第165話 ホウスウ/クロとシン
会議室の一番奥にワタシが座る。
後ろにはヨクトとビゼンがにらみを利かせている。
ホウスウは一番入り口近くに座った。
なるほど、油断ならない。いつでも逃げられる位置だ。
——いや待て、単にワタシを上座に座らせただけでは?という疑問が生じたが、そんな馬鹿げた考えは振り払った。
「ホウスウさん。私たちの用件はわかっていますか?」
ワタシは単刀直入に聞いた。
「わかっています。刑将の配下に入れということですよね。それについては、お断りしています」
ホウスウはきっぱりと言った。
「なぜですか?」
「なぜって——アビさんこそ、なぜ魔族に手を貸すのですか?いえ、魔族との共存が可能なことは否定しません。しかし、彼らのやっていることは結局、弱いものから搾取しているだけじゃないですか」
(ああ、なるほど。こういう人か)
ワタシは察した。
(あのジョカもこういうところがあった)
「では、あなたが刑将様も災王も倒すと。そういうことですか?」
「そうです。と言いたいところですが、それでは何も解決しないこともわかっています。この町は刑将によって守られている。災王の縄張りは災王が守っている。その二人を倒せば、また混乱が戻る。それはわかっているので答えが出ません。でも——この世界の人間ではないアビさん、あなたならわかってくれませんか!?」
ホウスウは熱を込めて言った。
「それはわかります。しかし、それをするにはあなたが彼らを倒すしかないのでは?刑将様に雇われているワタシが言うのもなんですが」
「そうですね。ガリョウにも同じことを言われましたよ。しかし、僕が彼らを倒したらもっとひどいことになるでしょう。刑将の縄張りはまだマシです。災王のテリトリーはもっとひどい」
「では、刑将様に力を貸せばどうですか。ワタシがこういうのもなんですが、そのあと刑将様を倒してもいい。」
「それは修羅の道ですね」
ホウスウはため息をつくように言った。
「ですね。あるいはワタシのように傭兵や冒険者になるのはどうですか?特定の誰かにつくのではなく」
「答えは出ません。しかし——アビさん、あなたの話は聞いてみたかった。あなたはここに召喚され、この国を出た。聞いたところによると人類圏では数々の活躍をしたとか。あなたは何のために戦っているのですか?」
「最初は食べるため、生きるためでしたよ。ワタシはもともと弱かったですから。でも今は、ここにいる二人や仲間たちを食べさせないといけないですからね。一応、傭兵団のリーダーなもんで」
「そのためには、殺しにも抵抗はないですか?」
「ありますよ。でも、あえて言いますが——そこに抵抗が持てるのは、ホウスウさん、あなたが強いからでは?」
「僕が強い?」
ホウスウは驚いたような顔をした。
「聞きました。あなたはガリョウさんと二人で、自分たちを召喚した連中を全員倒したとか。私たちは何人かの犠牲も出ましたよ。それに私たちは四凶、四神といったとんでもない連中とも関わっています。彼らは全員とは言いませんが——私たちなど、自分たちが殺さないから生きているくらいの認識ですよ。そんな連中を前にして、ワタシたちがいた世界の物語を語って、どれほどの意味がありますか?」
ホウスウは黙り込んだ。
なるほど、刑将様やシリュウの言うことはこういうことか。
「とにかく、今日は問答に来たわけではありません。私たちはあなたのお力をぜひお借りしたい。よいお返事をお待ちしています」
ワタシはそう言うと席を立った。
◇
店を出た後。
「いいやつではあるんだろうな」
ヨクトがつぶやいた。
「そうね」
「仲間になると思うか」
ビゼンが聞いた。
「覚悟を見せないといけないでしょうね」
「覚悟?」
「ええ。あの人に足りないのは覚悟だけよ。一旦時間を置いて、もう一度話をするわ。ワタシもプロとして、説得できませんでした、無理でした、というわけにはいかないからね。あの人が動いたらガリョウも動くかもしれないし」
今日のところは、とりあえず戻ることにした。
◇
クロはショウの城の中を散策するのが日課になっていた。
特にあてがあるわけでもない。
しかし悠久の時を生きるクロにとっては、人の世界を歩き回るのも退屈しのぎの一つとして十分に成立していた。
本来であれば、ショウのプライベート空間を歩くことなど誰にも許されるはずがなかった。
だが、誰もクロに注意できなかった。
もっとも、クロもさすがにショウの断りなく愛妾たちに手を出す気はなかった。
男装の麗人という出で立ちで歩くクロの美しさに、行き交う婦人たちはみな心を奪われた。
廊下で、ショウの愛妾の一人がクロと目が合った。
「君は、シンか?」
「はい。覚えていてくださったのですね、クロ様」
女性がクロに深々とお辞儀をした。
「懐かしいね。いや——きれいになって。こんなところで会うとは」
「ショウ様に見初めていただきまして」
「そうか。幸せそうにやってるなら結構だよ」
クロは少し目を細めてシンを見た。
「ショウに冷たくされているなら、いつでも言いな。こらしめてやるから」
「いえ、とてもよくしてくれています」
「そうか、ならいい。またな」
「ええ」
クロとシンは別れた。
その短いやりとりは、瞬く間に城の中を駆け巡った。
噂好きな女官たちが囁き合い、他の愛妾たちが顔を見合わせ、やがて正妻の耳にまで届いた。
「クロ様とシン様、一体どのようなご関係なのでしょう……?」
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