……」
「それでコミュニケーションが円滑にいくんなら、いいと思うが。人間でいう、愛想笑いってやつだよ。それより、ショウの治療をアオに頼まれたんだが、どういうことか説明してくれるか」
◇
「なるほどね。分かったよ。まあ、ショウとは知らない仲じゃない。私が何とかするよ。それより……座っても?」
珍しく、許可を取った?
「どうぞ」
ガリョウがうなずくと、
「よいしょっと」
クロはガリョウの横にべったり座り、太ももに手をやる。
「お客様、当店はおさわり禁止です」
ワタシはクロに突っ込んだ。
そんなワタシを無視して、クロはガリョウを見つめる。
「なるほど。お前、体中にナノマシンを入れて、それで抵抗しているのか」
クロが、珍しく目を開いて驚いた。
ガリョウが慌てて距離を取る。
「そ、そんなことまで分かるのですか」
そう言いながら、少し顔が赤らんでいる。
少し、【誘惑】の効果を受けたのかもしれない。
「フフフ。手が分かったから、もう私にそれは効かない。脳と性器に直接、快楽念波を」
パシャ。
クロがそう言いかけたところで、ワタシは手に水をつけて、やつに引っかけた。
「話が進まないのよ! あなたも、やることができて忙しいでしょ。早く帰りなさいよ」
「分かったよ。黙ってるから、仲間外れにするなよ」
クロはそう言うと、ガリョウから距離を取る。
「えー、話を戻しますが。どのみち、ショウはアマンに敗れると、私は読んでいます」
ガリョウはそう言いながら、テレビモニターにもう一度目をやった。
「一応聞くけど、理由は?」
ワタシはガリョウに、その予想の根拠を聞いた。
「ショウの軍には優秀な将もいますが、アマンの陣営には及びません。十倍の兵を用いても、アマンの陣営と互角でしょう。この世界の戦いは、量より質です」
まあ、たしかにそうだ。
チュウエイは、自分の部下はほとんどいなかった。
しかし、あのロフには、結局最後まで誰も勝てなかった。
だから、チュウエイは実権を握ることができた。
「しかし、ショウにも勝ち筋はあります。それは、経済で勝つことです。たとえば、王をアマンに渡し、自分は経済圏を支配する。しかし、保守層の貴族たちは、それを良しとしないでしょうね」
ガリョウは、そう分析した。
「ショウとアマンの戦いは、メンツの戦いでもあるってことね」
「もっとも有力だったコウロも、アマンにより滅ぼされました。後ろめたいことがある貴族たちは、次は自分の番ではないかと、恐れおののいているのです。しかし、ショウにも一つだけ勝機はあります。」
「それは?」
「ジョカです。」
「彼女はショウのところに?!」
ワタシは少し驚いた。
「ええ、彼女には彼女の思惑もあるようですが、彼女がショウについて戦場にでてくるならどうなるかわかりません。」
たしかにジョカなら一人で戦況をひっくり返すかもしれない。
「なるほどね。で、さっき言ってた、天下三分というのは?」
「はい。次は、南方勢力に目をやろうと思います」
そういえば、ワタシは南方の話については、ほとんど知らないな。
ガリョウの話を聞かせてもらうことにした。
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