第173話 死翼捕獲作戦
ショウは、自軍の訓練の様子を巡回していた。
おそらくは近いうちに、アマンとの決戦がある。
そんな予感があった。
クロとカクトの決闘の中で、究姫により、だまされていたとはいえ、自分が革命軍の首謀者ビエムを配下に迎え、さらにそのビエムが異世界の兵器をつかい、属州の民を虐殺したことが公になってしまった。
現状、ビエムの行方は全力で追っていたが、その行方は全くつかめなかった。
(それに、行方をつかめたとしても、四凶に囲われているとすれば、自分にできることはクロ様に知らせるくらいしかないが。)
ショウは自分の無力を恨んだ。
今、ショウのつわものたちが目の前で腕を磨いている。
(しかし、無力なのだ!)
ショウは奥歯をかみしめ、拳を握りしめた。
(私にもっと力があれば。)
そうおもったとき。
急に目の前が暗くなる。
その場にしゃがみ込む。
「閣下!」
まわりの配下たちが慌てて駆け寄る。
「いや、大丈夫だ。すこしめまいが……しただけだ。」
そうはいいながらも、ショウの視界はまだ黒かった。
「医者を、医者を!」
配下たちの慌てる声が遠くに聞こえた。
◇
「うん、なかなかおいしいじゃないか。このスキヤキなるものは!」
上機嫌でクロがスキヤキをつついている。
ことがおこったのは今日の昼前、刑将様のもとでガリョウの帰りをまつワタシのもとに、唐突にクロが現れた。
そして、何をしに来たかとおもったら、こんなことを言い出した。
「異世界のおいしいものが食べたい!」
「はあ……、なんでまた?」
生返事をするワタシにクロはいった。
「例の死翼をおびき出すためだよ。なんでこんな簡単なことがおもいつかなかったんだ!」
なにをいってるか意味がわからなかったが、比較的簡単に作れるスキヤキをふるまった。
さすがに高級牛肉は手に入らないが、ジェントル・カウを狩ってきて、十分に下ごしらえをした。
そんなわけで、クロにスキヤキをごちそうした。
キョウも呼んでくれと言われたので、彼女も呼んだ。
「おお! 生卵と肉がこんなにあうとは!!」
キョウもスキヤキの魅力をわかってくれたようだ。
この世界には冒険者の基礎スキルに殺菌スキルというのがある。
生卵はわりと生で食べることもある。
旅や冒険の貴重なたんぱく源だ。
なお、うちの傭兵団では鶏をわざわざ飼っていて、生活班が面倒をみている。
餌にもこだわっていて、ここぞというときに使うわけだが……
「いやあ、ほんとにおいしいね!」
「あんたと友達でいてよかったよ。」
究姫と凍子まで、満足そうに肉を頬張っている。
なぜか、クロは究姫と凍子まで連れてやってきたのだ。
「そう、よかったわね。じゃあ、それたべたら早く帰りなさいよ。」
アオが不機嫌そうにいった。
そういえば、初めて会った時もクロはこのふたりといたな。
クロはこの二人を気に入ってるのかもしれない。
「まあ、アオ子、そう言うな。凍子、お前どの肉がたべたい? いれてやるよ。」
「じゃあ、その赤身のやつ。」
「ああ、わかったよ。」
そういって、クロは凍子のために肉をいれてやっている。
「キョウ王女、頼みがある。」
クロは鍋奉行をしながら、いった。
「私にできることなら。」
何をいわれるかと、キョウが警戒の目つきで聞いた。
「死翼っていうやつが、ビエムと言うやつと核兵器をもってるはなしだ。」
「ええ。どこにいるかわからないんですよね。」
「そうだ。しかし、そいつをおびき出すいいアイデアを思い付いた。」
「それは?」
キョウが不安そうにきく。
ワタシも不安になる。
なにを言い出すのだろうか。
「その答えがこれだ!」
クロはそういって、スキヤキを指さす。
「スキヤキ?」
ワタシは意味がわからず思わずつぶやいた。
「正確には異世界の料理だよ!」
「は?」
意味が分からな……いや、まさか。
「そう! 異世界のグルメイベントをひらいてほしいんだ、そうすれば奴は必ず来るはずだ!」
(かあああああ! アホかこいつは!?)
……と言おうとしたら、
「その手があったわね!」
アオものった。
「お前、悪魔か! おそろしいことを考えたな。絶対にかかるぞ!」
究姫がそんなことを言っている。
(なにを言ってるんだこの人たちは。)
「アビ、その顔をみると、なにを言ってるんだこいつらは、という感じだな。」
クロが自信満々でいってくる。
「……ええ、正直、そうおもってるけど。そんなもんにくるわけがないとおもってるけど。」
「フフフ、人間の小さな視野ではそうだろう。しかし、あいつの異世界への知識への貪欲さをあまくみるな。核兵器なんてしょうもないものであれなんだから、グルメならなおさらだ。間違いなくくる。そこを一網打尽にするのだ。そして、究姫や凍子にも協力してもらい、悪魔や魔族もあつめる。やつはうらやましくて来ることは間違いないぞ。」
たしかに、人間の視野ではそんなアホな罠にはかからないが。
「まあ、そのくらいのイベントなら私の権限だけでなんとかなると思うが、一応、アマンにも言っておいた方がいいだろうな。」
半信半疑の表情をして、キョウが肉をつまみながら言った。
(まじか……)
「きまりだね。じゃあ異世界グルメイベント、頼んだぞ。」
こうして、死翼の捕獲作戦がはじまった。
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