第168話 2回目の訪問
ワタシたちは再びガリョウの屋敷に向かった。
今度はビゼンとヨクトだけではない。
アオにもついてきてもらっている。
彼女ならば、ガリョウが居留守を使っていても気づくはずだ。
もっとも、ガリョウが神使でもなければの話だが。
「へえ、これが異世界の技術ね」
さすがのアオもインターフォンが物珍しいらしく、顔を近づけてしげしげと眺めている。
「押してもいいかしら?」
「もちろん」
ピンポーン。
例の音が鳴った。
『はい』
女性の声。
この人がガリョウか?
「すみません。ワタクシ、以前お伺いしました刑将の使い、アビと申しますが、ガリョウ先生はいらっしゃいますでしょうか」
『アビ様ですね。少々お待ちください』
「すごいわね、これ。私ですら魔力を感じないわ」
アオが感心したように言う。
「まあ、スキルでも魔法でもないからね」
「じゃあ、どういう仕組みなの?」
「いや、ワタシも詳しい仕組みは知らないけど……」
そう言っている間に、一人の少女が現れた。
ショートカットの、十代の少女という感じだ。
しかし、外見ではわからない。
ジョカエルも外見は十代の少女だし、このアオに至ってはもはや年齢不詳だ。
「はじめまして。アビと申します。ガリョウ先生でいらっしゃいますか?」
「いえ、私は手伝いの者でして。先生は外出しておられます。申し訳ございません」
少女は申し訳なさそうにお辞儀をする。
ワタシはちらりとアオを見た。
(ほんとに留守? この子がガリョウっぽくない?)
目で合図を送る。
「ほんとに留守みたいね。この子以外、誰もいないわ。この子も嘘は言ってないよ。」
アオが小声で答えてくれた。
「まじか。また無駄足か」
後ろでヨクトがぼやいた。
「先生はどれくらいで戻られますか?」
「それが、昨日出られたばかりで。いつ戻られるか……」
少女は困ったように眉を下げた。
「ひとつお伺いしたいんですが」
「なんでしょうか」
「ガリョウ先生とは、どういう方なんでしょう?」
「うーん」
少女は少し考えて言った。
「ものすごく賢いような、でも生活力はないような」
「このインターフォンも先生が?」
ワタシはインターフォンを指さす。
「ええ。異世界の技術らしいですね」
「これ、何で動いてるんですか?」
「あれらしいですよ」
少女が屋敷の屋根を指さした。
「あれとは?」
この角度からは何も見えない。
「よくわからないんですけど、おひさまの光を集めて電気を作っているらしいです」
「まじか」
(太陽光発電をしているのか)
「あれも、お金持ちに売れるらしいですよ」
(それはそうだと思う)
「とにかく、留守なら仕方ない。また来ます」
「すみません」
ワタシたちはガリョウ宅を後にした。
そして次は、ホウスウの説得に向かった。
◇
冒険者ギルド修練場——
冒険者たちが腕を磨く修練の場であり、見知らぬ者同士が試合をすることもできる。
ここでは練習用の武器を使うこと、相手を殺さないことが暗黙のルールになっている。
死んでも自己責任である一方、殺した側は出入り禁止になるため、わざと殺しをする者はいない。
ワタシはそこにホウスウを呼んだ。
彼はあっさり来てくれた。
ワタシたちは約束の二時間前に着いたが、彼はすでに現地入りしており、準備運動を終えて座禅を組んでいた。
(なるほど。こいつ、とてつもなく強いな)
ホウスウの身体からは魔力が安定してみなぎり、周りのつわものたちを寄せ付けない迫力があった。
あのロフ並みかもしれない。
「わざわざご足労ありがとうございます、ホウスウさん」
ワタシは近づき、頭を下げた。
「いえ、なんどでも結構ですよ。今日は僕の力を試したいとおっしゃるのでしょう」
彼はそう言って立ち上がる。
「まあ、半分はそうです」
「半分は?」
「今日は、ホウスウさんに知ってもらおうと思いまして。世の中には、どうしようもない理不尽な力があるのだと」
「なるほど、大きく出ましたね。それで、戦うのはアビさん、あなたですか? それとも後ろの彼か、ダークエルフの彼女か」
ホウスウはヨクトとビゼンを見る。
ワタシが否定するより早く、彼は続けた。
「それとも——そちらの、とてつもない魔力をお持ちの女性ですか?」
ホウスウはアオを見た。
(こいつ、すごいな)
ワタシは素直に感心した。
かなりの解析スキルの持ち主でも、アオの実力は見抜けない。
どう見ても普通の女性に見えるのだ。
それを初見で射抜くとは、やはりこの男、並ではない。
しかも今日のアオは普段着だ。
武装したビゼンとヨクトの後ろで、どう見ても「戦いに来ました」という格好ではない。
「え? 私が?」
アオは意外そうな顔をする。
「ええ。でも、傷つけないでね。殺すのはもちろん、けがをさせるのも、氷漬けにするのもだめよ。あなたならできるでしょ」
「ははは。僕も相当強いですよ」
ホウスウは苦笑いした。
「このアオはこう見えても世界最強の一人、四神の青竜です。あなたには、この世界の現実を知ってもらおうと思いまして」
「この人が、話に聞く四神……? たしかに普通ではないと感じましたが、見た目はどう見ても、普通の女性にしか……!」
ホウスウは信じられないという目をする。
「まあ、試合をすればわかりますよ。アオ、くれぐれも、なるべく傷つけないでね」
「はいはい」
アオはそう言うと、離れたところに立った。
事情を知らない見物人たちが、物珍しそうに見ている。
何の魔力も感じない絶世の美女が、緊張感なく立っている。
どう見ても、今から戦うようには見えない。
一方のホウスウはアオをただならぬものと見抜き、試合用の剣を手に向かい合おうとする。
「待って」
アオが声をかけた。
「なにか?」
「それでいいの? どちらでもいいけど、その試合用の剣でいいの? そっちの、あなたが持ってきた真剣のほうが、ほんのわずかでも勝てる可能性は、なくても、実力の差は正確にわかると思うけど。少しでも傷つけたらキミの勝ちでいいよ」
「そこまで言うなら、胸をお借りしますよ」
ホウスウは真剣に持ち替えた。
なめる気はないらしい。
「では、双方、準備はいいですね」
二人がうなずく。
「はじめ!」
ワタシは手を上げ、下がった。
ホウスウの魔力が安定して上昇していく。
試合でいきなり手の内を見せるのだろうか。
そう思った瞬間。
ホウスウの魔力がゆらぎ、その場に崩れ落ちそうになった。
「はああああ!」
ホウスウは怒声をあげ、踏みとどまる。
ざわ。
周りには何が起こっているのかわからない。
しかし見物人も馬鹿ではない。
アオが何かスキルを使ったのだろう、程度のことは察したようだ。
「へえ? すごいわね。私の【催眠】にこらえるなんて」
アオが嬉しそうに言った。
「いくぞおおおお!」
ホウスウが吠え、アオに上段から斬りかかる。
手加減はいらない相手と見たようだ。
しかし——
ホウスウは、剣を振り上げたままピタリと止まった。
「すごいわね、あなた。普通の防御結界なら防げないよ、これ。ヨクト君の【豪傑覇気】でも斬り裂かれるよ」
そう言いながら、アオはヨクトのほうを見る。
「まじか……とはいえ、アオ様には無意味なようだが・・・」
ヨクトがぼそりとつぶやいた。
「まだまだ!」
ホウスウは魔力を込めて動こうとするが、ピクリともしない。
スキルは、何らかの条件と媒介を満たしたときに発動する。
自分を対象にする強化系は発動しやすく、敵を対象にする場合は難しい。
当然、相手も抵抗するからだ。
だから精神攻撃はもっとも難易度が高い。
直接触れるか、脳や心臓に直接叩き込まないと効果が薄い。
しかしアオやクロの場合、「見ただけ」で、光を媒介に発動するらしい。
光は本来ごく弱い波動で、人間なら何の効果も出せない。
だが彼らの場合、スカーレットは見るだけで対象を炎に包み、アオはすべてを停止させる。
なんなら自分の魔力をあてるだけも効果がでるものがあるので、見る必要すらないらしい。
つまり魔力感知で存在を認識した時点で、射程にはいるということだ。
おまけに得手不得手はあれど、一部の例外を除き、だいたいみんな同じことができるらしい。
理不尽にもほどがある。
そして、アオが指を鳴らすと——
ホウスウの身体を覆っていた鎧が、粉々に消え去った。
なるほど、衣服を破壊しなかったということは、アオも彼を辱めるつもりはないようだ。
……と思ったが。
「あなたのすべては解析しました」
アオはそう言うと、彼の脇腹や足の裏をくすぐりはじめた。
「うははははは、ちょっとそれは卑怯! やめて、やめて!」
「さあ、どうする? 負けを認める? でないとあなたの脳内に快楽波動を叩き込んで、公開射精させるわよ」
アオは楽しそうにホウスウをくすぐる。
ジョイエルをおもちゃにしていたクロと重なった。
やはり四神は四神だ。
「うはははは、負けです! 僕の負けです!」
ホウスウは、膝から崩れ落ちた。
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