第178話 対話と変化
ガリョウが、テレビのリモコンを手に取る。
後ろで立っているヨクトとビゼンが、思わず反応した気配がした。
ワタシは大丈夫だと手で合図する。
ガリョウは、リモコンでテレビのスイッチを入れた。
そこには、意外なものが映っていた。
(地球? いや、この世界か?)
宇宙に漂う惑星だ。
「これはひょっとして、世界か?」
ビゼンが驚きの声を上げた。
「すごいね。人の目でこれを見ている者がいるなんて」
アオは目隠しを外して、目視で画面を確認した。
「私のスキル【魔道衛星】です。ここよりはるか上空に私の分身体が浮遊し、世界を見ていると思っていただければ」
アオが上を向く。
「今は起動していないのでいませんが。これは、映像として記録したものです」
ガリョウは言った。
「なるほど。これでは、私たちもそう簡単に探知できないね」
アオが感心したように言う。
「少し拡大します」
ガリョウがそう言うと、大地が拡大されていく。
「ここが、我々がいる王国の西部。その東が王国」
地図の中の一部が光る。
「人の勢力圏と言ってもいいです。南側に行くほど、魔物の勢力圏になります。なぜ、魔物たちが勢力を伸ばさないか、分かりますか?」
「私たちがいるからでしょうよ」
アオが答えた。
足を組んで頬杖をつき、若干、不機嫌そうだ。
その答えを期待して聞いただろう、という反応だ。
やばいな。
いつガリョウが氷漬けになるか、分からない。
「そうでしょうね。アオ様、無礼承知でお伺いしますが、人と関わらないようにするなら、あなた方が出ていかれては?」
なかなかきついことを言うな、この人は。
「そんなことをしたら、この地は魔物や魔獣に蹂躙されるでしょうね」
アオが、少しいら立ちを見せながら答えた。
ああいう質問をされては、仕方ない。
「そうですね。では、いっそのこと、あなた方がこの地を統治すればいい。少なくとも、象徴としてでも」
「遠慮しとくわ。私は本来、静かに暮らしたいのよ。このアビやキョウ、後ろの子たちがいれば、本来十分よ」
アオは手を払いながら言った。
そんなこと言うなら、来なければいいのに。
「正直言うと、説得に応じないなら、最悪、洗脳してしまおうと思ってたんだけど……」
「ちょっと、あんた……」
さらっと、とんでもないことを言い出した。
「あなたのこと、解析すらうまくできない。正直、感心してるわ」
アオは少し微笑みながら言った。
「アビさん、あなたは、あの王国やこの地をどうしたいのですか? あるいは、どうなればいいと思っていますか?」
改めて聞かれると、難しい質問だ。
「正直言うと、ワタシはあなたと同じく、この世界の人間じゃない。だから、この国自体に愛国心みたいなものがあったわけじゃない。でも……」
「でも?」
「この国の王女、キョウは、今でもワタシの大切な人だし、ワタシの周りにも仲間ができた。彼らを路頭に迷わすわけにはいかない。言ってみれば、極めて個人的な思いですね」
「では、刑将殿は?」
「正直言うと、刑将様がどうこうというより、レジェンド勇者の方がやばいと思っています。ワタシはあいつを何とかしないと。今度は、たとえ殺してでも」
昔、あいつは殺しておくべきだった。
「まあ、それは同感ですね」
彼女はそう言うと、テレビの画面を切り替えた。
どこかの町が映る。
「これは、どうやって?」
驚いた。
これはどうやって記録したんだ。
「超小型の、虫型の使い魔といったところです。これも、私に宿ったスキルの権能の一つです」
画面が移り変わる。
町の中が映っている。
そこかしこが荒れている。
「これは、災王が襲った町です」
「ひどいわね。でも、こんな政治をしていたら、災王に従う者もいなくなるんじゃない?」
「そうですね。実際、彼はこれを良しとは思っていないようです。ですが——」
そう言うと、画面が切り替わる。
これは……奴隷市場か。
ビゼンと暴れ回ったことを思い出す。
「最近、奴隷市場が急速に増えています。その理由の一つが、こいつです」
画面に、一人の男が映し出された。
よく知ってる男だった。
「奴隷商人カク!」
生きていたのか。
というか、こんなところでまだ商売していたのか。
「そして、もう一人がこいつです」
そいつも、知った顔だった。
レジェンド。
「こいつらは、弱い種族をどんどん勝手に売り飛ばしています。彼は、私やあなたと同じ、魔勇者プロジェクトの生き残り——それも最悪な奴です。今では、災王もこいつに手を焼いています」
「こいつの能力は、私たち異世界人の殴る蹴るといった直接的な攻撃以外のものを、全て無効にする」
「そうです。だから、災王ですら彼を倒せない。しかし、彼もまた災王を利用している。彼は、何かを支配したいわけではないようですね」
「そうよ。あいつは征服欲があるタイプじゃないからね。酒と女が欲しいだけよ」
だから、災王もレジェンドを御しやすいんでしょうけど。
「私はまず、これを叩き潰したいと思っています。まずはそこまで、お手伝いします」
「ガリョウさん。ありがとう」
「ガリョウと呼んでください」
「じゃあ、ワタシはアビで」
ワタシとガリョウは、握手を交わした。
「分かりました、アビ。でも、レジェンドを倒した後、あなたにはやってほしいことがあります」
「それは?」
「災王と刑将を倒し、この地を統一することです」
そうきたか。
「ワタシは、ただの傭兵ですよ」
「フフフ。アオ様の恋人で、あのキョウ殿下とも深い関係があるあなたが、ただの傭兵? そんなはずはないでしょう」
「あなた、黙って聞いていれば……」
アオが目を細めた。
まずい。ついに怒ったか。
「なかなか見どころがある!」
そっちか!
「そうよ! よく考えたら、アビ、あなたがこの地を統一し、キョウと結婚すればいいんだわ。そうすれば、平和的に国の統一ができるじゃない!」
「そうか、その手がありましたか。それは、私も盲点でした」
ガリョウも目を見開く。
「いや、ちょっと。いくらなんでも、それは」
ワタシが慌てていると。
「そうか、それは思いつかなかったな」
後ろで、ビゼンとヨクトもうなずいている。
マジか、お前ら。
「それは保留で。とにかく、ガリョウ。じゃあ、あなたも刑将様につくということで、決まりね」
「いえ、それはちょっと、待ってください」
え、どういうことよ。
「アビ。実は私は、あなたに惚れていました! 私は、あなたの配下になりたいのです!」
「はい?」
「レジェンドを倒すまでは刑将殿に協力する、と言ったのは、そういうことです。あなたが私のところに来られたということで、あなたのこと、いろいろ調べさせていただきました」
「と、いうと?」
ワタシは不安になりつつ、答える。
「あなたがこっちの世界に来て、あのレジェンドを殴り飛ばした話。その後も、仲間を食べさせるために自分を犠牲にし、さらに、あのジョカとともに各地で困っている人を助け、王国に行った後も、そちらのビゼンさんを助けるために自ら刻印を受け、今は、キョウ殿下や仲間たちのため、私なら思い出したくもないこの地に、再び来られるなんて!」
「ま、まあ、成り行きで……」
「実は、もうあなたについていこうと決めていたのです。試すようなことを言って、申し訳ありません」
そう言って、ガリョウは頭を下げた。
「フフフ。やはり、あなたは見どころがあります!」
アオが、さっきの不機嫌さは嘘のように、笑みを浮かべて言った。
「そう。この子は、いつもそうなのよ。私との出会いも、自分を顧みず、殺されかけてまで私を助けようと」
「やはり、そうでしたか!」
「ああ、そうだ。俺たちの仲間も助けてくれたな」
ヨクトまで乗っかってきた。
「勘弁してよ」
ワタシはもう一度、ガリョウに向き合った。
「ワタシは、ろくな給料出せないよ」
「大丈夫です」
「その、言いにくいけど、ワタシの部隊というか、ワタシのところは、このアオがいたり、あのクロが現れたり、他にも、何というか」
「性に奔放、同性愛、隊員同士の夜這い、何でもありということですね! 大丈夫です!」
「いや、俺の部隊は禁止だからな、そういうの」
ヨクトが突っ込んだ。
そう。その結果、ヨクトの隊以外の風紀が乱れているというか、夜這いOKみたいなものが、暗黙の了解になっている。
その結果、子供ができて戦線離脱するなんてことも、ままあるのだ。
そうならないように、避妊の魔術も教えているんだが、失敗する人も多いらしい。
「あの、よかったら、これを隊員の皆さんに販売したいんですが」
そう言うと、ガリョウは小さな袋をワタシに手渡した。
「避妊具!?」
「何それ?」
アオも物珍しそうに見てくる。
「部隊の皆さんにも、必要かと思いまして」
真面目な顔をして言った。
「何で知ってんの、そんなこと?」
驚きながら聞いた。
「さっきの虫型小型偵察機で見てましたから。そこかしこで、やることやってますし。アビのところにしょっちゅう女兵士が出入りしていたのを——中に入るとバレる可能性があったので、中は見てませんが、だいたい察することはできます」
マジか。
思わず吹いた。
「マジか」
「私は思ったのです。アビ、あなたを見て。小銭を稼いで、残りの人生を引きこもって過ごそうなんて思っていたのが、如何に小さかったのかと。理論上は人を超え、寿命の壁をも超えることができると分かっていたのに、このまま朽ち果てようと思っていた自分を、恥じました」
そう言って、ガリョウは力説を始めた。
何だか、初めの印象とずいぶん変わってきたが……
「そう。私の夢は、アビ、あなたとキョウが結ばれ、その横に私も立つことなのです! 私はいつか研究してみせます。あちらの世界の科学と、こちらの世界の魔術を融合させて、同性同士でも子をなす方法を!」
(やばいやつだったあああ!)
「それでは、私の計画をお話ししたいと思います。天下三分の計を!」
(あ、これは、あかんやつを言い出すかもしれない)
ワタシはそう思ったが、アオ、ビゼン、ヨクトの三人は、すっかりガリョウの話を聞く態勢になっている。
この人も、クロと同じように常時、誘惑をかけているのではなかろうか。
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