第176話 作戦
ワタシの部屋が、いつの間にか会議室、というか、クロたちのたまり場になっていた。
クロがソファーを持ち込んでいて、キョウがクロに半裸で乗っかっている。
反対側では、究姫と凍子がデュエル・ウィザーズをやって、カードを散らかしている。
「あの、あなた方。人の部屋で何をやっているのですか?」
思わず丁寧語で突っ込む。
「いや! これは浮気じゃないんだ! そう、クロ様が無理やり私に【誘惑】をかけたんだ! というか、会議の休憩中なんだ!」
キョウが飛び起きて、必死で言い訳をする。
「困ったことになった」
クロがつぶやいた。
「いや、私室を勝手に改造されて困ってるのは、ワタシなんだけど」
横を見ると、妲姫が究姫と凍子にコーヒーや茶菓子を出している。
「妲姫。あなたがいながら、この惨状?」
「いや、すまない。私では、究姫様に逆らうなど……」
そう言いながら、妲姫はこそこそとキョウの後ろに隠れる。
「で、困ったことって何?」
ワタシはクロの前のソファーに座る。
「魔導武術大会の参加希望者が、思ったより多い。うれしい悲鳴だね。その一方で、参加者が多すぎる」
「多いと何が悪いの?」
そう言うワタシの横に、キョウがすり寄ってくる。
「そこに死翼が紛れ込んだ場合、見つけられるか怪しい」
(この四人でも難しいのか)
「アンタたち全員でもなの?」
「いくつか、やりそうな可能性がある」
「一つ目。ものすごく魔力を落とした分身体を、百体以上紛れ込ませる。これを私一人で、人間たちを傷つけないまま全部捕らえるのは、まず無理だ」
「何で、あなた一人なの? ほかの三人は?」
「アオを含めて、残りの三人は信用していない。特にそこの二人は、下手したら邪魔をする」
そう言いながら、こちらの話を一切聞かずにデュエル・ウィザーズをしている究姫と凍子を、ちらりと見る。
(なるほど、おっしゃる通りだ)
(アオも乗り気じゃないし、こう見えて実際に真面目なのはクロだけか)
思わずため息が出た。
「二つ目。完全に気配を消して、人間や魔族に成りすます。私やアオなら、直接視界に収めるか、触れれば見抜けると思う。言い換えると、フードでもかぶられたり、視界から遠ざけられたりすると怪しい」
「あなたたちの魔力感知でも難しいと?」
「仮に見つけられたとしても、それが囮という可能性もある。本物だという確証がないからね」
「囮?」
「たとえば、こういうのだ」
そう言うと、目の前でクロが二人になる。
「どっちも本物の私だ。二人で3Pとか4Pもできるぞ」
そう言うと、元に戻った。
本当に、何でもありだな。
こいつは。
「それって、アオや究姫たちもできるの?」
「無理無理。私や究姫も分身はできるけど、クロみたいに、どっちも本物っていうのは無理だよ」
凍子が答えてくれた。
究姫は例によって、負けが込んでいるらしい。
苛立っているのが分かる。
「もっと簡単な方法なら、ほかにもある。無関係な人間に、自分の魔力の残滓を残すとか、そういう方法もあるだろう」
クロは無表情で言った。
しかし、真面目な顔をしていると、この人も恐ろしく美人だ。
【誘惑】など使わなくても、女性も男性も魅了されてしまう。
「三つ目。これが一番やばい。死翼のやつはやらないと思うが、ビエムとかいうやつはやりかねない」
そう言われて、ピンときた。
まさか。
「そうだ。小型の核爆弾でも持ち込まれて、起爆されたら、大変なことになる」
「そんなことはさせん! 入場者全員に手荷物検査を実施しよう」
キョウが険しい顔で言った。
「あとやばいのは、アイテムボックス的な魔力で作った空間に物を収納するタイプのスキルだな。それくらいは、そこの二人のどちらかに見てもらうさ」
クロはそう言って、二人を指さした。
「あなたとアオは?」
ワタシはクロに聞いた。
「私は全体を見る。アオには、キョウ、お前のボディーガードをしてもらう。最悪のことが起こっても、お前だけは助かる」
「いや、クロ様。私だけが、そういうわけには……」
「クロでいい。敵は死翼やビエムだけじゃないんだ。ショウのやつも、あるいはどこかの政敵も、お前を暗殺しようとするやつはいくらでもいる。私はお前を気に入っている。私はカイより、お前が王になるべきだと思っているんだぜ」
クロはニヤリと笑いながら言った。
キョウはこう言うが、アオがいてくれるなら、ワタシも安心だ。
「で、ワタシは何を?」
ワタシは彼女——いや、彼か。ややこしい—、クロに聞いた。
「お前はいなくていいよ。お前には、お前の仕事があるだろ。旧魔王領で、何とかってやつのところにいろ。ひょっとしたら、敵が襲ってくるかもしれないんだろ」
まあ、確かにそうだ。
もっともな話だ。
アオがワタシとキョウとデートするとか言っていたが、そっちの方がおかしいわけで。
ワタシも、今のスポンサーである刑将様への仕事をしないといけない。
「ところで、キョウ。提案があるんだが」
「私が王になるとかいう話なら、なしだぞ」
キョウは身構えながら言った。
「私の子供を産んでみないか?」
「「はああああ!?」」
ワタシとキョウは、二人で声を上げた。
「言っただろ? 私はお前が気に入ってると。お前が私の子供を産んで、その子を王にすればいい。それなら、誰も文句はないさ。安心しろ、神性はほぼ受け継がないから」
「ほぼって、何よ!」
「どのみち、お前たちでは子供はできないだろ。どこの馬の骨とも分からん男と結婚するなら、私の子を産んだ方がいいんじゃないか? 何なら、その子をお前とアビの子として育ててもいいぞ」
何を言ってるんだ、こいつは。
と思いつつ、キョウを見ると…こちらを見ながら、まんざらでもなさそうな顔をしている。
マジか、こいつら。
「い、いや。私は自分のことなど考えられぬ。まずはカイを迎えて、この国を立て直さないと」
キョウは頭を振りながら言った。
「そういえば、実際のところ、そのカイは王位についてどう思っているんだ? 聞いたことはあるのか?」
「ちゃんと話したことは……ない」
キョウが言葉を詰まらせる。
「何なら、私がお前をカイのもとに連れていこうか。あるいは逆に、カイを今すぐ連れてきてもいい」
「いや、それはやりすぎだと思う。異世界の兵器はともかく、人の世界の問題は、人の力で解決すべきだ。あなたたち神の責任にすべきじゃない。その罪の重さに比べれば、あなた方の力を借りることで得られる利益など、はるかに軽い」
「それでこそ、私が見込んだ女だ」
クロは笑って言った。
「ちょっと、勝手に自分の女みたいに言われても困るんだけど」
ワタシは思わず前に乗り出した。
「どっちに嫉妬してるのかな? 私か、彼女か?」
クロがからかうように言った。
ワタシは座り直した。
こいつ相手に感情をぶつけても、仕方ない。
「ごめんごめん、アビ。私は君も好きだよ」
「とにかく、人の部屋をあまり荒らさないでね。ワタシは仕事に戻るよ」
ワタシは再び、部屋を出ていった。
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