第161話 四凶死翼と北の勇者
キ州、核兵器の爆心地。
ブンセッツの屋敷があった地、ギト。
現在は木々に覆われ、生命に溢れている。
クロとアオの奇跡から数日。ここでショウとアマンによる合同調査団が展開していた。
「カクト殿、何かわかりましたか」
ショウの調査団として、北の勇者カクトが参加していた。
「いや、何もないな」
カクトは杖をつきながらあたりを観察する。
あたり一面、木が生い茂っていた。鳥が飛び、草むらには虫の気配もある。
しかし、ほんの少し前まで、そこには数万の人間が生活していた。その気配はどこにもない。
(ショウ様からは何が起こったか見てきてくれとはいわれたが、変わりすぎていて、どう言えばいいかわからんな)
カクトはそう考え、思わず周りを見渡した。
(……!)
悪寒が走った。
(いる!この感じは……!?)
(奴だ。クロがこの近くに!?)
カクトは目線だけで周囲をうかがう。
(姿は見えない。しかし必ずいる。)
(わしからすべてを奪った邪神め。)
(何をしに来た!?)
カクトは元勇者と呼ばれた感覚を研ぎ澄ませた。
◇
アマンからは調査団としてエルフの魔導士リユウが派遣された。
(何の反応もない。つい先日まで人の住む街だったというのが嘘のようね)
リユウはそう思いながら、ショウの調査団の方に目をやった。
(あのカクトとかいう老人、数十年前は北の勇者とか呼ばれていたな。今はもう見る影もないが)
「リユウ姉、あの老人を知ってるのか」
カクトを見ているリユウに気づき、エイサイが声をかける。
「あいつは昔、勇者ヨウトが出る前は北の勇者と呼ばれていたんだ」
「そんなにすごいじじいなのか」
「まあ、すごかったといえばすごかったんだが……」
リユウは口ごもった。
「何かやらかしたのか」
「まあ、いろいろな。気になるのは、あの爺さんがなぜ今更出てきたかということだが」
「爺さんといってもリユウ姉より年下なんだろ」
「エルフの私と比べるのは違うだろ」
そんな軽口を叩いていたとき、突然空気が変わった。
爆心地に、何者かが転移してきた。
細身の男だ。魔術師のような格好をしている。
リユウとエイサイは兵に合図する。ショウの兵たちも同時に動いた。
「動くな!貴様、何者だ!」
リユウは男の周囲に有線苦無を放った。
瞬間、男の周りに魔法陣が描かれる。
「少しでも妙な真似をすれば黒焦げだ!何者だと聞いている!」
リユウはいつでも魔力を放てるよう構え、エイサイは弓を引いた。
エイサイの合図で封魔の網が投げかけられる。
「動くなといいながら、これはないんじゃないか?」
男がそう言うと、網が一瞬で消し炭になった。
「動くなと言った!」
リユウが魔力を込める。魔法陣はすでに発動していた。回避は不可能のはずだった。
しかし、魔法陣がガラスのように砕け散った。
「なんだと!?」
男はリユウたちに興味がなさそうに言った。
「残念だ。異世界の知識が得られるかと思ったが、何も残っていないな」
カクトは戦慄していた。
(クロではなかった。こいつだ。こいつが先程の気配の正体だ)
(しかし、何者だ。一歩間違えばここにいる全員死ぬか……!?)
万一の備えとして、クロ対策に数十年かけて練り込んだ必殺の術式を密かに準備する。
そのとき、もう一人、天空から人が降ってきた。
(あれは!?)
黒髪の長髪。
美女のような男。
クロだった。
◇
「手を出すな!あれは玄武竜様だ!」
リユウが敵味方の兵士に指示をだす。
「あれが、玄武竜様!」
兵士たちがどよめく。
クロは兵士たちを眺めて言う。
「人間たちよ、手を出すな。こいつは死翼——四凶の一人だ」
ざわ。
クロの言葉にショウの軍とリユウたちが再びどよめく。
「なんだ、玄武か。相変わらず妙な格好をしてるな」
死翼は異世界風の上着にスラックスを着たクロを指さして言った。
「これは異世界の衣装だよ。女物ではあるがね」
「なに!?」
その一言で死翼の目の色が変わった。
「そうなのか、いや、もっとよく見せてくれ。斬新なデザインだと思っていたんだ」
死翼がクロの服に手を伸ばす。
「やめろ、気色悪い!」
クロは死翼を振り払った。
そのやりとりを、人間たちはあっけに取られて見ていた。
「それより、お前だろ。チュウエイに異世界の兵器を渡したのは」
「違うよ。あいつが私の研究室に勝手に入って、勝手に盗んでいったんだよ」
死翼は不機嫌そうに言った。
「昔、究姫のやつが一度、あの人間を私の研究室に連れてきたことがあってね。そこで異世界の話をいろいろ聞かせてもらった。お礼に私も自慢の研究やコレクションを見せてやったんだ。盗んだのはたぶんその時だな」
「なるほどな。やつはいろんなスキルを持っていたからな。一度見たものを記憶するか、転写するスキルでも持ってたのかもしれん。ほんとにお前ら、ろくなことをしないな。で、ここには何をしに来たんだ?」
「放射線とやらの影響を調べたかったんだけど、すっかりなくなったな。玄武、お前の仕業か?」
死翼が不満そうにあたりを見渡して言う。
「おや?あの男、カクトじゃないか?」
死翼がカクトに気づいた。
「カクト?誰だっけ?」
クロが首を傾げた。
(おのれ、クロめ!オレを覚えていないのか!)
カクトは二人のやりとりを見ながら、怒りのあまり杖を握りしめた。
「ほら、ちょっと変わった強化系のスキルを持ってたやつだよ」
「ちょっと変わった強化系……ああああ!思い出した、あの○ンポ勇者か!」
クロがカクトを指さして言った。
「○ンポ勇者?」
エイサイとショウの部下たちが意味もわからず唖然とする。
「その……なんだ。カクトのスキルは、女を抱くほど自分と相手の女が強くなるというスキルだったんだよ」
リユウが少し言いにくそうに説明した。
「当時、やたらと女性を孕ませていて悪評もあったんだが、それ以上に強くなれるというので、女冒険者の多くがやつのもとに行った。おまけに四神の一人すら倒したらしい」
「まじか!?」
エイサイが驚いて老人を見た。
「しかし、あるときを境に急に噂を聞かなくなったんだが」
リユウがクロとカクトの二人を見る。
「そうだ!邪神クロよ!貴様はオレの大事な仲間をたくさん奪ったんだ!忘れたとは言わせんぞ!」
カクトはクロに杖を突きつけた。
クロは黙ってカクトを見つめる。
そして——
「すまん、どうしても思い出せん。たしかに、お前やお前のパーティーとは遊んだ記憶はあるが、…奪った?なんだっけ?」
クロが考えながら、真顔で答えた。
「貴様はオレの大事な仲間と、そして、オレの……!」
カクトは手に魔力を込めた。
「あ、ひょっとしてお前、仲間の女たちのこと‥‥」
クロが答える前にカクトの魔力が放たれた。
「これはオレがこの数十年、貴様を倒すためだけに溜めた魔力!あの白虎竜をも倒した秘術の数十倍の威力——その魔力の中で眠りにつけ!」
『螺旋封神波!』
「やばい!兵を引かせろ!」
カクトの魔力がクロを中心に渦を巻き、死翼とアマン・ショウの兵をも巻き込んだ。あたり一面が破壊と封印の魔力に包まれる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
続きが気になった方は、
ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!
SNSで拡散お願いします
やる気がでます




