第177話 ガリョウ
ワタシは、クロたちがいた部屋を出た。
そこは、ワタシのテントの中だった。
テントの中には、扉ゲートがあるだけ。
ここをくぐれば、ワタシの部屋にいくわけだ。
ワタシは、さらにテントの外に出る。
そこは、例のガリョウの屋敷の外だった。
かれこれ、ここで三日ほど待ちぼうけをしている。
まわりでは、ヨクトや兵士たちが手持ち無沙汰で、カードゲームなどに興じている。
「なあ、そろそろ帰らねえか?」
待ちくたびれたヨクトが、うんざりした調子で話しかけてきた。
まあ、言わんとすることはわかるのだが……
アオが刑将様を氷漬けにしたせいで、このまま手ぶらで帰るのもかえりづらい。
そのアオは何をしてるかと言えば、ビゼンと手合わせをしている。
まともに稽古をつけているようだ。
刑将様のときとは、えらい違いだ。
「まあ、ワタシの顔もたててよ」
「しゃあねえなあ」
ヨクトはそう言いながら、その場に寝っ転がり、昼寝を始めた。
さあ、こうなれば根競べだ。
◇
数時間後——。
ブウウウン。
遠くから、バイクのエンジン音が聞こえてくる。
……ってバイクの音!?
ワタシは耳を疑った。
「なんだ!」
その聞きなれない音に、ヨクトも飛び起きる。
それは、地平線からやってきた。
まちがいない、バイクだ。
すさまじいスピードでやってくる。
「念のため、攻撃しようか?」
アオが初手から物騒なことを言い出した。
「いえ、待ち人きたれり、じゃないかしら」
バイクはそのまま猛スピードで接近してきて、ブレーキ音をあげながら、ワタシの前で止まった。
その光景に、仲間たちがおもわず武器をとるのを、ワタシは制止した。
ヘッドフォンに赤いサングラスをかけた金髪の美女が、バイクから降りた。
「アビ・キョウカアキラさんですね。何度も足を運んでいただいて、もうしわけありません。私が臥龍光明。ここでは、ガリョウと呼ばれています」
ガリョウは、ホウスウと同じようにペコリと頭をさげた。
ワタシも続けて頭をさげる。
「そちらが、青竜アオ様ですね。お目にかかれまして光栄です」
「どうも」
アオが、少し驚いたように返事をした。
「このようなところにお待たせして、申し訳ありません。なにもありませんが、おあがりください」
そう言いながら、ガリョウはワタシ達を家の中に案内していった。
◇
なかにはいると、また驚かされた。
あっちの世界風のリビングに、テレビまでおいてある。
それだけじゃない。
DVDらしきものや、音楽プレーヤーらしきものまで。
ヨクトとビゼンが、めずらしそうに見ている。
「そういえばアオ、さっきあなた驚いていたけど、どうしたの?」
ワタシは、気になったことをきいた。
「私の霊力は、普通のひとは感じることもできないんだよ。でもあの人は、正確に私がわかった。つまり、私の霊力を感知できたということだね」
「なるほどね」
言われてみれば、そうだ。
アオの霊力を感知できたものは、ほとんどいない。
しかも、名乗ることなく、正確に正体まで。
ホウスウさんが、ガリョウは解析スキル持ちだと言っていたが、かなり精度が高いようだ。
「すいません。お待たせしまして」
ガリョウさんはそう言いながら、お茶を運んできた。
現代風、いや、あっちの世界風の、オレンジのフード付きパーカー。
奇妙なのは、ヘッドホンをして、色付きのサングラスをしていることだ。
もっとも、アオも目隠しをしているので、これと似たようなものか。
「あの、すいません。そのヘッドホンとサングラスは?」
ワタシは、念のため聞いてみた。
「あー、これは、念のためです」
「念のため?」
「この世には、光や音を触媒にスキルを発動してくるものがいるようですので。実際、光を触媒にしてくるものに会ったことはありませんが、音を触媒にして来る者はいました。目を見るだけで精神支配をしたり、声を聞かせたり、音をぶつけるだけで効果が出る能力とか。そういうものを防ぐものです。失礼かもしれませんが、害はないのでご容赦ください」
「なるほど、すごいですね」
たしかに、アオ達四神は、見ただけでスキルの効果が発動する。
いや、あれをスキルといっていいか。
さらにはクロにいたっては、常時、誘惑を発動してるらしい。
なぜかワタシには、効果が薄いようだけど。
「あなた、私が青竜だと一目見てわかったね。しかも、なんのスキルの発動も感じなかった。可能性はひとつだけある。あなた、この世界の魔力をつかってないの?」
アオが、興味深そうに聞く。
「まあ、それは企業秘密ということで」
はぐらかされた。
「ガリョウさん。率直に申し上げますが、ワタシがなんども足を運んだ理由について、よろしいでしょうか」
「刑将殿につけ、ということですね」
「はい」
ワタシは、率直に言った。
「刑将殿は、この国をどうしたいのですか?」
そういえば、聞いたことがなかったな。
「すくなくとも、戦乱のない国づくりにしたいと思っている、とは思いますが」
「フッ。なんとも他人事みたいないいかたですね」
正直なところ、ワタシは金で雇われているだけなもので。
「では、すくなくとも災王のところにいるレジェンド勇者とよばれるもの——チミというやつを倒す、またはとらえるまで、協力してもらえませんか」
「その前に、ワタシからもいいですか。アビさん」
「なんでしょう」
「あなたはこの国を、あるいはこの世界を、どうしたいのですか?」
「え? どういうことでしょう」
ワタシは、真意をはかりかねた。
「なるほど。あなたは、自分がいかに世界の命運を握る位置にいるかも、わかってらっしゃらないのですね」
まあ、たしかにワタシの周りには、なぜかアオやらクロやら究姫といったとんでもないやつらがいるわけだが。
ワタシ自身が彼らを利用してどうこう、というのは考えていなかった。
だが、そう言われると、世界の命運を握る立場にいると、言えなくもないのかもしれない。
「この人ですか?」
ワタシは、ちらりとアオのほうをみる。
「青竜アオ様、玄武竜クロ様、それに四凶のふたり、さらに央国の姫君と宰相にまで気に入られているようですね。アオ様、あなたなら、刑将でも災王でも難なく倒せるのでは?」
ガリョウは、アオのほうをみる。
こういう疑問に対する答えは、予想がつく。
「私は政治はできないからね。なんの解決にもならないよ」
こう言うとおもったよ。
「世界には、神や魔王が治める国がいくつかあります。代表的なものが、白虎竜様の治める西方の国、大白。さらに、極西の国、霊教国。悪魔王・四凶の禍雄主の治める国、まがつ国。東方の島国、邪馬都。央国も——あなたがたが、いや、直接でなくとも後ろ盾になれば、この旧魔王領も央国も、すぐにまとまりますよ」
「みんなが、それを望むならね」
アオは、それだけ言った。
しかし、アオは基本的に、人と距離は取ろうとしても、政治のことなどまるで考えていない。
先のクロとのやりとりでよくわかったが、クロのほうが、まだ政治のことを考えているように見える。
もっとも、クロは自由にやらせて、自分の気に入った人間に害が及ぶなら、自分である程度コントロールしたほうがまし、と考えている程度に見えるという話だが。
しかし、このガリョウというひとは、こういう話題を振ってくるということは——説得するチャンスは、あるかもしれない。
ワタシは、ガリョウを改めて観察した。
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