第175話 お叱り
ある日、ワタシは刑将様に呼ばれた。
ガリョウはいまだ連絡不通、ホウスウのスカウトもうまくいっていない。
まあ、お叱りを受けるのは仕方ないか。
そう思いながら、ワタシは刑将様の謁見の間に向かった。
謁見の間といっても、人の王や貴族と違って、魔族のしきたりでは堅苦しい儀礼はない。
なぜなら、基本的には力の差が分かりやすいからだ。
どちらが上か、下かなんてことを、儀礼でもってはっきりさせる必要がないのだ。
「アビよ! これはどういうことだ!?」
やはりスカウトのことか。
正直に詫びるしかないな。
そう思いながら、何やら渡された書面を見る。
(異世界グルメイベント)
(ああ、クロたちが言ってたやつか)
(国境を越えて、ここまでばらまいてるのか)
(まあ、死翼ってのがどこにいるか分からないから仕方ないな)
「えーっと、アオとクロがこんなことをやると言ってましたね」
「アオ様、クロ様、または青竜様、玄武竜様と言わんか!」
怒鳴られた。
今さらなんだが。
「いや、それよりもこれだ!」
書面のイベントの一つを見る。
「魔導武術トーナメント。優勝者には玄武竜様、青竜様、究姫様、凍子様のいずれかと戦う栄誉、さらには副賞として、究姫様から力を授かると」
(また究姫か。ろくなことにならないといいが)
「なぜ、こんなことをしていると報告しなかった。アオ様から聞いていただろう!」
刑将様が一歩踏み出しながら、大きな声で言う。
「グルメイベントのほうは聞いてましたが、魔導武術大会のほうは聞いていませんでした」
「本当か!?」
「本当よ」
アオが突然、転移してきた。
「アオ様!」
刑将様が二歩下がる。
相当、アオが怖いらしい。
「私も知らなかったんだよ。あいつら三人で勝手に決めたんだよ。グルメイベントはともかく、武術大会なんて面倒くさいことはごめんよ。どうせ、私たちが勝つんだし」
身も蓋もないことを言っている。
「でも、試合なら分からないんでしょ。その白虎竜ってのも、何とかという人に負けたそうじゃない」
「白虎竜様と呼べ!」
刑将様がまた文句を言った。
「あら、あなた。私たちとアビの間に入ってくるなんて、ずいぶん偉いのね」
アオが目を細めて、刑将様を見る。
そういえば、今日は目に布も巻いていない。
彼女がその気なら、刑将様はもう消えているかもしれない。
「いえ、滅相もない! しかし、アオ様はともかく、クロ様ともアビはどんな関係で……」
「それは、クロだけじゃなくて、アカともアビは身体を「わあああああ! わああああ!」
何を言い出すんだ、こいつは。
ワタシは真っ赤になって、アオの口をふさいだ。
「おお、なんと、うらやま……」
周りの魔族たちが、化け物を見るような目でワタシを見ている。
周りにシリュウやテルがいなくてよかった。
何を言われるか分からない。
「それで、この魔導武術大会がどうしたんですか?」
ワタシは話をそらそうと、いや、話を元に戻した。
「こんな大会があるなら、わしも、いや、我らの部隊も出場するぞ!」
(え? 何を言い出すんだ、このおっさんは?)
「いやいやいや、刑将様は無理ですよね。災王がいつ来るか分からないのに」
「うむ、その心配は一理ある。だが、武を極めようとする者にとって、四凶様、四神様と試合できる機会など、数千年に一度あるか分からん」
(まあ、確かに、アオと戦おうとするやつはことごとく殺されてるしな。試合形式で戦う機会など、ないかもしれない)
「そこで、わしは少数精鋭で王都に向かう。ゆえに、アビよ。お前は留守を預かってくれるか」
(え!? こっそり元の世界の食べ物を、アオと一緒に食べに行こうと思っていたのだが)
「駄目よ」
アオが横から口を出した。
「その日は私が、アビとキョウと一緒にグルメイベントのデートをするんだから。お前がここで留守番すればいいでしょ」
「いや、しかし……」
思わぬ横やりに、刑将様は言葉に詰まる。
「どうしても私たちと戦いたいのなら、武術大会などいらないでしょ。今ここで相手をしてあげるわ。さあ、かかっていらっしゃい。合図は任せるわ」
アオは手のひらを上に向けて、刑将様にかかってこいと挑発する。
刑将様が立ち上がった。
「アオ様といえど、なめてもらっては困る! ここまでなめられては、家臣たちの手前、引くわけにはいかんわ!」
大地が鳴り響き、建物が揺れる。
(これが刑将様の力か)
魔力が刑将様に集まるのが分かる。
家臣の魔族たちが震え上がり、距離を取る。
「いくぞ! 青竜!」
それが合図となった。
刑将様は一瞬で、氷の彫像になった。
「あの、アオ。死んではいないわよね……。刑将様はワタシのクライアントなんだけど」
「試合なんでしょ。死んでないわよ。でも、この人もこのまま、しばらく反省してもらいましょう」
旧魔王領をめぐる覇者でも、なるほど、試合にすらならなかった。
これが四神というやつらしい。
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