第172話 魔王の影
アマンは、ショウの返書と宣言をみて驚いた。
ショウは、キ州の虐殺が自らの陣営に潜り込んでいた革命軍の残党によるものであったこと、その地の再生が四神——玄武竜と青竜の奇跡だったことを認め、遺族に多額の慰謝料をはらうことを宣言したのだ。
諜報部によれば、北の勇者カクトと玄武竜クロが決闘をし、その中で究姫により暴露されたというのだ。
(なによりもメンツを重要視するショウのやつが、こうもあっさり認めるとはな)
(究姫と玄武竜。あの二人を前にしては、どうしようもないか)
(だが、私のすることはかわらないがね)
アマンはショウに、キ州の惨劇の責任をとり、王の身柄を渡すように要求した。
◇
カクトは、アシュナの墓の前で、半刻以上沈黙してうなだれている。
それを少し離れたところで、クロ、究姫、シュカ、リリが見ていた。
「ところで究姫、死翼の行方は知らないんだな」
クロが究姫を睨んで問い詰める。
「本当に知らないよ」
「もし連絡先がわかったら、必ず言えよ。もし黙っていたら、いくらお前でも消すからな」
そう言って、クロは指先に闇をつくる。
触れた瞬間に、すべてを飲み込む闇だ。
四凶でも、触れた瞬間に消え去る。
「物騒なものをしまってくれよ。私も、そこまであいつに義理はないから」
究姫は一歩下がる。
「お前、本気で死翼のやつを消すつもりか?」
「ああ。やつは迷惑すぎる。しかも、こりない。あいつより迷惑なやつがまた生まれる可能性もあるが、そのときはまた消してやる」
クロは冷たく言った。
「究姫、こう見えて、お前は気に入っているんだ。お前は消したくはない」
クロはそう言いながら、究姫を抱き寄せる。
「私は、こういう趣味はないんだよ。お前のこの体を、まずはなんとかしろ」
究姫はそう言いながら、クロの胸をつつく。
「まあ、あと二百年はこの姿でいるというのが、アオとの約束だし。今となっては、割と気に入ってるよ。フフフフ」
クロはいたずらっぽくわらう。
「なあ、クロ様。私は、あいつのそばにいてやっていいか。どうせ、もうすぐ死ぬだろうし」
シュカがクロに言った。
「そうね。もう精気を吸える気はしないけど、最期くらいは見てやるか」
リリも続く。
「そうか。まあ、好きにすればいいさ。また、あいつが死んだら、私のもとにもどってきなよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「またね」
二人はそう言うと、カクトのほうに歩いていった。
◇
ハオが治める地よりはるか南方、魔族の勢力圏。
南方の魔王と呼ばれる存在がいた。その名を、姒鯀といった。
いや、厳密には魔王ではなかった。
だが、その姒鯀が跪いていた。
王たる存在が。
その全身は青白く、明らかに悪魔の血をひくものだった。
だが、始祖ではない。
始祖とは、受肉した一代目の悪魔である。
跪いていた相手は、真なる魔王——饕餮王死翼である。
死翼は姒鯀を無視し、魔力で封印された黒い卵型の魔道具を眺めていた。
「すばらしい。これが異世界の兵器か」
死翼はうっとりと見つめた。
「ええ、これが核兵器です。前回のものよりも小型化できました」
ビエムがつげた。
姒鯀は、そのやりとりを忌々し気に見つめていた。
死翼に跪くのはわかる。
しかし、なぜ自分が、人間の——それも四霊の神使などに跪かねばならないのだと。
とはいえ、異世界の兵器には興味をそそられた。
大した魔力は感じない。
しかし、これ一つで、都市ひとつが吹き飛ぶという。
(ぜひとも、その威力を見てみたい)
姒鯀は跪いたまま、死翼に願い出た。
「死翼様。ぜひ、私も近くで見てよろしいでしょうか」
「おお、君にも良さがわかるか。見どころがある。近くで見て、ふれてみるがいい」
死翼の許可をえた姒鯀は、立ち上がり、それにふれた。
そして、核爆弾に対し、解析スキルを発動した。
(これはすばらしい……!?)
(単純な魔力操作で起動できる!)
(これを量産すれば、中央にいる四神どもとも、やりあえるかもしれない)
「おっと、これまで!」
死翼がそう言うと、核爆弾は無害な金属の粒に分解された。
「死翼様!? これは!?」
姒鯀とビエムが、死翼の真意をはかりかねる。
「たしかに、これはすばらしい技術だ。だが、あってはならないものだ。知識として得たことは、すばらしい。しかし、存在してはいけないものだ」
「ですが!?」
姒鯀が死翼に異をとなえた。
「おっと、やめとけ。こんなものが、あのクロにでも見つかったら、私もお前も消されるぞ」
死翼は、ビエムが用意した別の異世界の資料に目をやる。
「おそれながら——あの兵器が、いや、あれ以上のものがあれば、四神にすら対抗できるのでは? いや、これを人間どもや下級魔族に売りさばいてもいい」
姒鯀は、死翼の背中に声をかけた。
「いいか、小僧。よくきけ」
死翼は振り返って、姒鯀に向かって静かに言った。
「そんなことをすれば、私が、あのクロに殺されるんだ」
「おそれながら、四凶様と四神様は、同等では?」
「世間ではそういわれているがな。究姫と凍子は別だが、私も禍雄主も、初代ではないのだ。私はおそろしいのだ。不滅のはずの我々を、消滅させるやつだぞ」
(なるほど、四凶様も不滅ではないということか。クククク。これはいいことを聞いた)
姒鯀は、納得するフリをした。
「わかりました。差し出がましいことを申しました」
「うむ、わかればいい」
死翼はそう言うと、再び研究にもどった。
だが、死翼は若き魔王の解析能力をあなどっていた。
姒鯀は、ほくそ笑んだ。
(解析はおわった。あとは、別の場所で再現するだけよ)
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