第169話 腕試し
「わ、わかりました。青竜様のすごさは」
ホウスウが立ち上がり、肩で息をしながら言う。
まわりの見物人たちが、二人の戦いを見て笑っている。
「ホウスウさん、ちょっと待ってくださいね」
「……?」
彼は不思議そうにするが、ワタシは周りに宣言した。
「今、笑った人たち。前に出なさい。この勇者を侮辱する人は許しません。このアオと戦って一本取った人には、この金貨一袋あげるわ! 参加料は銀貨一枚よ。なお、何人でかかってもかまわないわ!」
ざわ。
ワタシの宣言にまわりがざわつく。
「おれはやるぞ!」
「オレもだ!」
周りから声があがった。
ばかめ。
◇
数分後、偉いことになった。
恍惚オナった、もとい、恍惚となった戦士たちが倒れている。
共通しているのは、男も女も、なにやら股間にじんわりとシミができていることだ。
笑い転げながら公開絶頂をきめられた者たちが、山のように横たわっていた。
なんともアレな香りが充満する。
なかには明らかに失禁している連中もいる。
「あんたたち、ちゃんと掃除しときなさいよ。ホウスウさん、場所を変えましょう」
「え、ええ……」
私たちは少し場所を変えて、仕切り直すことになった。
◇
「いや、青竜様はずるいでしょ!」
ホウスウが異議申し立てをした。
(まあ、気持ちはわかる)
「まさか、何もできないなんて思いませんでしたよ。こんな体験は初めてだ」
「彼のスキルは【魔力特効】ね」
アオが言った。
「つまり魔族とか、悪魔系の精神体を持っている者にはめっぽう強いのよ」
「なるほど。この魔族領土では強いわけだ」
「それだけじゃないわ。ヨクトの【豪傑覇気】のような魔力由来の防御やシールドも切り裂くわね。ただし、剣を持っている場合に限るみたいだけど。あとそれと……」
アオが彼の秘密をペラペラと話す。
「そ、そこまでわかるか。まるでガリョウだな」
「ん? なるほど、ガリョウ先生は解析型のスキルをお持ちなんですか? それもすごいのを」
ポロっと漏らしたホウスウに突っ込む。
「いや、今のはなしで。僕にも守秘義務があるので」
「なるほど。じゃあ、納得がいかないというのであれば、次はワタシが戦いましょう」
ワタシはそう言って、試合用の剣をとる。
ホウスウもふたたび試合用の剣をにぎった。
さて、【魔力特効】と言っていたな。
だったら、ワタシとは相性が悪いはずだけど。
ワタシは【限界突破】のスキルを発動した。
手足がのび、視線があがる。
ざわ。
ワタシの変化にまわりがざわつく。
「いいんですか? 最初からというか、こんな大勢の前で自分の手の内を明かして」
ホウスウがワタシに言った。
「これはバレても困らないのでね」
「なるほど。正々堂々……ですね」
「じゃあ、ビゼン、あなたが審判を」
「わかった。だが、どちらかが危なくなったら止めに入るからな」
「ええ。おねがい」
ワタシは電流を身体に帯びさせる。
「すごい。でも……いや、なんでもないです」
「なに? 言いかけたんでしょう?」
ワタシは剣を構えながら言う。
「いや、失礼なことなんで」
「言いかけて黙るのも十分失礼よ」
「それ、身体に電気をまとわせているんでしょう?」
「驚いた。あなたもすごいんですね。そこまでわかるんですか」
正直驚いた。目視では見えないはずだ。
正確にワタシの魔力を解析できたということだ。
「しかし、人はイメージできないものや恐怖をスキルにできない。つまり、あなたは電流にうたれ、その恐怖を克服したということだ」
「すごいな。そこまでわかるんですね」
「別にスキルじゃないですよ。僕も魔勇者プロジェクトの生き残りですからね。あそこでは、逆らうと電撃が飛んできた。でも、それを学習しようとは思わなかった」
(なるほど。彼に言われて今、気がついた。ワタシのスキルの本質は、学習して──ラーニングすることだったのか。言われてみればそうだ。この電流も、【限界突破】をリョーコさんから継承してコントロールできるようになったけど、それ以前に学習していた。【限界突破】自身もそうだった)
「で、それで? なにを言いよどんだんです?」
「おこらないでくださいよ」
「おこらないですよ」
「あなたは、強さを求めるはずなのに、なぜ、そんなに美しいのか」
「は?」
意味がわからなかった。
しかし、言われてみればそうなのだ。
強くなるなら、筋肉ムキムキになるべきだが、そうはならない。
むしろモデル体型になる。
体型だけみるとまったく戦闘向きではないが、それを魔力で補っているのだ。
しかし、どうも調子が狂うな、この人は。
ワタシはスキルを解除した。
「やめるわ。ヨクト、あんたに任せる。どうも調子がでない」
ワタシはホウスウに背中を向ける。
「なんだ? 美しい、とか言われて、照れちまったか?」
ヨクトが余計なことを言った。
「いいから、アンタが行って」
ワタシはそれだけ言った。
「はいはい。しかし、怪我してもしらねえぞ」
そう言って、ヨクトは棒を持ち、ホウスウに向かう。
「あら、やる気を削がれちゃった?」
アオがからかうように言う。
「どうもやりにくいわ」
(悪い人じゃないけどね)
「彼と結婚したらどう?」
「何いってんのよ」
「いえいえ、大真面目よ。あなたを普通の女性として扱ってくれる、最初で最後の男性かもしれないわよ」
(まあ、それはそうかもしれないが)
そう思いながら、ヨクトとホウスウの戦いに眼をやった。
◇
驚いたな。
ホウスウは普通に強かった。
ヨクトと互角に戦っている。
ヨクトの棒術を、剣で華麗に捌いている。
【未来予知】──数秒後の未来を予知できる。
ワタシのスキル【翻訳者】が、彼のスキルを解析した。
なるほど、強力なスキルだ。
そして、ワタシに解析されるということは、ワタシと彼の間に、とんでもない実力差があるわけではないということだ。
未来予知できたところで、それに対処できる身体がないと意味はない。
彼はスキルに頼らず、使いこなしている。
「たあ!」
ヨクトの棒がホウスウの剣を弾いた。
「おお!」
両者に拍手が上がる。
「いやあ、参りました」
ホウスウが素直にヨクトを称賛する。
「いや、あんたが本気じゃなかったからさ」
二人が握手をする。
(いやあ、さわやかだねえ)
そんなことを思っていると、邪魔が入った。
「おい、随分と楽しそうじゃあないか。格下ども」
リザードマンの軍団が現れた。
「うまそうな女どもがいるじゃねえか!」
「私が美味しそうに見えるとは、なかなか見どころがある」
アオが意味不明なことを言っている。
「まてまてトカゲども、それはオレたちのえものだ。オレたちがヤッてから好きにしな」
ゴブリンの群れも集まってきた。
「私たちが魅力的に見えるところだけは、見どころがある」
またアオが意味不明なことを言っている。
刑将様の名前を出せば下がるだろう。
そう思っていたら……
「待て、お前ら! おとなしく下がるなら、なにもしない!」
私たちの前に、ホウスウが立った。
平和的にいきたかったが、そうもいかないらしい
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