第164話 二人の傑物
ワタシは刑将様からの依頼を受け、とある人物に会いに向かっていた。
数日前のことだ。
◇
「アビよ、聞いての通り、お前にやってもらいたいのはレジェンド勇者、チミの討伐——これが最大の目標だ。だが、この国の統一にはもう一人の協力が必要だ」
「もう一人?」
試合のあと、ワタシたちは改めて刑将様にもてなされた。
仲間たちは宴の食事を楽しんでいる。ワタシは刑将様から仕事の詳細を聞いていた。
「そうだ。魔勇者プロジェクトには、伝説の五勇者と呼ばれる存在がいた」
「五人もいるんですか!?」
「何を驚いている。そのうちの一人がブラックと呼ばれたお前だ、アビ」
(へ?そんなことになってるの?)
「いや、私は当時、本当に大した力もなくて……」
(そう、最初は食べていくだけでやっとだったのだが)
「ああ、相性の問題だろう。しかしあのレジェンド、チミを倒したものとして語り継がれているよ。そのあとも数々の冒険談が伝わっている」
(尾ひれがついているのか。困るんだが)
「そう、そのレジェンド。そしてお前とパーティーを組んでいた天才ジョカ」
(ジョカ、元気にやっているだろうか)
「そしてあと二人——魔勇者プロジェクトを破壊したガリョウとホウスウだ」
(初めて聞く名だ)
「この二人はお前たちとは別の場所で召喚された異世界人だ。お前たちは召喚士に反乱を起こしたそうだが、この二人も同じだ。そして強い勇者はコントロールできないと判断され、あのプロジェクトは消えていった」
「その二人はどんな人たちなんですか」
「ガリョウは神に近い解析スキルを持つとも、この世のすべてを解析できるとも言われている女だ。ホウスウは単純な戦闘力ならあのレジェンドやジョカをも上回るといわれている男だ。勇者ヨウトの再来とも呼ばれている。この二人はたった二人で支部を壊滅させた。なんとしても仲間にしたい。このいずれかが我が協力者になれば勝利はゆるぎない。しかし災王のやつも声を変えているに違いない。」
「居場所はわかっているんですか?」
「ガリョウははっきりしている。世捨て人のような生活を送っているからな。ホウスウも連絡先はわかるが、奴は話が通じない。まずはガリョウを当たってくれ」
◇
そういうわけで、ワタシはビゼン、ヨクトとともにガリョウの住まいへ向かっていた。
とある村の外れにそれはあった。
ちょっとした金持ちの屋敷という感じで、とんでもない人物が住んでいるようには見えない。
しかし、それは誤解だった。
「御用の方はここを押してください?なんだこりゃ?」
ヨクトが玄関で妙なボタンを見つけた。ボタンの横に、目のようなものがついている。
(これは、カメラ付きインターホンじゃないか!?)
こっちの世界でこれを再現しているやつがいるとは。
なるほど、ただ者ではないかもしれない。
ヨクトがボタンを押した。
ピンポーン、と例の音が鳴る。
「なんだ!?」
ヨクトとビゼンが周囲を警戒した。
「大丈夫だと思うけど……」
『はい』
インターホンから声が聞こえた。
「なんだ!?どこから声が!?」
「ここからだぞ!」
二人がインターホンを凝視する。
「ワタクシ、刑将様の使いで参ったものですが、ガリョウさんのお宅はこちらでよろしいでしょうか?」
ワタシはインターホン越しに声をかけた。
「ワタクシ?なんだその言い方」
ヨクトが突っ込む。
「異世界の玄関ではこうするのよ」
『あいにく主人は留守にしております。どのようなご用件でしょうか?』
「実際にお会いしてからお伝えしたいのですが——刑将様のところから参りました、アビという者、あるいはブラック勇者が来たとお伝え願えますか? 」
『わかりました。主人にはそのように伝えます』
そう言うと、インターホンが静かになった。
「なんだアビ、今のは!?どういう魔法だ!?解析できなかったぞ!?」
ヨクトが慌てて聞く。
「インターホンっていう異世界の道具よ。ワタシたちの世界ではだれでも使えたわ」
留守なら仕方ない。
居留守の可能性もあるが、ここは引き返すことにしよう。
◇
次に、ホウスウへの連絡を試みた。
連絡自体は冒険者ギルドを通じてあっさりとれた。
というか、冒険者ギルドがここにもあったことの方が驚きだったが。
(話が通じないとか言っていたが、どんなやばいやつが来るのか)
なお、シリュウにも聞いてみたが——
「うん、まあ、会えばわかるよ。悪いやつじゃない、むしろいいやつだ。レジェンドを倒すのは手伝ってくれるかもしれない。でもあいつが仲間になることはないと思う。まあ、急に襲われるようなことはないから、まずは会ってみろ」
なんてことを言っていた。
私たちは約束のギルドの貸会議室に向かった。
町で目立つのは刑将様の紋章だ。
この紋章はこの店が刑将様の庇護下にあることを示している。
つまり、この店に害をあたえるということは刑将様に歯向かうも同じなのだ。
無法の魔物の領地にもルールがある。
ルールは無法の町にもできあがる。
歓楽都市オアシスでもギャングのなわばりがある。
それはここでも同じなのだ。
もし、刑将様が死ねば、このあたり一帯はまた荒れるのだろう。
ワタシがいたころは、もっといろんな紋章があった。
その分、当たり前のように略奪や強盗があった。
金か力のないものは、死ぬか奪われるか、だれかの庇護に入るかしかなかった。
その中でもあのジョカは圧倒的だったけど。
それでもいくら強くても最初は食糧すら手に入れるのがむずかしかった。
そんな昔話を思い出しながら、ワタシとヨクトとビゼンは、約束の時間より一時間前に約束の場所、ギルドの貸会議室の前についた。
ホウスウというやつを先に観察するためだ。
しかしその目論見は、あっさり外れた。
ホウスウらしき人物は、すでに一時間前から会議室の前に立って待っていた。
やや赤みがかった黒髪の、見た目は好青年だ。
しかしワタシの勘が言っていた。
この世界、美男美女でろくなやつはいない。
クロや究姫がそのいい例だ。
壁を背にして立っているが、隙なく魔力感知を張っていた。
やつがこちらに気づいた。
ワタシは警戒し、精神防御を張る。
クロやアオなど、目線を合わせた瞬間に魅了や誘惑をかけてくるやつがいる。
油断できない。
するとやつは、予想外の行動に出た。
ペコリと、頭を下げたのだ。
ワタシも思わず反射的に頭を下げた。
——故郷式の挨拶をされるとは思わなかった。
「はじめまして。私は鳳雛、こっちの世界ではホウスウと呼ばれています。アビ・キョウカさんですね。本当はキョウカさんですか?」
「いえ、アビが名前で——」
って、なんだこれ。
好青年じゃないか。
いや、待て、焦るな。
これは巧妙な罠かもしれない。
だいたい丁寧語を話すやつにろくな奴はいないのだ。
ワタシは警戒を保ちながら、ホウスウとの対談に臨んだ。
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